5-3
最初はがちがちに肩を強張らせて助手席に座っていた玲も、山崎と雑談するうちに次第に緊張がほぐれていった。
車を走らせること数十分。目的地に近づくにつれ、街路樹が背の高い南国調の木々に変わり、向こう側に海岸線の煌めきが見えるようになった。
玲達が向かっているのは、とある海沿いの公園だ。季節の花々が咲き誇る公園や水族館、レストランが併設した休日のドライブにはもってこいのスポットである。メッセージアプリで連絡先を交換していた山崎と、事前にどこへ行くか打ち合わせていたのだ。
「どこ行きたいって行ったら真っ先に『癒される場所……ですかね』とか、年寄りみたいな事言うし……」
「日々仕事に追われた社会人に癒しは必要じゃないですか! 自然とかっ」
「はいはい」
敷地に入ると、家族連れやカップルがあちこちで楽しそうに自然を満喫していた。
「駐車場空いてて良かったですね」
「ああ。とりあえず先に飯にしよう」
「ですね。あそことかどうですか?」
レストラン等の飲食店が集まるエリアで、玲が気になったのはテラス席があるレストランだった。晴れた空の下で、海風を感じながら食べるランチは憧れがある。
丁度タイミング良く混み始める前だったため、運よくテラス席を確保することができた。
玲はデミグラスソースがたっぷりかかったハンバーグに、半熟の目玉焼きが乗ったロコモコプレート、山崎はとろとろに煮込まれた野菜と牛肉のブロックが贅沢に入ったハヤシライスをそれぞれオーダーした。
「いただきます~」
まずはハンバーグを一口。本格的なハンバーグの味だ。しっかりした牛肉の旨味と肉汁があふれ出る。デミグラスの濃厚な甘さも相まって、固めに炊かれたライスが進む。ぷりっとした半熟の黄身の部分をつ、と崩してハンバーグと一緒に口に運ぶと、とろりとしたまろやかな味になる。
山崎は、目の前で幸せそうにハンバーグと半熟卵のマリアージュを楽しむ玲を見て、ふ、と笑みをこぼした。
「最高に美味しいです」
「だろうな。見ててわかるわ」
「え、そんなに出てます?」
「うん、すごい美味そうに食べてるから」
さも当たり前、というように、頬杖をついてこちらを見つめる山崎。
ふと、先日六花でも雪子と鍋島の前で同じような事を言われた気がして、玲は思わず手を止めた。年甲斐もなく、だらしない顔で食い意地を露わにしているようで恥ずかしい。気持ちを紛らわすようにグラスの水をぐい、と流し込む。
「もっとおしとやかに食べてるつもりなんですけど……」
「いいんじゃない、別に恰好つけなくて」
「そうですかね……」と俯きながら、ちらりと山崎を盗み見る。伏し目がちに牛肉を乗せたハヤシライスを口へ運ぶ山崎の動作はいつも落ち着いていて、「大人の男性」そのものだ。ここはどこぞの高級ホテルのレストランかと錯覚してしまう。
玲の視線に気が付いた山崎が「何?」と顔を上げた。
「食べたいの? 俺のやつ」
「いえ、そこまでの食い意地は無いです……」
あまり食べ物ばかりに夢中にならないように、と注意しながらぎこちなく食べ始める。その様子に気が付いた山崎は小さく溜息を洩らした。
「絶対気にしただろ、さっきの」
「なんかいい歳にもなって恥ずかしいなって……」
潮の香りをのせた海風が吹いて、玲の髪を乱した。山崎はスプーンを置くと、一房だけ玲の顔に張り付いた髪の毛を取り除いてやる。クリアになった視界で、山崎の瞳と視線がぶつかる。
「見ててなんか安心するからそのままでいい」
そしてそれだけ言うと、わずかに残ったハヤシライスを綺麗に完食してしまった。
(山崎さん、なんでもズバズバ言うけど、こういうのはずるいのでやめていただきたい……!)
涼しい顔で食後のドリンクを頼む山崎を尻目に、玲は内心毒づきながらハンバーグの残りにとりかかった。
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