チェイサー ~家で飲もう!「山崎と日本酒カクテル」~



 二日酔いの辛さを味わう度「もう二度と酒なんて飲むものか」なんて思うのに、気づけばスーパーのお酒コーナーに足を踏み入れてしまっているのは、酒飲みの悲しい本能だ。

 禁煙に悉く失敗していた同僚も、「馴染みのコンビニに行くとつい癖で買ってしまう」なんて喫煙所でぼやいていた。値上がりと喫煙所の少なさに嫌気が差して、俺はスッパリ辞めたからな。次会ったら得意げに言ってやろう。どんな顔をするだろうか。

 まあ、辞めた理由はそれだけではないのだが……。


 買い物を終えた後そのまま帰宅するのも味気ないので、ドライブがてら街中をあてもなく走らせる。BGMは九十年代頃の洋楽ロックバンドがほとんどだ。

 高校生の時に友人とバイト代をかき集めてCDを買い集め、各々のおすすめを持ち寄って貸し借りした。実家を出て一人暮らしをする時に、引っ越しの段ボールではなく当日持っていくリュックの中に真っ先に入れたのが、好きな洋楽アーティストのアルバムだった。

 車の中には好きなアーティストのCDが積んであり、ジャケットを眺めながら今日はどれにしようか、と考える時間が好きだ。若い世代からすればアナログなんだろうが、これが良いのだ。

 

 食品も積んであるので、早々に切り上げて帰宅。少し早いが晩御飯の準備に取り掛かる。

 まずはもやしを洗い、軽くひげ根をのぞく。熱湯でサッとゆでた後ざるに上げて粗熱を取る。

 その間に冷凍餃子をフライパンに並べて火をつける。最近はフタも油もいらないタイプの物もあるから重宝している。仕上りを待っている間に、もやしの水気を切って、しょうゆ、ごま油、にんにくチューブで和える。基本的に迷ったらごま油としょうゆを合わせておけばなんでも美味い。物足りなかったらラー油を垂らせばピリ辛でアクセントになる。

 焼きあがった餃子を皿に移せば、一人暮らしアラサー男の時短飯の出来上がりだ。普段外で美味い物ばかり食べているから、たまに自炊しなければ。


 そして冷蔵庫から取り出したのは、日本酒のミニボトル。悪酔いするから普段滅多に日本酒は飲まないが、一緒に飲んだ女性の顔が浮かんで思わず買ってしまった。あんなに若いのに、升に並々継がれた日本酒を顔色ひとつ変えずに飲んでしまうのだから、大したものだといつも思う。


 グラスに少し注いで、味見。美味い。だけど流石に続けて飲むのは難しい。そこで、飲みやすくするために日本酒のアレンジを試みた。

 氷を入れたロックグラスに日本酒45mlとライムジュース15mlを注ぐ。本当はライムを絞った方がより本格的なのだろうが、手軽さをとり、お酒コーナーにあったライムジュースを使うことにした。

 日本酒とライムジュースを入れたら、軽くかき混ぜる。

 サムライ・ロックという日本酒ベースのカクテルの完成だ。


 餃子を酢に胡椒を加えたタレにつけて一口。昔は専用のタレで食べていたが、最近は専ら酢胡椒だ。さっぱりとしていて丁度良い。サムライ・ロックをちびりと飲むと、ライムの爽やかな香りと酸味で、日本酒も飲みやすい。

 ナムルもつまみつつ、最近ハマっている芸人の動画を見ながら晩酌をする。丁度餃子を食べ終えたところで酒もなくなったので、皿を下げるついでに新しく酒を作るとする。


 サムライ・ロックも良いが、ふと思いついたのが「緑茶割り」だった。日本の美味いものに同じく日本の美味いものをかけて不味いわけがない。焼酎の緑茶割りだってあるくらいだ。

 グラスに氷と日本酒を入れ、緑茶を注ぐ。大体一対一くらいで良いだろう。緑茶の透き通った緑が夏らしい。

 試しに一口。緑茶の苦みが日本酒と混ざることで和らいだ気がする。お互いに邪魔し合うことはなく、すっきりとした味だ。これは刺身に合うかもしれない。


 ほろ酔いで日本酒を楽しみながら、次彼女に会ったら、今日の試みを話してみようかとぼんやりと思った。日本酒の味を楽しむ彼女にとっては邪道かもしれないが、たまには別の楽しみ方もある。話のネタをひとつ思いついて、無意識に口元が緩むのであった。

 

 

 

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