7杯目 トラブル続きに労いの缶コーヒー
7-1
デスクに戻ると、沢渡は出張の準備に入ったのかすでに席にはいなかった。
相変わらず課長はどこかへ姿を消しているし、部長は沢渡の出張に同行するため午後は不在だ。そして最も厄介な事といえば……。
(米村さん、よりによって有休でいないし!)
米村は今日明日休みをとって顔を合わせることがないのだ。どこをいじったのかさえわかれば、少しでも助かると思ったが。
(問い詰めたところでどうせ上手くはぐらかされるだけだろうな)
今までの経験上、「そうだっけ? ごめんねえ」と流されるだけだ。米村は最年長ではあるが、この部署に配属された年数は玲とさほど変わらないらしい。パソコンの操作に慣れていないのか、ちょくちょく大なり小なりこういったミスは起こっていた。
周りのサポートがあるからなんとかなっているものの、本人に責任を感じる様子は見られない。最初は沢渡もそれとなく米村に注意していたらしいが、あまりにも改善の余地がないことを察したのか、諦めモードだ。部長がそこに介入するはずもない。
(それにしても、なんで私ももっと早く気が付かなかったんだろう、バカ!)
(もっと事前に対策できたはずなのに……)
(だめだ、うだうだ言ってても何も進まない!)
とりあえず、ノートパソコンを立ち上げ、問題のファイルを開く。
(すぐ直る程度であって……!)
そう願いながらファイルを開き、米村の担当に当たる欄を確認する。広大な畑にも思えるたくさんのマス目から、見たいデータだけを抽出する。
「……ん?」
数字の羅列の中で、何故か米村の欄だけが真っ白になっている。つまり何も入力されていないということだ。
(沢渡さんが入力前の状態に戻したとか? いやそれはない)
頭の中にハテナマークが浮かぶ。一旦そこは置いて置き、沢渡が話していた、「ぐちゃぐちゃになっている」部分を探すことにした。
ぐちゃぐちゃになっている、つまり想像がつくのはあらかじめ設定しておいた式が壊されたというケースだろう。以前誰かが嘆いていたのを耳にした。
「あった……」
いくつか、セルがエラー表示になっているのを見つけた。ここの原因がわかれば、元を辿ってどこがおかしくなっているのか探せる。
原因を辿っていくと、エラーの原因は沢渡が入力した欄だった。おそらく式が打ち込んであるところも、その上から手打ちで数字を打ち込まれているため設定がおかしくなっている。
(おかしいな……、沢渡さんがそんなことするわけない)
そこで、あることが脳裏によぎった玲は、米村が入力する以前に紙に出力していた同じ表を出した。画面上のものと見比べる。
(やっぱり!! 米村さん、沢渡さんが入力したところに間違って上書きしてるしー!!)
紙のデータと、画面上のデータが丸々違う数値になっている。そして米村の欄が空欄ときたらビンゴだ。
(もうこうなったら、前回のバックアップ時のデータを復元して、米村さんのとこだけ打ち直そう! いちいち式直してたら埒が明かない)
目標が定まると玲は画面上に集中し、時間を忘れてキーボードを打ち始めた。
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