第2話

「いや、そんなはずは……」


「兎に角っ!予約されてないもんはされてないんだよ!ウチはもう満室なんだよ!さぁ出てった出てった!」


「むぅ、承知した」



追い立てられるように宿を出された二人。


表の通りは旅人達の明るい雰囲気で満ちている。それに比べて困惑に染まっている。



「……父さん、もしかして僕達は騙されたのですか?」


「はぁ、信じたくないがそうなんだろうなぁ。アイツとは古い付き合いだから信用したんだがなぁ」


「額が額でしたからね。これが今生の別れと割り切られたのでしょうか」


「ま、無いものは無いのだ。ジョシュ、他を当たろう」


「……分かりました」


ジョシュと呼ばれた息子はため息をなんとか飲み込み返事した。


その顔には言いたい事が山程あるとありありと物語っていたが、父親は知ってか知らずか息子の方を見ずに動き出した。


幸いにも二人がいたのはホテル通り。


セブンブリッジシティは南北に3キロ、東西に1キロに広がる巨大な橋の上の都市である。


橋は大きく北から北区・中央区・南区の3ブロックに分かれており、その真ん中のブロックの中央に座すのが市役所だ。


中央区こそがセブンブリッジシティのメインであり、橋の中央を貫く大通りに跨るように金融街が、その西側に歓楽街が、反対の東側に機工街が並びたつ。


ホテルの需要は各所にある為に分散して建てられており、その目的毎に客層も変わってくる。


例えば、歓楽街の中でも大きな博打を目的とした富裕層には富裕層の為のホテルが、機工街で新たなビジネスの種を育てるべく商談の為のホテルが用意されていた。


では、親子が必要としたのは?


彼ら親子が北大陸最南端のこの橋にやって来た目的は大きく2つあった。


1つは南大陸に渡り、北大陸になかった武術を修めること。


そしてもう一つがこのセブンブリッジシティの名物でもある【闘技場】に出て腕試しを、ついでに旅の資金を、いや、旅の資金こそを稼ぐ為に来たのだ。


資金に余裕があればこの都市に寄る必要は無く、素通りしても問題なかった。


ところが、計画性の無い旅の途中で息子のジョシュが気付いたのだ、このままだと変な場所で路銀が尽きると。


まだ北大陸全土を完全にまわった訳ではなかったが、金と時間と距離の関係上と武術を修めるという目的の兼ね合いから進路を南にとったのだ。


そして、いきなりセブンブリッジシティに着いたとしても宿が無ければ危険だろうということで、前金で宿代一週間分の半値を払い予約手続きした、そう、した筈だった。


まぁ、それはさておき、資金を稼ぐ為の闘技場は歓楽街の中でも南西側にあり、荒くれ者、闘うことを生業にした者達を相手にした店が数多く並ぶエリアの一部がホテル通りになっている。


つまり二人はそこにいたのだ、闘技場に通うのに利便性の高い場所に。


そして、利便性が高いということはーーー





「全っ然空いてませんね!」


「むぅ、ほとんど満室。やはりは厳しいかぁ」


「だからこその予約でしたからね……どうしますか?多少遠くても仕方なしで他所当たりますか?」


「仕方あるまい、南市場の近辺に向かおう」



セブンブリッジシティは経済都市であり、学術都市であり、そして観光都市でもある。


その為に大きな通りの各所には分かりやすい案内看板が出ていた。


それを元に二人はまた歩き出した、物物しい集団の合間を縫って歓楽街を背に。


陽は沈み出す。





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