第3話
結論から言うと
「ねぇ、マジでねぇ、どうなってんの……?」
「むぅ、まさか野宿することになるとは……」
二人は宿を探しに探し、南市場のみならず北区の北市場近隣に加え、ややお値段高めの中央区の機工街近隣も歩いて回ったが無かったのだ。
そう、この時期、年に一度の闘技大会に参加する者や観戦する者、スカウト狙いもいれば大博打を打つ為に来た者もいる。
ある程度の情報を集めて、こういった状況も想定していたからこそ予約をとっていたのだ。
父親は仕方無しと空いてる宿を探す選択をしたが、どこかで何とかなるだろうと事態を軽く見ていた。結果、闘技場周りの広場のベンチの上で野宿の支度をするはめに。
ジョシュは久々にちゃんとしたベッドで寝れると思っていたので割と落ち込んでいる。
父親の方も息子のそんな姿を目の当たりにして、父として情けなく思い落ち込んでいる。
二人してこらえきれず、ため息が盛大に漏れた。
闘技場の周りは広場となっているが、通りを挟めば飲み屋がずらりと並んでおり、明るい光と喧騒と香しい匂いが二人により一層虚しさを突きつける。
ぼーっと、虚ろな瞳で見ていたら、光の向こうから人影が一つ近付いてきた。
小柄な影は何かを運んでいるようで、近付いて来るほどにいい匂いも合わせて強くなる。
本来警戒すべきだろうが、気落ちしていた二人にとってその影は興味を引くには十分だった。
「もし、よければ、食うかね?」
現れた老人はやはり小柄で、声は優しく、まとう空気も穏やかで、何より歩き通しで空きっ腹の二人には、その言葉は脅威になるよりも救済でしかない。
「ご老人、本当に頂いてもいいので?」
父親は息子の意見を聞くまもなく、差し出されている料理をちらりちらりと見やりながら答えた。
「ふふ、警戒なさるのもわかりますがな、遠くで見ていた限り、とても困っていらっしゃった様子。この街は厳しいところもありますが、優しいところもあるんですよ。せめて、温かい食事だけでもと」
「……何か、仕事をせねばならぬとかは?」
「ふむ、信じにくいのであれば、対価があった方が食べやすいと。であれば、この老人の家はすぐそこに、今宵の話し相手になってくれませぬか?」
まさに渡りに船、宿に困り果てていた二人にとっては天の救い。その提案に驚きと共に父親は返事を返す。
「っ、本当によろしいので?」
「はい、もちろん。旅人さんのお話も聞かせて貰えれば、この老人も嬉しい限りです」
「……私の名前はビル、こっちは息子のジョシュ。北大陸より今日参ったばかり。北では武術の修行で5年程この子と旅をしておりました。恥ずかしい話ですが、宿の予約を前払いでしていたのですが騙されていたようでして……」
「それはなんと申し上げてよろしいのやら。せっかくセブンブリッジまで来られたというのに、やはりお困りでしたのですなぁ」
老人の親切さが身に沁みる。
旅を重ねて来た二人は人の醜い所も山と見て来たのだ。
困窮した時に受ける人の優しさよ、これがあるから旅を続けて来れたのだろう。
しみじみとその親切さに感動しているビルの横でジョシュはやや冷静にその老人を観察していた。
父親はどこか人の性善性を信じがちな所があり、今回の宿の件のように騙された事がある。
それを教訓に老人の一挙手一投足を見るも、胡散臭さは感じられない。
何より、ジョシュ本人がベッドで寝たいのだ。
あれこれ考えている間に父と老人の話はまとまり、意見することなくジョシュもついていくことに。
(もうダメだ。今日はなるようになれだ)
とりあえず温かい内にと、スープをその場でたいらげ、ジョシュ達は老人の家で一宿一飯の恩を受けるのだった。
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