10-2


 「山崎さん、料理来ましたよ」

 「ふ、だから顔が真剣すぎるんだよっ……!」

 

 前菜として選んだのはパプリカやズッキーニ、ヤングコーン等色とりどりの野菜のピクルス、カリッと焦げ目がつくまで焼いた厚切りベーコンが贅沢に乗ったポテトサラダ。

 二人は、キンキンに冷えた緑色の瓶ビール、ハイネケンでまず乾杯した。癖が無いライトな飲み口と、強めの炭酸が苦みと共に喉を通っていく。


 「山崎さん、このポテトサラダ犯罪です。二十歳以上推薦の美味しさです」

 「うん、美味い」

 「ピクルスもさっぱりして丁度いい~」

 「夏だな」


 食レポ担当の玲が八割感想を述べ、山崎はそれに二割くらい返しながら黙々と食べる。

 丁度前菜で落ち着いた頃に追加で、スモークサーモンとローストビーフのブルスケッタ。外はカリカリ、中はふわっとなるように火を通したパンに、スモークサーモンやローストビーフが色鮮やかに盛り付けられている。


 「これはワインが合いそうですね~」

 「だな」


 玲はまずスモークサーモンのブルスケッタを手に取る。チーズとオリーブがトッピングされていて、チーズのまろやかさとサーモンが纏う燻製の香りが口の中で溶け合って広がる。山崎はローストビーフのブルスケッタを「これはやばいな……」と漏らしながら食べていた。


 「まだいけるか?」

 「もちろんです」

 「まあ無理はするな」


 続いてじゅうじゅうと肉が焼ける香ばしい匂いと共に、料理が次々と運ばれてきた。

 メインはスキレットの中で湯気を立てるカットステーキ、トマトとバジルの冷製ジェノベーゼパスタだ。ミニトマトとモッツアレラチーズがころんと乗っていて可愛らしい。


 いつもは淡々と落ち着いた様子で食べている山崎も、よほど疲れていたのかいつもよりも食べるペースが早い。


 「やっぱ疲れには肉だわ」


 (私と似たような事言ってる……)


 つい先ほどまで、六花で「夏バテには肉だな」と肉料理を食べていた玲は、内心山崎の独り言にツッコミを入れた。


 「なんか山崎さん、顔はやつれましたけど、なんかスッキリした顔してますね」


 インターバルを挟んで水を飲みながら、ふと山崎の顔を見て思った。前会った時に比べると、憑き物が落ちたような、穏やかな表情になったような気がする。

 玲の視線に気が付いた山崎は顔を上げて、斜め上を睨むようにした後「ああ……」と思い出したように呟いた。


 「春先から抱えてた問題が一旦落ち着いたからかな」

 「春にこっちの本社に異動したって言ってましたもんね」

 

 慣れない環境で色々と大変な思いをしたのだろう。目の前でもりもり肉を平らげていく山崎を見て、玲はなんだか安心したのだった。


 「色々大変だったんですね。お疲れ様でした」

 「玲さんは?」

 「私ですか?」


 ステーキを咀嚼しながら、山崎が頷いた。


 「たまに心ここにあらず、みたいな顔してるけど」

 「えっ」


 お見通しという事か。六花の面々にも「わかりやすい」としょっちゅういじられる玲だったが、山崎にも見抜かれてしまっている。

 確かに、会話の合間に千田との出来事がふと頭の中をよぎっては、食べることで紛らわして消す、こんなしょうもない事を繰り返している。告白の件については、二人で話をして一件落着のはずだったが、全く無かったことには出来ずにまだ心の中に残っていた。


 「なんかいつもに増して食べるなと思ったけど、ヤケ食いか?」

 「なんか一言多いんですよね」


 青筋を浮かべる勢いで、わざとらしく笑顔で言い返す。山崎も素直に「悪かったって」と両手をあげた。


 「なんかあった?」

 「それがですね……」

 

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