23.浴場
「まじか、おい……」
豪邸というのは風呂まで広い。
考えてみれば当たり前だった。
今
脱衣所は親族が勢ぞろいしても問題のなさそうなレベルの広さをしていたし、マッサージチェアから扇風機までなんでもござれの状態だった。もしかしたらちょっとした銭湯よりもすごいのかもしれない。
ガラス壁面の、小さ目の冷蔵庫にぎりぎりまで詰まった牛乳類は一体だれが飲むのだろうか。
さて。
ここで立ち尽くしていても仕方がない。
とっとと風呂に入って、着替えて、
もっとも、どこにいるのかは分からないが、頼りの綱だったメイドさん……
まあ、そもそも、これから全裸になって、風呂に入ろうとしているのだから、メイドさんに「一緒にいてくれ」というのもおかしな話かもしれない。いかがわしいお店じゃないんだから。
雨に打たれ、遠目には分からないはずの湿り気を持った服を脱ぎすてて、何故か備え付けてある籠に入れ、これまたなぜか備え付けてあるタオルを持って、浴場へと足を進める。
「わぁお……」
脱衣所が凄ければ当然浴場も凄い。
そんな当たり前のことにすら驚いてしまうほど、目の前に広がる光景は衝撃的だった。
広さに関しては最早言うまでもない。一個人の家に会っていいレベルとは到底思えない。
そして、それよりも凄いのはその種類だ。単純にお湯を張ったものだけでも3~4種類はあり、それぞれお湯の色が違う。多分、入浴剤の類ではなく、実際に異なる効能を持った、何かありがたいお湯が入っているのだろう。
どうしよう。
優姫たちを待たせてしまうが、全部入ってみようか。奥にはサウナもある。もっともあれは稼働していないのかもしれない。なにせここからでも見えるくらい中が暗く、
「…………ん?」
物音が、した。
脱衣所の方からだ。
誰だろう。
今、瑠壱が風呂に入っていることは
そうなると、今、引き戸を隔てた向こう側にいるのは「瑠壱も知らない男性」ということになる。
可能性として高いのは千秋の父親か、兄弟か、どっちかだろう。どちらの存在についても一切話を聞いていないのだが、一体どうしたものか。
取り合えず挨拶をするべきだろうか。あ、こんにちは。あの、違うんです。怪しいものではなくって、千秋さんに招待されてここにいるんです。
怪しさしかなかった。
とはいえ、流石にすぐさま何かをすることはないだろう。なんなら千秋に聞いてもらえればいい。そうすれば潔白などすぐに証明できるはずだ。
やがて、音がやみ、引き戸に映る影が少しづつ大きくなる。ほどなくして、がらりと音がして、引き戸が、
「……………………はい?」
「失礼します。お背中流させていただきますね」
二度、三度、瞬きをする。
見間違えだろうと思い、目を必死にこするのだが、そこに映る光景は一切変わってくれない。流石にのぼせるのにはまだ早い……と、いうか、まだ湯にすら使っていない。雰囲気でのぼせたのだとしたら何とも情けない話だ。
念には念を入れて、皮膚をつまんで引っ張り上げてみる。同時に、今起きていることは夢幻などではないことを伝える痛覚が伝わってくる。
世の中には明晰夢というものもあるそうだが、もしかしたらそれかもしれない。だって、そうじゃなければ、
「あの、つかぬ事をお伺いしますが」
「はい、なんでしょう?」
「貴方…………倉橋さん、ですよね?さっきの」
「はい?そうですけど」
「えっと…………もう一つお伺いしてもいいですかね?」
「はい、大丈夫ですよ?何でしょうか」
「倉橋さんって…………もしかして…………男性、ですか?」
倉橋は小首をかしげ、
「はい。そうですよ?ほら」
腰ほどに巻かれていたタオルをバッと音を立てて、豪快に取り払う。
そこには、“瑠壱の股間にもついているもの”がしっかりとついていた。
「嘘ぉーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!????????」
絶叫。
倉橋遥。
彼女、もとい“彼”は、
メイドの姿をした、男性だった。
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