3杯目 リベンジは甘美なサングリアと共に
3-1
「もし、まだ帰ってないなら、外で会えますか?」
電話を切った後も、心臓の高鳴りは収まらなかった。
拒否する理由があろうか。もう二度と会えないだろうと思っていた矢先、こんなにすぐにその時が訪れるとは思っていなかった。
玲はスマートフォンを握りしめたまま、しゃがみこむ。手のひらは動揺で汗ばんでいるし、震えが止まらない。
(恥ずかしくて顔も見れないくらい、会いたくないけど、会いたい。会わなきゃ……)
(会ってきちんと謝罪したい……)
ゆっくり息を吸って、吐く。リラックスしたい時は、吸うときより吐く時を長く、気合を入れたい時は、ゆっくり吸って短く吐く。仕事で大事なプレゼン等がある時に身につけた技だ。
(よし……!)
大分落ち着いて平常に戻った玲は、両手で膝を軽くたたくと立ち上がる。
あまり長く待たせてはいけない。玲は駆け足で、六花の近くで待つという山崎の元へ向かった。
***
(あっ……!)
六花の店先の近く、街灯に照らされて長身の男性のシルエットが見えた。
視線は手元のスマートフォンに注がれており、こちらには気づいていないようだ。
さっき鎮めたばかりなのに、心臓が脈打ち始める。いざ目の前にすると緊張でこめかみのあたりが冷たくなるのを感じた。
しかし、ここで逃げたくない。せっかく六花がつないでくれた同じ一人飲みの輪を、無下にするわけにもいかない。
玲は思い切って口を開いた。
「あのっ! や、山崎さん!」
「あ」
「この度は、ご迷惑をおかけし、本当に本当に申し訳ありませんでしたっ!!」
玲は、山崎であろう人物の視線がこちらへ向いたと同時に、勢いよく頭を下げた。身体中を熱く駆け回る血液が一気に頭に集中するくらい、深く、深く下げる。
足音が、こちらへ近づいてくる。丁度視線の先に男物の靴のつま先が見えた時、頭の上から降って来たのは、笑いをこらえるような吐息だった。
「ふっ……。そこまでしなくても」
「え!?」
咄嗟に頭を上げると、山崎は手の甲を口元に当てて、くつくつと笑っている。
玲はその様子を、しばらく唖然とした表情で見上げている。
そして、一呼吸置いて、また口を開いた。
「いやいやいや! 本当に山崎さんですよね? あの晩、私が泥酔して大迷惑をかけた……」
「山崎ですけど」
「あの、私あんまり記憶なくて……。スーツとか靴とか汚したり、してませんか?」
眉を下げてあれこれ問う玲に、山崎は代わりに懐から何かを取り出した。
玲の前でひらひらと掲げたのは。
「あ、私の名刺……」
「これは俺があんたからもらったやつだけど」
「え?!」
てっきり雪子から渡されたものだと思い込んでいた玲は、肩透かしを食らう。
山崎は「これは俺が持ってていいやつ?」と悪戯少年のように口の端を上げた。
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