5-2


 ついに約束の日がやってきた。

 玲は自宅近くの待ち合わせ場所で、山崎の到着を待っていた。心なしか、顔が強張っており、バッグを持つ手も力が入っている。

 「最初から気合いれすぎると大変よ」という鍋島のアドバイスの元、服装はいつもの休日らしくカジュアルめにそろえた。デコルテを出したTシャツにオーバーサイズの白いワイシャツ、そして初夏らしい淡い緑のロングスカート。足元は歩きやすいようにシンプルなスニーカーだ。


 「いつも通りだけど、一つだけいつもと違うところを入れる」最後に鍋島が教えてくれたポイント。いつもパンツスタイルの玲が選んだのは、裾が広がらずストンと落ちたプリーツスカート。これなら自分のスタイルに合わせても違和感がない。


 (はあ、なんかドキドキしてきた……)


 玲は待ちながら、山崎とのこれまでの出来事をひとつずつ辿った。まず、最悪な出会い。酔っぱらった玲を無事家に送り届けてくれた山崎。その後、再会して、出会って間もないのに意気投合して、気づいたら二人で出かける約束までされて……。


 「お~い」

 「ひゃっ!?」

 「お待たせしました」


 久しぶりに聞く声だ。少し見上げると、片方の頬を上げて面白そうにこちらを見ている山崎と目が合った。

 ぼうっとしていて、山崎がとっくに到着しているのに気が付かなかった。それもそうだ。いつも仕事の時はしっかりまとめている前髪を下すと、少し若者っぽさが出てまた雰囲気が違う。今日は白い無地のTシャツの上に、薄手の黒いシャツジャケットを羽織っている。


 「車酔いとか大丈夫?」

 「あ、はい大丈夫です」


 約束通り、山崎は待ち合わせ場所に車で迎えにきた。メタリックな黒いボディが陽の光を受けて反射している。よくCMでも見たことがある国産メーカーの乗用車だった。荒野や雪山を走っている映像をよく見る、タフそうな見た目の車だ。


 「ごめん、後ろ色々積んでてあれだけど」

 「いえいえっ、お願いしま~す……」

 

 そう言って助手席のドアを開けてくれる。ふと気になって後ろの座席を見れば、トランクのスペースに長い筒状のケースや大きなバッグが積まれているのが見えた。

 玲の視線に気づいて、山崎が運転席に乗り込みながら言う。


 「北海道いる時によく釣りとかスノボしたりしてて、車ごと持ってきたから」

 「なるほど」


 シートベルトを回しながらうなずく。自然豊かな北海道なら、アクティビティも豊富だろう。


 「玲さんはこういうのやった事ある?」

 「出身が雪国なのでスキーとか、釣りも昔父親に連れられて何回かありますね」

 「お、流石」 


 たわいもない話をしながら、二人を乗せた車は静かに走り出した。

 

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