『9』
「まじか」
「どしたん」
小林が後ろの席から、今しがた帰ってきた僕の手元にある小テストを覗き込む。
「うわぁ」
一点、足りない。あと一点で満点だったのに。例え小テストとは言え、折角、高校生になってから随分と難易度の上がった満点を取れるかもしれなかったのに。僕はがっくりと肩を落とす。小林が、まぁまぁと僕の肩を叩いた。その仕草に腹が立つ。どうせお前は、と思いながら小林を睨みつけた。
「クラスと出席番号と点数、並んでいい感じじゃん」
「そんなことねぇわ」
「そう?」
「見た目が不吉なんだよ。お前だって『うわぁ』とか言ってたじゃん」
「いや、違う違う」
そう言って、小林は自分の小テストを見せる。常時点数の高いやつは、自分のテストを見せることを厭わない節がある。自分の点に負い目が無いのだ。心の中で悪態をつきながら小林のプリントに目を向ける。
びっくりした。びっくりして、斜めにして舟をこいでいた椅子から落ちそうになる。がたんと大きな音が鳴った。
「そろそろ煩いぞー」
先生が教室に対して漠然と声を上げていたが、無視して小林のテストを眺めた。
「まじか、」
同じ点数だった。クラスと、出席番号と、僕の点数と同じ。
「危なかったわー」
「いやこれ、余計にショックなんだけど?」
「いいじゃん、お揃い」
「良くねーよ……」
これはどうやら、もしかしなくても一点足りなかったどころか、数少ない小林を出し抜ける千載一遇のチャンスだったらしい。僕は机に突っ伏した。小林がべしべしと僕の背中を叩く。もうやめてくれ、僕に構うんじゃない。
「なぁー、放課後一緒に間違ったところ復習しような」
魅力的なお誘いであったが、俺の自尊心がまだ回復しきっていない。小林は僕の背中をべしべしと叩き続けている。
「なぁー、俺、今日部活ないの」
「うるせえ、知ってる」
「何で知ってんの」
「体育館のローテーション」
「あぁなるほど。え、お前は部活ないの?」
「……無い」
「じゃあやろうぜ」
自尊心を回復させるには時間が足りない。だがしかしこいつは、僕に断られ場合、あっさりと他の部員を集め勉強会をするのだろう。正直言って小林の説明は分かりやすいから、一緒に勉強はしたい。突っ伏したまま唸る。小林がの手はまだべしべしと僕の背中を叩いている。流石に叩きすぎだ。
「おーい、鴻野」
僕はせめてもの抵抗として、渋々といった体を装い返事をした。
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