チェイサー ~玲と石本の出会い~


 土曜日。世間一般の会社員の休日。

 ピピピ、と規則正しい電子音で、玲は目を覚ます。朝6時。いつもなら眠気をこらえて会社へ行く支度を始める時間。だが、今日は違う。単にアラームを解除するのが面倒でそのままにしていただけだ。

 玲は寝ぼけ眼でスマートフォンの画面を連打した。ひたすら鳴り続けていた電子音は玲の猛攻撃を受けて大人しく止む。


 数時間後、徐々に覚醒してきた玲は、しばらくベッドの上でスマートフォンをいじった後、すくっと起き上がる。歯を磨き、顔を洗い、部屋着のTシャツとショートパンツに着替えた。そのまま気合と勢いで洗濯や部屋の掃除を終えてしまう。

 そうこうしているうちに昼頃になったので、朝昼を兼ねてパンを食べながら、録りためた番組のストックを流してぼうっとする。

 お気に入りは、サラリーマンの中年男性が一人で都内のランチを淡々と食べ歩くドラマと、渋めな年配の紳士が居酒屋を探訪する番組だ。美味しそうなご飯やお酒が登場するから、飽きない。そして心臓に悪い事件や人間関係のドロドロもないから安心して見ることができる。日々仕事に追われて疲弊した精神に丁度良い。


 (これじゃ同世代と話合わないよな~)


 玲には、石本以外に特段仲の良い同僚はいない。知り合いはいるが顔を合わせれば軽く挨拶をする程度だ。

 入社して間もない頃、まだ右も左もわからない中で、新入社員が肩を寄せ合いとりあえずのグループができる。玲もなんとなく、最初は同期入社の仲間たちと洒落たランチに行ったり、飲みに行ったりして親交を深めようとした。しかし、話題の中心は会社や上司の愚痴や、誰々がカッコイイ、もうあの二人は付き合った、等毎日似たような話の繰り返し。

 いい加減飽き飽きしてきた頃、ついに理由をつけてカフェのランチを断り、玲は一人、社員食堂へ向かった。席を探してあちこち見回していた玲は、ある人物に目が留まる。それが石本だった。

 彼女は背筋をスッと伸ばして、一人でテーブル席の端に座っていた。長い髪を束ねて、リクルートスーツに身を包んだ姿は、おそらく同じ新入社員だろう。淡々とサラダうどんを食べる彼女の視線は目の前のスマートフォンに注がれている。画面上では数人の若い美少年達が歌って踊っていた。なんだか邪魔をするのは腰が引けたが、ちょうど彼女の隣しか空いていなかったため、相席を申し出たのが始まりだった。


 『ランチとか飲み会とか、そんなくだらない馴れ合いにお金かけてられないから』


 後に熱狂的なアイドルオタクであることが判明した石本の口から放たれた言葉に、玲は衝撃を受け、それ以降なんだかんだ馬が合うのでつかず離れずの付き合いをしているのだ。

 酒とアイドル。それぞれ全く別の世界を極める二人はこうして出会ったのだった。

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