2-3

 「どうして人は同じ過ちを繰り返すのか…」

 「めちゃくちゃ懲りてもう飲まないと誓ったのに…」


 週末、玲は気がつくと「六花」の暖簾の前に立っていた。

 あの「大失敗」から数日が経ち、千田にセッティングを任せた会議も無事終わった。

 千田の態度は相変わらず肉食獣から逃げる小動物の如くだが、分からない事を質問したり、こまめにチェックをお願いしたりと、本人なりに前に進もうとしている様子が見られた。


 (スイーツの貢ぎ物もあったし)


 玲が二日酔いで半死の状態で仕事をしていたあの日、デスクに置かれたコンビニスイーツ。

 神の怒りを沈めるために村人が捧げる貢ぎ物に似たものを感じていた玲だが、どうやら自分を恐れてのことでは無いことが分かったのだ。


 食べ終わって包装紙をたたんでいた玲は、ある事に気がついて包装紙をもう一度開いた。

 スイーツのパッケージの裏には、千田のものと思われる細い字で「お疲れ様です」とメッセージが書かれていたのだ。


 よりによってパッケージの表ではなく、見えにくい裏に忍ばせている当たりが彼らしい。黒のマーカーで急いで書いたのか、すべての文字が若干にじんでいたのが、思わず玲はふっと笑ってしまった。


 (嫌ってたら、ここまでしないか……)


 ひとまず、千田との関係が思ったより劣悪でないことを確認できて、少しだけほっとした。


***


 無事に休日を迎えることができた玲は、久しぶりに家でゆっくりしようと意気込んでいたものの、一人でぼうっとしていると色々な事を考えてしまいいても立っても居られなくなったのだ。


 そして、胸に引っかかっている事があった。


 そして玲はバッグの中の「ある物」をそっと確かめる。

 あの晩、家に着くまで握りしめていた山崎のハンカチ。

 念入りに洗濯をしたものの、シワが着くまで握りしめていた挙句、もしかしたら口元に当てて汚してしまったかもしれない。

ほぼ初対面な上、しかも泥酔した女が使ったハンカチなんて二度と使いたくないだろう。

 そう思って今日、居ても立っても居られず、新しいものを購入してきたのだ。


 山崎の連絡先は分からない。二度も連続で訪れていた六花だけが二人の共通点だった。あの夜のバーは酔っていて場所も店名も見ていない。


 もう二度と会えないかもしれない。あんなみっともない姿を見せて、迷惑をかけた人間が通っている居酒屋にわざわざ来ないだろう。


 それでも、と一縷の望みを胸に、引き戸に手をかけた。

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