10-4
歌って大いに盛り上がり、アルバイトが作ったであろう酒を「薄い!」とか「濃い!」とかばか騒ぎしながら飲んだ二人は、すっかり出来上がっていた。
締めは、二人仲良く肩を組んで「蛍の光」を歌った。
「誰だよこの曲入れたやつ」
「山崎さんですよ~!」
「俺はまだぼけてない!! あんただ犯人は、音程の秩序を乱す者め」
「私は全てを一から作り変えてるんですう~」
安い酒を流し込みすぎて、視界がぐらぐら揺れる。まるで脳みそごと、揺らされているみたいに。
玲は音楽に合わせて揺れたつもりが、大きくバランスを崩してヒールの底を滑らせた。
「ひゃあっ!?」
「おわっ!?」
横からなだれ込んだ玲を瞬時に片腕で受け止めた山崎は、すんでのところで倒れそうになり、なんとかソファの端に腕をかけた。
玲は咄嗟にぎゅっと目をつぶり、近くにあったものしがみつく。次に目を開けると、山崎の胸元に思い切り抱きつく形で転倒を免れていた。
慣れ親しんだ、ほろ苦さを含む爽やかな香りが鼻をくすぐる。背中に回された腕から感じる体温。シャツ越しには自分のものではない心臓の鼓動が聞こえる。
見上げると、咄嗟の事で状況が飲み込めず、目を見開いて固まっている山崎と目が合う。そしてしばし沈黙。
酔いのピークが頂点まで行った二人は、そこで一気に急降下するジェットコースターのような気分を味わった。
「すみません!! 酔いすぎましたすみません!!」
「お、おう。気をつけろ、破壊神!」
お互い飲み過ぎたため、その後はあっさりお開きとなった。
***
(いい歳して酔ってはしゃいで……うう、恥ずかしい)
カラオケで散々はしゃぎ、挙句の果てにちょっとした事故を経験した山崎と玲は、
翌日久々の二日酔いでダメージを受け互いに「もうしばらくお酒はいいです……」「わかる」と反省したのだった。
「っくしゅん!!」
「大丈夫ですか?」
千田との関係も、あれ以降ぎこちなさはなくなり、表面上は元の関係を保つことができていた。
ある日の午前、千田と会社の倉庫を整理していた玲は、くしゃみで手を止めた。すかさず千田が作業を中断して心配そうな表情で振り向く。妹の紬との出会いを経て、徐々に千田の兄の部分が垣間見えるようになった。告白された手前、それがなんだか気恥ずかしい時もあるのだが。
埃っぽく狭いコンクリート張りの室内はひんやりとしており、ちょっとした秘密基地のようだ。
「なんか埃っぽ……、くしゅっ!!」
さらに続けて二回ほどくしゃみをした玲を見かねて、千田がスーツのポケットからティッシュを差し出す。軽く礼を言って鼻水をかむ。
「ずっと放置されてたからかなり埃っぽいですよね」
「さっさと終わらせて戻ろう」
課長の思い付きでしばらく手つかずだった倉庫の掃除と整理を任された二人は、その後黙々と作業を進めた。
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