8-3


 布団はセットしたもののまだ寝るには早い時間なので、三人で他愛もない話をしていると、何か思い出したように紬が「あ!」と人差し指を立てた。


 「おにい、玲さんにおもち紹介しなきゃ」

 「おもち?」

 「おにいの唯一の友達だよ。ほら、おいで~」

 「唯一って……。出してもいいけど、あんまりびっくりさせるなよ」


 玲が部屋に入った時に薄々気になっていたケージから、紬が何やら小さな生き物を手に乗せて玲の前に持ってきた。


 「はい。おもちだよ~」

 「か、かわいい~!!」


 紬の小さくてふっくらした手のひらには、拳一つ分に満たないくらいの白いハムスターが乗っていた。

 ピンク色の手で顔をこすると、つぶらな瞳でしきりに辺りを見回している。

 紬から玲の手のひらに移動させると、暖かくてふわふわした感触に幸せな気持ちになった。


 「にしてもこんだけ会社に近くてペット可の物件って、家賃結構するんじゃない?」

 「あ、叔父が不動産やってて、ちょうどいい所を紹介してもらったんです」

 「そうなんだ~」


 紬におもちを返し、千田がおもちの魅力についてプレゼンをしている間に良い時間になったので、各自歯磨きなどをすませ布団に入った。


 「えへへ、なんか修学旅行みたい~」

 「紬、明日朝早いんだろ? 玲さんも仕事なんだからあんまり迷惑かけるな」

 「おにいうるさいほんと、おかんみたい。朝弱いんだから早く寝てください、ばいばーい」

 

 千田は「玲さんも、遠慮なく言ってくださいね!」と厳しい顔で忠告すると、「おやすみなさい」と言って布団を被ってしまった。すると疲れていたのか、ややあってすうすうと穏やかな寝息が聞こえてくる。紬はその様子をみてくすくす悪戯っぽく笑うと、玲に向かい合って声を潜めた。


 「おにいさ、前まで超デブだったんだよ」

 「え?! そうなの」 

 「なんか去年から鬼ダイエットし始めて激ヤセしたからびびった」

 「何があったんだろうね」


 玲も近所迷惑にならない程度に、こそこそと聞き返す。

 すると紬はベッドの上の様子を伺ってから、玲にこっそり耳打ちした。


 「多分玲さんのことだと思うよ」

 「えっ!? 私っ!?」


 思わず声が大きくなりかけて、慌てて両手で口を覆った。


 「なんかあ、就活の時に会った先輩に憧れて~とか酔いながら言ってた」

 「そ、そうなんだ」


 千田が自分に対して憧れを抱いていることは知っていたが、まさかそこまで影響しているとは思わず、むずがゆいような気持ちになる。


 「てかおにい、憧れ~とか言ってるけどぜったい玲さんの事好きだとおもうんだよね~」

 「!?」

 「ライクじゃなくてラブのほうだよきっと。ガチの方」


 驚く玲を余所に、紬はスマートフォンを取り出してなにやら探し始めた。ラメが入ったクリアケースの中には、若者の間で大流行している韓国の男性アイドルの写真が貼られている。


 紬が「あった!」といって画面を玲に向ける。それは一枚の写真だった。

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