4-3
「それでは皆様、準備はいいですか~?」
「は、はいっ!」
「うい~」
乾杯の合図で大小さまざまな三つのグラスがからん、と軽くぶつかり合う。
石本、玲、千田の三人は早速仕事終わりにとある大衆居酒屋の座敷でリベンジ歓迎会を開催していた。
石本はレモンサワー、玲は辛口淡麗の日本酒、そして千田はというとノンアルコールのカシスオレンジである。
「あの、僕本当に来て良かったんですか……?」
「いつもうちの吉井にビリビリいびられてるんでしょ~。今日は思いっきり飲んで愚痴を吐き出しなさい!」
「いや、本人いますが……」
グラスを両手で持って肩を強張らせる千田に、石本がジョッキを片手に背中を叩きながら言った。ちなみに背中を叩かれているのはなぜか玲で、顔を引きつらせている。
「玲は入社した時から本当に真面目でストイックだからさ、千田君に同じことを求めてないか心配なのよ」
「うっ……ふさがりかけた傷が」
「何? 傷?」
傷というのは紛れもなく山崎とのファーストコンタクトの飲みである。その件については玲もしっかりと色々反省し、千田への接し方を改めつつあった。
「吉井さんはすごい人なので、僕も早く追いつけるように頑張ります」
「後輩のお手本みたいなセリフね。吉井まさかあんた無理やり言わせたんじゃ」
「パワハラにはめちゃくちゃ気を配ってます~! 千田さん唯一の男性社員だから。肩身狭いだろうし……」
玲がぼそぼそと続けている間に、石本はとっくに届いた料理を取り分けている。それに気づいた千田は「僕がやりますっ」と言って石本とトングの奪い合いを始めた。
「千田君! あんたは主役なんだから座ってなさい!」
「あ、はいっ」
石本の迫力に気圧されて、千田はおとなしく座布団の上に正座する。玲はその様子を遠巻きに眺めながら鶏皮のから揚げと日本酒を交互に流し込んだ。若い面子が揃うと、から揚げやフライドポテトといったジャンクなメニューが多くなる。こういう時は日本酒より生ビールかハイボールが無難だと一人内省をしていた。
「そういえば千田君、下の名前は何ていうの?」
「えっと、薫(かおる)です」
「え~かわいい名前~!」
(完全に石本の「愛でモード」に押されてる……)
だんだんと眉を八の字に下げていく千田に同情心が沸いた玲は、メニュー表を千田に渡した。
「次、何飲むの? 同じやつ?」
「あ、そしたら、シャンディガフにします」
「へえ~薫君お洒落なお酒知ってるね」
「石本、なんか発言がおじさん臭いから」
石本を諫める玲に、千田は何か言いにくそうにもじもじした後、長いまつげを伏せた。
「吉井さんが、あの日僕を助けてくれた時の……」
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