8-4
「え、見ていいのこれ……」
紬にスマートフォンを渡され、罪悪感を抱きつつも画面に目を向ける。
「これ、千田さん?!」
「そだよ~、昔のおにい」
卒業式だろうか。大学の門の前で紬と並んで写っているのはスーツ姿の千田だ。パッと見では気が付かないが、ふっくらした柔らかそうな頬や目元はなんとなく千田の面影があった。
勝手に過去の写真を見られるのは嫌だろうと思い、玲は画面を閉じて紬にスマートフォンを返した。
(でも、なんだか見覚えがある……)
玲の脳内にぼんやりと昔の千田の顔が浮かび上がる。
(もしかして、あの時の……!)
もう色あせてうっすらとしか思い出せない、会社説明会のあの日。千田はそこで初めて玲と出会ったと話していたが、玲自身はそれらしき人物と会った覚えが無かった。
その謎が、今やっとはっきりつながった。
『失敗続きの僕も、あなたみたいになれますか?』
額に汗を浮かべて、おずおずと玲に相談してきた一人の男子学生。おぼろげな記憶の中の彼と、写真で見た千田の面影が重なる。
(あの子だったんだ……)
「めっちゃ変わったよね、おにい。あ、本人には内緒ね」
「かわいそうだからあんまり見せないであげてね……」
紬はスマートフォンと充電器をつなげると、勢いよくまくらに頭を預け、仰向けになった。
「憧れてるっていってもさ、ふつーあんなに激ヤセするまで頑張るかな? 紬は玲さんに一目惚れしたからだと思ってる」
「そうかな……?」
玲は苦笑いを返す。
「でもおにい、いきなり玲さんはかなりハードル高いと思うんだよね~」
「え!?」
「いちお兄だから応援するけど~、おにいをどうするかは玲さんの自由なんで。どうぞ煮るなり炒めるなり? してください!」
「それを言うなら煮るなり焼くなり、じゃない?」
勝手に話を進める紬についていけず、玲はかろうじてツッコミを入れることしかできない玲だった。
***
それから色々と話をしているうちに、気が付くと二人とも眠ってしまっていた。
カーテンから差し込む光でで、玲は目を覚ます。
「なんか、うごけな……」
上手く体を動かせず横を見ると、気持ちよさそうに寝息をたてる紬にがっちりと腕をホールドされていた。玲の右半身は紬によって完全に抱き枕にされており、右足には紬の滑らかな両足が絡みついていた。
起こさないよう、慎重に腕をはずそうとすると、より強く抱きつかれる。
紬が身じろぎした瞬間、Tシャツから無防備な胸元が露わになり、玲は慌てて胸元を直してあげた。ちなみに玲の右腕は紬の決して控えめではない胸元に引き寄せられており、柔らかな感触に挟まれていた。
(千田家って肉付きいい家系なのかな……?)
不謹慎ながらも、玲は兄妹に挟まれてそんなことを思った。
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