4-2
「そういや、千田君は今年から吉井の部署に来たんでしょ? 歓迎会は?」
普段のトーンに戻った石本が問う。千田は入社二年目の春に玲の部署へ異動してきたばかりだ。石本の素朴な疑問に対し、玲は周りを気にしながら石本にそっと耳打ちした。
「石本、うちのメンバー知ってるでしょ……! 本当に形ばかりの小ぢんまりよ」
「あ、そっか、ごめんごめん」
玲の部署は元々人数が少なく、玲が最年少の部署だった。その上個性も一人ひとり強烈であり、メンバーの詳細はこうだ。
まず部長。無口で普段から面倒事には首を突っ込まない主義。(特に人間関係)いざ頼りたい時には大体窓の外を眺めている。先輩たちにはもっぱら「天下りかコネでは?」とまことしやかに囁かれている。
米村さん。最年長の五十代。年長者でありながら責任の重い仕事から逃れることを得意とする。おっとりしており日和見主義。いつもどこからかお菓子の差し入れを調達してくる。
沢渡さん。四十代で独身を貫くバリキャリ。部署内で一番仕事が早く正確。時々玲の事を気にかけ仕事を手伝ってくれるが、裏の顔は部署内随一のゴシップ好き。油断すると自分もゴシップにすっぱ抜かれるため、あまり借りを作らない方が身の為。
その他は派遣社員の人達で構成されており、特にキャラが濃いのは米村と沢渡である。二人の仕事スタイルは相反するものだから、何かと水面下で火花が散っているのを何度か目の当たりにしている。
「彩さんがいた頃はなんとかまとまってたけど、今はなんか無法地帯というか……」
「あやさん?」
「吉井の一個上の先輩。結婚、妊娠、旦那さんの転勤のトリプルで退職しちゃってね~」
玲が部署に来たばかりの頃は、「彩さん」という若い女性が積極的に彼女達に働きかけて部署内の空気を明るくしていた。
決して媚びたりせず、持ち前の人の好さと要領の良さで上手くメンバーをまとめ、誰からも好かれる存在だった。もちろん、後輩である玲にも目を配り、フォローも欠かさなかったため、玲は彩さんを尊敬していたし憧れの存在だった。
「吉井、あんたが次の彩さんになるのよ!」
「わ、私!?」
「そう、そのためにも……」
石本に無茶ぶりを振られ、驚く玲に石本はフォークを玲に向ける。
「千田君の歓迎会、リベンジするよっ!!」
「ぼ、僕のですか!?」
「ちょっとフォーク向けないでよ(あんた千田と飲みたいだけでしょうが……)」
玲の冷たい視線をスルーして、石本は思い出したようにパスタを食べ始めた。春野菜をふんだんに使ったヘルシーなペペロンチーノは色鮮やかだ。相変わらずお洒落とヘルシーを両方取ったメニューを選ぶのが上手い。
ふと隣の千田のお盆を見て玲は驚愕の声を上げた。
「千田さん!? それだけでお昼足りるの!?」
「あ、大丈夫です……」
千田のお盆の上には、サラダボウルがぽつんと置かれているだけ。かろうじてサラダチキンが乗っているから腹は膨れそうなものの、成人男性の昼食にしては寂しすぎる。
思わず自分がすでに半分食べた油淋鶏定食と見比べてしまった。
(いや、あんまり若い子の食生活に突っ込むとおばさん臭いな……。詮索しすぎるのもパワハラっぽいからよそう……)
草食動物のように緑で溢れたサラダを美味しそうに頬張る様子に、飲み会ではたらふく食べさせないと……と玲は母性に似たものを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます