2-2
すると千田はこれまで見た事のない声量で、はっきりと玲に向かって告げた。
「あの、吉井さんは悪くないです! 僕、とにかく頑張ります!!」
そして、九十度の礼をすると、一目散に会議スペースを出て言った。
残された玲は唖然とする。
(なんだあの気合の入り様は……)
彼は彼なりに思うことがあるのだろう。とにかく、やる気があることだけはわかった玲は、どこか腑に落ちないまま自分の席へ戻った。
そして、何気なく朝受け取って置いていた千田の書類をぺらぺらとめくる。
(どれどれ……)
一枚、二枚とめくるうち、徐々に玲の眉間に皺が刻まれていく。
終いには顎に手をあて、目をつぶってみたり、両手で頭を抱えて俯いたりした。
(全然、だめだ~~~~千田ぁ~~~~!!)
どうやら気合と仕事ぶりは比例しないようだ。
千田の教育は、まだまだ思いやられる玲であった。
***
昼休み、至急片づけなければいけない仕事があったため、玲はデスクで昼食をとっていた。
コンビニで調達したサンドイッチを片手に、器用にマウスを操作する。千田のフォローに回るあまり、自分の業務が疎かになっては意味がない。
(こういう時に限って全然頭が働かないんだよな……しばらく酒は控えよう)
最後の一口を放り込んで、おしぼりで手を拭いていると、ちょうどパソコンの隣に見知らぬ腕が伸びてきた。
「うわっ」
「あ、すみません……」
「千田さん」
振り返ると、なぜか休憩中のはずの千田がコンビニの袋を片手に立っている。
薄いグレーのスーツに、水色のワイシャツを合わせている。髪も地毛なのか色素が薄く、全体的に影の薄さが際立つコーディネートだ。
「あの、差し入れをと思って」
「私に?」
(どういう風の吹き回しだ? 私なんかしたっけ)
玲のパソコンの横に置かれたのは、コンビニ限定の新発売スイーツだった。
有名なショコラティエとコラボしたという記事をネットのニュースでちらっと見かけていた。
「なんか、今日疲れてるみたいだったので……」
「あ、ありがとう……」
お礼を聞き終える間もなく、千田は脱兎のごとくオフィスを出て行ってしまった。
朝と同じようにぽつんと残された玲は、スイーツと千田の後ろ姿を交互に見比べて、しばらく怪訝な表情のまま固まっていた。
(なんだか憎めないやつだなあ……)
千田の印象があがった矢先、午後一番で千田が手配した会議室が他の部署とブッキングしていることに気が付き、(千田ぁ~~~~!!)と内心怒りの声を上げたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます