8-2
紬が卵をセットし終わると、いよいよ最後の仕上げだ。
「紬、お皿にチキンライス盛って」
「りょ」
紬が五合炊きの炊飯器を開けると、キッチンにふわりとおいしそうな香りが漂った。
「わあいい匂い~」
「見て! 玲さん、いい感じじゃない?」
炊飯器の中をのぞけば、細かく刻まれた鶏肉やコーン、ピーマンなどが鮮やかなオレンジ色のライスに散りばめられていた。ざく、ざくと紬が細い腕で一生懸命にお米を混ぜ、皿の上にこんもりと島を作る。
「あ、私じゃあこのお皿持っていくね」
「ありがとうございます~!」
玲はライスが盛られた皿を千田の所へ持っていく。
千田は溶き卵を熱したフライパンに勢いよく流し込むと、手慣れた様子でかき混ぜていく。するとフライパンの中にプリンセスのドレスのような渦ができた。芸術作品のような出来栄えだ。
「わあ……千田さん上手だね」
「うちは包むんじゃなくて乗せるタイプなんです」
玲が感嘆の声を漏らすと、千田は照れ笑いを浮かべながらそう答えた。手元に視線を戻すと、手際よくチキンライスの上に乗せた。
同じ作業を繰り返し、三人前のオムライスが完成した。
「いただきま~す!」
「いただきます」
「召し上がれ~」
折り畳み式の簡易テーブルいっぱいに、三人前の料理が並べられる。エプロンをはずした千田が戻ると、皆で元気よく手を合わせた。
半熟卵のベールをまとったチキンライスに、スプーンをそっと差し入れる。ふるふるした卵の布団をかぶったチキンライスをふうふうと冷ましてから食べる。
「おいしい~!」
「おにい最高」
「よかった~」
口に入れた瞬間、とろとろの半熟卵がバターの風味と共に口の中でとろける。チキンライスはケチャップとコンソメでしっかり味付けされており、ぷちぷちとコーンの食感が楽しい。紬も幸せそうに頬に手を当て、花が咲くような笑みを浮かべている。
新鮮なレタスとトマトのサラダは、千田特製のドレッシングをかけて食べる。マヨネーズベースのドレッシングはレモンと合わせており、すっきりした後味だ。
「ドレッシングも千田さんが作ったの?」
「市販のドレッシングって気づいたら賞味期限過ぎてること多くて……」
「マヨネーズと~オリーブオイルと~レモン? 紬も覚えた~」
「あと黒コショウとかマスタードを入れてもおいしいです」
「へえ~おしゃれ~! 今度やってみよっかな」
三人で団らんの時間を過ごした後、協力して手早く片づけを済ませ、後は寝るだけとなった。
テーブルを折りたたんでしまい、空いたスペースに布団を並べる。部屋の端に千田が普段使っているパイプベッドがあるので、高低差がある川の字状態だ。
「千田さん本当にありがとうね。泊めてもらっちゃって」
「いえいえっ! 吉井さん、布団じゃなくてベッド使ってください」
「え~! おにいの男くさいベッドに玲さん寝せるの? ありえん」
「シーツはちゃんと替えてるだろ!」
「いいよ千田さん、女子二人で下に寝るから」
すっかり兄妹のやり取りにもなじんだ玲は、紬と目を合わせた。紬は満足そうに「そゆことなんで」と千田に勝ち誇ったような視線を送った。
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