沖田聡司と一人の男
虹のゆきに咲く
沖田聡司と一人の男
沖田聡司と一人の男
ヒュー ヒュー ヒュウー
サチ
俺はどうしてここに立っているのか
ここはどこだ
大将、崖に変わった奴が立っていますぞ
あの風変りな恰好に刀
もしかしたら金になるかもしれませんぜ
そうだな
へえ
脅してこい
兄さん
おい
お前はどこから来たんだ
ヒュー
なぜ、黙っているんだ
答えろ
答えないと切るぞ
おい、やれ
ヤアア
スパ
う
大丈夫か
待て、どこに行く
だ、誰だお前は
名をなのれ
サ
わ、わかった
助けてくれ
はははああ
少し腹でもすいたか
しかし、ここはどこなんだ
なぜ、俺はここにいる
あの時
俺は
いらっしゃいませ
サチ
サチじゃないか
どちらさまですか
俺がわからないのか
申し訳ありません
冗談だろ
前から冗談が好きだったからな
人違いではないでしょうか
そうか
そうだな
また来る
何か失礼なことを申し訳ございません
では
申し訳ありませんでした
俺はどうすればいい
そもそも俺は誰なんだ
こんなところに
小さな花が咲いている
優しい色だね
すうー
爽やかな風かな
でも、なんだか違う
何かを感じる
なんだろう
サチヨさんに持っていって
見せてあげたいのだけど
なんだか可哀そうかな
大変だ 大変だ
どうしました
あそこで暴れている人達がいます
大丈夫です
任せて下さい
ありがとうございます
沖田さんですね
いつもありがとうございます
お腹もすいたし
そろそろ行くかな
よいしょ
よいしょ
こんな感じかな
今日も来ますよね
沖田さん
サチヨさん
今日も蕎麦をひとつ
はい
今日も見回りでしたか
そうだよ
いつも大変ですね
この町が大事だから
でも、無理をなさらないでください
最近、顔色が悪いですよ
それは気のせいだよ
そうだといいのですが
ありがとう
心配してくれて
そろそろ、出来上がりますから
はい、どうぞ
ありがとう
俺は誰だ
俺は誰だ
おい、沖田
どうだったか
何がですか
これだよ、これ
女だよ
いや、局長の言うことはさっぱりわかりません
はははは
お前も見た目は女みたいな顔をしているが男だな
ははは
見回りに行ってきます
ああ、女だけ見たら駄目だぞ
馬鹿にしないで下さい
ははははは
フ
どうした、斎藤
いや
子供だな
そうだな
高田道場にて
高田師匠
今日もよろしくお願いします
ああ、こい
いやああ
ター
参りました
さすが歳を重ねようと師匠には勝てませぬ
剣はな歳を重ねるごとに磨かれていくものじゃ
わかりました
これからも、よろしくお願いします
次
はい
シュ
さすが、高田先生は神業だ
蕎麦屋の入り口にて
今日も沖田さんも来てくれたし
冷たい感じだけど優しさを持ってくれそうな方も来てくれました
いい日だったな
おい
なんでしょうか
店を開けろ
蕎麦が食いたいんだ
申し訳ありません
今日は閉めましたので出来ません
何、この店は客を粗末にするのか
いえ、そのようなことはないのですが
準備に時間がかかるものですから
ああ、気にしなくていいよ
娘さんの尻でも眺めているかな
そっちの方がよさそうですな
そうだな
やめて下さい
来ないでください
おい
誰だお前は
スパ
なんだと
おい
スパ、スパ
ああ
うわあ、逃げろ
あなた様はお昼の
いや、通りがかりの男だ
お名前を教えて下さい
それは
いえ、この間はありがとうございました
そういえば
昼に蕎麦を食べていないような気がするな
はい
お店を開けますので
いいのか、こんな時間に
はい
すまない
少々、準備に時間がかかりますがよろしいでしょうか
かまわない
サチ
今日は蕎麦か美味そうだな
そうでしょ
あなた様のことを想って打ちましたら
そうなりました
もう少しお待ちください
汁ができあがりますから
ああ
なんだ、この思いは
お待たせしました
ありがたい
急いで作りましたので
汁が上手く出来ていないかもしれません
気にしなくていい
ありがとうございます
うまいぞ
とうとう
なんだ佑介
サチ
あなた様
佑介が少し声がでるようになりました
そういえば、大きくなったな
はい
お前が作った蕎麦はいつもながら美味いな
ありがとうございます
佑介
可愛いな
はい
お客様
どうかなされましたか
あ、いや
そうですか
何か考え事をされていらっしゃった様子で
少し心配でしたから
お声をかけさせてもらいました
サチヨさん
沖田さん
まだ、店を開いていたの
はい、いろいろありまして
どうしたの
いえ
まあいいよ
無事に店が開いていたということは
何もなかったということだね
はい
おや、お客さんか
めずらしいな、この時間に
沖田さん
ほら
お客様に失礼ですよ
あ、申し訳ありません
いや、気にしなくていい
ここの蕎麦は美味いでしょ
そうだな
失礼ですが
僕は沖田といいます
あなた様は
知らん
失礼な
沖田さん
パサ
止めてください
沖田さん
そうですね
店に迷惑がかかる
名を名乗って返さないのは失礼だろう
お前
外に出ろ
沖田さん
止めて
いつでもいいぞ
よし来い
おお、沖田
大変なんだ
どうしました
局長
下の町で大火事があって
それに便乗して
荒らしまわっている集団が多くてな
かたっぱしから金をぶんどったり
わかりました
おい、今度にしておくからな
覚えていればな
俺の顔くらい覚えろ
お前のような女みたいな顔はすぐ忘れるだろうな
なんだと
局長
すぐ行きます
沖田さん
今日はありがとうございました
美味かった
また、よろしければ
明日もお越しくださいませ
ああ
遅いぞ、沖田
斎藤さん
申し訳ありません
うわあああ
ぐおおお
火の手があちらにも
局長 局長
大変です
あれか
あの騒ぎは
パチパチ
バチバチバチ
ギャー
ぐおおおおおおお
だあああああ
キャー
やめてください
はっははは
ボオオオオ
グオオオオオ
ガタガタガタガタ
ガアアアア
はははは
キャー
やめてください
スパ
ぐお
おお、お前は誰だ
知らん
やれ
うおおお
スパ
スパ、スパ
やめてくれ
許してくれ
頼む
うああ
おい、沖田
さっきの男じゃないか
はい
ただ者じゃないな
そうですね
局長
あれは何だ
あの技は
いえ、見たことはありません
そうだな
はい、局長
ス、ス、ス、サー
さすが、斎藤らしいな
そうですね、淡々と切って回って
なんだか、あの男と似ていますね
そう言えばそうだな
話をしている場合じゃないぞ
はい
よし、こんなもんか
そうですね
近藤さん
土方
そっちはどうだ
大丈夫だ
よし
その夜の三日月の下で
なぜだ
なぜ、俺はこうも人を斬りたい
サチヨさん
無事に帰れたかな
師匠
下の町でなんだか騒動があったみたいですね
そうか
フ
空しいものだな
ガハハハハ
今日も派手にやったな
サチヨさん
昨日は無事に帰れましたか
はい
それならよかった
沖田さんこそ
ああ
沖田さん
どうしました
やっぱり顔色が悪いです
近くに病を診てくれる方がいらっしゃるそうです
いっかい
大丈夫だよ、サチヨさん
それなら良いのですが心配です
だいじょうぶだよ
え
どうして、春なのに紅の落ち葉が
どこに
ほら
俺には見えないけど
ひら ひら
ヒュ
ス
サ
お前は誰だ
さっきの続きか
待ってください
沖田さん
サチヨさん
お二人ともやめてください
俺はどうでもいいがな
サチヨさんがそう言うなら
やめるよ
沖田さん
無駄なことはしないでください
新選組のお仕事があるでしょ
そうだね
あなた様も
おやめになられて下さい
では
沖田さん
新選組のお仕事でさえ危ないのに
そうだよね
ごめんね
サチヨさん
心配をかけて
ヒュー ヒュー
俺はいったい
ひらり
スパ
サ
なんのために
どこに行けばいい
しばらく
さまようとするか
ざわざわ
サー
なんだ
この予感は
何かはじまるのか
空気の音がする
そこに俺は行くのか
おじいちゃん
なんだ
清春
僕も剣の道を行きたい
お爺ちゃんみたいに強くなりたい
そうか
そこの棒を取ってみろ
うん
お爺ちゃんめがけて棒を当てみなさい
うん
やあ
はははは
お爺ちゃん逃げないで
ははは
やめてくれ
ははは
お父様
なんだ、静江
高田道場で教えられるのは体に堪えませんか
ああ、大丈夫じゃ
それならいいのですが
大丈夫じゃ
静江
はい
斉藤様
どうした
たまには笑ってください
斉藤様の笑った顔を見たいです
そうか
どうして
いつも考え事ばかりしているのですか
もういい
静江
もう帰れ
はい
サチ
空に月がでているぞ
昼間からな
月とお前のことしか頭からはなれられない
サチヨさん
今日は一つ鳥の卵をもってきたんだ
これを蕎麦にいれたらどうかな
美味しそうですね
そうでしょ
さっそく作りますから
頼むよ
はい
どうですか
美味しい
本当に持ってきて良かった
沖田さんの笑顔を見られるのが幸せです
何か言った
いえ
高田先生
おお、沖田じゃないか
久しぶりじゃの
先生もお元気そうで何よりです
そう見えるか
はい
北辰一刀流の三突き
また見てみたいものじゃな
先生にもお世話になりましたので
是非、恩返したいところです
そうか、そうか
お手柔らかなにな
それでは
先生、失礼します
ああ、精進しなさい
はい
あなた様
ほら、佑介が歩きましたよ
なんだと
見てください
ほら
おお
佑介
こっちだ
こっちだぞ
ほらほら
キャキャパア
俺は行かないといけない場所があるんだ
やめてください
お願いします
どうして黙っているのですか
どうして
黙っているのですか
わかっているだろう
もういいだろ
あなた様
おい
今年も恒例の江戸の剣術大会があるらしいな
いつですか
朝の光が七つ登った日らしい
前回は
そうだったですね
今回はどうだろう
そうだな
新選組からは沖田か
高田道場の神もか
そういえば新選組から
もう一人参加するらしいぞ
聞いた話ではだけどな
他に強い奴はいないものかな
その方が面白そうですね
そうだな
沖田
今回もまた参加するのか
はい、これも剣の道を極めるための一つですから
そうだな
フ
局長も参加されたらどうですか
沖田、そういうことをいうな
俺がなぜこのようなことを言うかわかるだろ
確かに、そうですね
腹がすいた
なぜだ、なぜだ、なぜだ
なぜ、俺はここにいる
どうすればいい
あら
この間はありがとうございました
ああ
気にするな
よければ、お店を開けたばかりなのですが
蕎麦でも食べていかれませんか
銭がない
お代は結構です
お礼だけでもさせていただけませんと
私の気持ちがすみません
この間の蕎麦で十分だ
いえ
それでは不足かと思っておりましたので
それでいいのか
はい
じゃあ、言葉に甘えるとしよう
すまないな
いえ
どうぞ
ところで聞くが
俺は誰だかわからない
どうすればいいと思う
ただ
ただとは
どういうことでしょうか
いや
気にするな
今度、剣術の大会があります
そこで、あなた様が勝てばお金が入ります
あなた様・・・
どうされました
お前はサチだろ
いえ、サチヨです
申し訳ない、俺はどうかしている
気にしないでくれ
大丈夫です
きっとお疲れではないのでしょうか
そう見えるか
はい
そう見えます
蕎麦ができましたので
とりあえず、お召し上がりください
ありがたい
いえ、こちらこそ
助けていただきまして
お返しをできました
私もうれしいです
そうか
サチヨさん
沖田さん
お前はこの間の
沖田さん
やめて
私を助けてくれたの
そうなんですね
わかりました
ズルル ズルルル
おい
おいとは
俺のことか
そうだ
確かにそうだな
どうした
お前はどこで剣を修行した
知らん
沖田さん
わかっているよ
ずる ずるるる ずる
サチヨさん
相変わらず、美味しいよ
そうだな
沖田さん
剣術大会に出られるのですね
そうだよ
ズル ズル ズルル
うまかったぞ
本当にいいのか
はい
助かったぞ
お気をつけてお帰りください
ああ
サチヨさん
あの男と何を話していたの
自分の名前がわからなくて
今後、どうすべきなのかわからない
そう言っていました
お金に困っている様子でしたので
剣術大会に参加されてはと申し上げました
それと
私を誰かと間違っているみたいで
来るといいな
沖田さん
あれは
お願いします
やめてください
行かないで下さい
あなた様
いや、そういう訳にはいかないんだよ
佑介が
佑介がいるではありませんか
また、お前の蕎麦を食べに帰ってくる
わかりました
それでは蕎麦を準備してお待ちしております
必ず帰って来てください
わかっている
いったい何なんだ
バン
すまない考え事をしていてな
お主
血の香りがするな
そうか
お爺ちゃん、剣を教えてよ
はははは
またか
お兄ちゃん
僕と勝負して
清春
駄目じゃ
ん
申し訳ありません
孫が
いや
かまわない
おい、清春
こっちじゃ
お爺ちゃん
わああい
やめろ、やめろ
はははは
佑介
あなた様
サチ
俺は
いったい
何のために
何をすべきなのか
何を求めてここに来たのか
メン
こら、清春
申し訳ありませぬ
いや
無邪気がお主がよんだのかな
邪気を呼ばぬとよいがの
ただ、そうは思えぬな
清春、あっちに行きなさい
わしは、高田という
何かあったら
わかった
そうか
それならよいが
邪気は邪気をよぶからの
そういえば
剣術の大会があると言っていたな
気がむかんが銭がないと
何もできん
お客様
サチヨさんだったな
はい
剣術大会はどこにいけばいい
江戸の大きな道場で高田道場というところがあります
ここです
ああ、助かるな
そこで申し込まれてください
すまない
誰かおるか
どうかされましたか
剣術大会がここであると聞いた
少々、お待ちください
おお
お主か
高田殿だったな
そうだ
大会に出たいのか
ああ
誰が大会を勧めた
知らん
そうか
簡単には大会には参加できんのじゃよ
そうか
構えてみろ
お主
なぜだ
それがお主への答えだ
そういうことか
サ
よし
わかった
ひかりが七つ登り隣の寺から七つ鐘を打つ
それが合図だ
わかったか
ああ
強者ぞろいだが
お主は
どうした
いや、わかった
名をなんと申すか
どうした
いや
鳥の糞が腕に落ちてな
あの鳥はなんだ
いや
わしには見えておらぬ
そうか
月之紋
とでも言っておこう
どういう意味だ
いや、深い意味はない
そうか
わかった
それではな
ああ
サチヨさん
沖田さん
もう、そろそろ良いのではないですか
何がですか
もう、それ以上・・・
強くならなくてもいいと思います
どうして
いえ
なんとなくです
気にしなくていいよ
それより
あの男は参加するかな
わかりませぬ
でも
どうした
いえ
ピチ ピチ ピチ ピチ
サワ サワ サワ
サ
先に鳥がとまっているか
空気を感じる
今日は剣術大会なのか
とりあえず
いくか
お爺ちゃん、お爺ちゃん
なんだ、清春
ほら
お面を持ってきたよ
ああ
ありがとう
もう歳と道場の看板のことを考えて下さい
どうしてそこまで
いいんじゃ
お弟子さんでも
強者は多くいるではありませんか
いいんじゃ
わしが、でないとな
前はよかったですが
今回は・・・
だいじょうぶじゃ
わかりました
庭掃除でもしておけ
はい
サワ サワ サワ
沖田さん
前回は駄目でしたが
今回は大丈夫ですよ
もちろんさ
今日は、特別に蕎麦に
卵をふたつ入れておきました
カチって割ってきましたよ
ははは
サチヨさんも相変わらず
可愛い顔のように
卵が温かい色をしているよ
そうですか
実は卵はみっつ割りました
どうして
一回目は割れてしまって
もったいないけど
捨ててしまいました
もったいないじゃない
ごめんなさい
そうですよね
でもそうしたかったのです
大丈夫だよ
はい
じゃあ、行ってくるね
頑張ってください
ありがとう
待ってください
どうしたの
そばが、少し残っています
だいじょうぶだよ
斉藤様
なんだ、静江
また、何かを見つめているような目をしています
もともと
こんな目なんだよ
何か思っていることがあるのですか
フ
どうして、参加をされるのかわかりません
ほっておけ
申し訳ありません
そして、七つの日が昇り
おい、いよいよだな
そうだな
組み合わせ見ろよ
なんだ
これは間違っていないか
そうだな
これだと
途中で沖田と斉藤の組み合わせになるじゃないか
新選組の達人同士だぜ
おおお
そうだな
もう少し面白く組み合わせてほしかったな
確かにな
前回と同じく高田と沖田かと思ったが
斉藤もありか
あっちの組み合わせはどうだ
高田しか見どころはないか
月之紋
初めて聞く名前だな
そうだな
他は名のある者ばかりだがな
まあ、大したことはないな
だああ
小手
メン
やああ
そこまで
ピチ ピチ ピチ
チュウ チュウ
やっぱり、沖田と斉藤になったじゃないか
あっちはどうだ
高田と月之紋
誰だあいつは
初めてみる顔だな
そうだな
壱の試合にて
斉藤さん
やっぱり沖田だったな
手加減はせぬぞ
はい
よし、構えて
はじめ
どうした、沖田
顔色が悪いような気がするぞ
いえ
相変わらず無表情ですね
どうした、こい
斉藤さんとはやりずらいですね
フ
う
グフ
ううう
おおお
沖田が突然、倒れたぞ
沖田
だからだ
沖田、大丈夫か
だいじょうぶです
局長
申し訳ありません
試合にならずに
おい、土方
連れていけ
わかりました
沖田が倒れたか
わしの出番だな
どれ、いくとするか
弐の試合にて
カア カア カア カア
お主と対するとはな
いいか
ス
お主はどこから来たのじゃ
知らん
知らぬとは
そうだ
お主の心が見えぬ
剣と動きと同じくな
俺にもわからん
すー
きまり
やはり、高田か
神業だな
次は斉藤と高田だな
そうだな
金にならんかったな
月之紋さま、こちらをお持ち帰りください
これはなんだ
試合に出られた方には差し上げております
そうか
助かったな
沖田さん 沖田さん
だいじょうぶだよ
サチヨさん
今日は私がそばにいます
いいよ
大丈夫だよ
いえ
沖田さん
ありがとう
ゆっくり
お休みになられてください
サチヨさん
はい
手をつないでもらえないかな
はい
遠い空が見えるよ
え
上は天井じゃないですか
そこに、サチヨさんの笑顔がみえるんだよ
今日はずっとそばにいますから
ありがとう
時は風とともに来る
おい、ついに
斉藤と高田か
まさか、沖田が倒れるとはな
そうだな
この、老いぼれを相手にしてくれるとは
ヒュ
さすが、高田だ
見えたか
いや
また、今年も高田か
お父様
静江、お前も複雑だな
だいじょうぶです
そうか
それならよい
月之紋か
どこかでか
清春
ははは
お爺ちゃん
後ろから
メン
はははは
お前が一番強い
清春の無邪気はよめぬな
とうとう
ははは
くすぐったいじゃないか
佑介
あなた様
どうした
サチ
やはり、おやめになられてください
相手はあの
わかっている
わかっているよ
なら、どうして
サチ
サチヨさん
どうされました
沖田さん
覚えているかな
はい
あの時は白い世界でしたね
雪の舞うなかで
そうだったね
沖田さんが空を見上げて立っていましたね
これでいいのかな
そう思っていたんだ
あの時に雪の音がしたんだよ
私の落とした
かんざしの音ですか
そうだよ
僕の心に白く響いたんだ
うしろをふりむくと
サチエさんがいて
さびしそうに
僕の方をみつめていたね
君、どうしたの
いえ
あなた様もどうして空を見上げていたのですか
それがわからなくてさ
君こそ
私は
わかったよ
答えは
白い雪のなかにあるのかもしれない
そうでしょうか
きっとそうだよ
僕は沖田聡司
私はサチヨと申します
近くで蕎麦屋をしています
よければ
寒いので
いっしょに温まりませんか
そうしよう
はい
ガラゴロゴロゴロ ガーン
ピカ
ドーン
ゴロゴロゴロ
俺は誰だ
まあ、よいか
よう
沖田という名だったな
途中で倒れたが大丈夫だったか
ああ
月之紋さん
あなたも最後に負けたらしいですね
たまたまだ
言い訳は見苦しいですよ
何処にいくところですか
ああ、蕎麦が食べたくなって
月衛門さんと勝負できなかったですね
そうだな
月之紋さん
勝負しましょうか
ここで
いや、蕎麦が食べたい
じゃあ、どっちが蕎麦を多く食べられるか
勝負しませんか
くだらないが
いいぞ
それでどうするんだ
勝った方がサチエさんかな
どうでもいいが
やってやろう
サチエさん
沖田さん
あら、月之紋さん
今日は、ご一緒なんですね
たまたまだ
どっちが蕎麦を多く食べることができるか
勝負したいそうだ
くだらんがな
まあ、いいじゃないですか
駄目です
お体によくありません
俺はどっちでもいい
僕は勝負したい
それでは
無理がない程度にお出しします
そういえば、俺は銭を持たないぞ
僕がだすから心配はないよ
いや、よその者から
払ってもらうのは御免だな
じゃあ、仕方ありませんから
今日はおまけしておきます
その代わり
無理をなさらないで下さい
わかっていますよ
仕方ないか
じゃあ、一杯目です
いつものように美味いね
そうだな
二杯目までですよ
美味しいね
だな
もう、やめた方がいいですよ
まだまだです
もういいだろう
じゃあ、僕の勝ちかな
いや
さっき
もういいだろうと言ったでしょ
いや
お前がそばにいるのがまずいだけだ
ははははは
ここの蕎麦は美味しいです
もちろんですよ
ああ
お前もかわいいな
あなたこそ、面白い人ですね
勝負は今度だ
そうですね
そうして下さい
そうしないと
もう、蕎麦は次からだしませんよ
はい
ははははは
沖田
酒でも一緒に飲むか
いいですね
月之紋さん
あそこの旅館の酒と料理は美味しいですよ
よし
そこに行こう
サチヨさんはお前の女か
違いますよ
違うのか
いえ
どっちだ
月之紋さんは
俺は女はいい
本当ですか
本当だ
サチヨさんが気になってませんか
いや
だから
サチヨさんはお前の女だろ
僕が好きなだけですよ
そんなことはない
月之紋さんは
俺には
俺には
どういうことですか
まあ、別な話でもするか
沖田はどのような女が好きか
優しい人がいいですね
それだけか
後は
まあ、料理の上手な人かな
月之紋さんは
そうだな
サチヨさんみたいな女かな
サチヨさんは駄目ですよ
やっぱり
サチヨさんの話になるじゃないですか
そうだな
ははははは
じゃあ
腕相撲で勝負するか
でも、お前の腕は俺より細いな
月之紋さんは体が大きいですからね
でも、力では負けませんよ
指相撲だ
指ずもうなら
そう変わらんだろう
指相撲ですか
いいですよ
ただ
普通の指相撲じゃないぞ
どうするのですか
目をつぶるのだ
見えない勝負だ
まあ
相手の空気を読めるかかな
面白そうですね
じゃあ
やりましょう
いいか
はい
よし
いくぞ
目をつぶれ
はい
お客様
おでんが出来ました
どうぞ
はい
隙あり
あ
俺の勝だな
今のは駄目ですよ
じゃあ、もう一回するか
お願いします
わかった
小指でくすぐるのは
駄目ですよ
隙あり
あ
参りました
ははははは
今日は楽しかったな
もう
勝負はなしですよ
そうだな
お前みたいな女みたいな顔の男とは望まん
約束ですよ
ああ
いらっしゃいませ
サチヨさん
今日はお店を少し休んでみませんか
どうしてですか
さっき
帰り道に空を向いたら
夕日がきれいだったんだ
わずかな時間だけど
いっしょに眺めてみない
はい
手をつないでいいかな
はい
沖田
手は俺とともつないだろ
月之紋さんじゃないですか
そうか
じゃましたらいけないな
月之紋さんも
いっしょに見ませんか
いや
いいじゃないですか
月之紋さん
そうか
じゃあ
じゃまするか
そうしましょう
そうだね
沖田さん
どうしたのですか
地平線の向こうには何があるんだろうか
そうだな
俺にはわからないな
私には
夢がみえます
どんな夢
沖田さんには
教えません
じゃあ
俺には
俺にも教えません
ははははは
私だけの秘密です
そうか
沖田さんは
僕はこの国を守るためかな
それだけですか
それだけか
沖田
いえ
もういいじゃないですか
月之紋さんも
相変わらず
意地悪だな
少しずつ沈んでいきますね
地平線に
優しい色
沖田みたいだな
俺はどのような色なんだろうな
月之紋さんは
どこか
さびしい色をしています
遠くを眺めているような感じで
もっと
笑ってください
ごめんなさい
月之紋さん
そうだな
だが
サチヨさんの蕎麦を食べたら
元気がでるぞ
そうだよ
月之紋さん
よければ
さんにんで
手をつなぎませんか
いいね
サチヨさん
それもいいな
じゃあ
俺がそっちに行くとするか
いつまでも
こうしていたいですね
そういえば
向こうに大きな池がありますね
もう一回だけ勝負しませんか
またか
沖田
どうするんだ
あの遠い池までどっちが
そこに転がっている石を飛ばすことができるか
そういう勝負です
お前もくだらないことを考えるな
わかった
ささっとしろ
よし
そら
二人とも届かなかったな
まあ
二回は指相撲で俺が勝っているから
それでよかろう
一回は反則だけど
まあ、僕の負けにしておきますよ
ははははは
ぱあ
キャ キャ
ほら
佑介が笑ったよ
本当ですね
小次郎さま
もうすぐしたら立てるかな
サチ
ええ
そうですよ
笑った顔はサチにそっくりだな
そうですか
ああ
小次郎様みたいに強くなるといいですね
そうかな
蕎麦がそろそろできそうです
ああ
沖田さん
お隣様の赤子よ
少しの間だけ出かけるそうで
それで預かったのよ
なんて、名前かな
雄太郎だそうです
そうか
いらっしゃいませ
月之紋さん
ほら
お隣さんの赤ちゃん
ぱあ
きゃきゃ
雄太郎ちゃん
ゆう
なんだ
佑介
小次郎様
歩きましたよ
ほら
おお
小次郎様
ほら
小次郎
誰だ
どうされましたか
月之紋さん
小次郎
誰かお知り合いの方ですか
月之紋さん
いや
可愛いな
赤子か
そうでしょ
月之紋さん
どうされました
いや
今日は帰る
サチ
俺にもだっこさせろ
ほら ほら
きゃきゃ
小次郎
誰だ
サチヨさん
月之紋さんは、今日は様子が変でしたね
いつもと違う人みたいでした
そうでしたね
すまなかったね
サチヨさん
いえいえ
京さん
可愛いですね
雄太郎ちゃんは
そうでしょう
父親に似てるけど
私には似なかったの
いえ、笑った顔は
お母さんにそっくりですよ
そう
ええ
じゃあ、ありがとうね
サチヨさん
もう帰らないとね
京さん
もっといてください
だっこさせてください
また、連れてくるから
その時もお願いね
待ってください
もう一回
雄太郎ちゃんを見せて
ぱあ
可愛い
それじゃね
小次郎様
やっぱり行かれるのですか
また、帰ってきますよね
ぱあ
待ってください
小次郎様
沖田さん
あまり
無理をなさらないでください
新選組の仕事は大変です
外は枯れ葉が舞っています
行かないでください
駄目ですよ
悲しいじゃないですか
まだ、空を見上げているのですか
私の蕎麦を美味しく食べる沖田さんの笑顔が
みたいです
そばにいてください
小次郎様
どうしてですか
どうしてですか
佑介がいるじゃないですか
駄目です
行かないでください
ほら
佑介が笑っていますよ
佑介がだっこして
そう言っていますよ
ひだまりのなか
小次郎様がいらっしゃいましたね
あの時は
ころ ころ ころ
これはそなたの「まり」か
あ
お侍さま
申し訳ありません
いや
どうして、まりは転がるのかな
お侍さま
それは丸いからではないからですか
そうだな
笑ってしまったよ
俺も転がっていてな
どのような意味でしょうか
まあ、よい
俺は
佐々木小次郎という
そなたは
サチと申します
幸せのサチか
いいな
俺も転がってきたんだな
だから
行かないでください
いかないでください
お願いします
聡司
また、お前は足が遅いな
かけっこか
よ~い
はははは
一番、遅いぞ
聡司
バシ、バシ、パン
ごめんよ
ごめんよ
ほら、聡司かかってこいよ
聡司の意気地なし
はははは
幼い頃は体が弱かったな
走れ 走れ 走れ
そうだよ
聡司
よし
来い
かかってこい
聡司、許してくれ
沖田さん、沖田さん
ほら
沖田さんが通るよ
本当
優しい笑顔
さわやかな振る舞い
沖田さんは素敵よね
うん、うん
強くなれた
よし
沖田
「お前は新選組の一番隊長だ」
ありがとうございます
僕の願いがかなった
僕の願いがかなったんだ
強くなれた
強くなれたぞ
だけど
何か違う
何が強さなのか
心が僕には
まだ、足らないのかな
でも、体は強いぞ
新選組の一番隊長だよ
おい、待て
小次郎が来たぞ
早く逃げろ
また、小次郎が一番か
小次郎の剣に誰も勝てる奴はいないぞ
天才だからな
「佐々木小次郎
小倉藩の剣術師範とする」
ありがとうございます
怖いな師範の目は
鋭い
佐々木さんよ
なんだか、怖いよね
そうそう
おい、智道
今日、俺に一杯だけでいい
付き合え
師範、申し訳ありません
風邪などをひいてしまいまして
そうか
仕方ないな
華さん
飯でも行かないか
ごめんなさい
今日は用がありまして
そうか
申し訳ありません
せっかくなのですが婚姻の話はお断りさせてください
わかった
俺は孤独だった
さびしかった
辛かったんだ
ころ ころ ころ ころ
サチ
小次郎様
佑介
あなたは
小倉藩の剣術師範である
佐々木小次郎の立派な一人息子よ
そうか
俺は佐々木小次郎という男か
しかし
なぜ、ここに
あの時に
なぜ
タッカ タッカ タッカ タッカ
ヒーン
走れ 走れ 走れ
ヒュー、ヒュー ヒュウー
サチ
俺はどうしてここに立っているのか
しかし
俺は
佐々木小次郎という男だったのか
なんのためにここに
うう
そういえば
空が見えるぞ
なぜだ
俺は
あの時に
敗れたはずだ
なぜだ
背中が熱い
まだ
生きろ
そういうことか
何かを忘れていないか
大事なものを
しかし
ここになにがある
守るべきもの
あるのか
あるからこそ
ここに来たのではないのか
何だ
取り戻すことができるのか
それだけなのか
崖の上に立っている
俺は何を見るべきか
時は来るのか
取り戻せるときが
崖の上からだと
よくみえる
日が
線から登るのか
沈むのかは
わからんが
ヒュウ ヒュウ ヒュウ
スパ スパ
いったい
この町はどうなっているのか
沖田
月之紋さんは
今のご時世がどうなっているか
わからないのですか
サチヨさんならともかく
ああ
わからんな
そうでしたか
それなら
僕には近づかないほうがいいですよ
なぜだ
月之紋さんは巻き込みたくないからです
でも
月之紋さんは不思議な人ですね
そうだな
俺にもわからん
月之紋さんとは蕎麦以外の競争はしたくないです
そうか
はい
刀の長さは俺の方が長いな
長ければいいというものではありませんよ
そうだな
僕の刀は最近
短く見える時があるのです
なぜだ
それは
なんとなくです
そうか
沖田
待っていたぞ
お前は
人斬りの
ああ
人斬りで十分わかるだろう
隣の男から
殺気が漂うな
お前は誰だ
さあ
沖田の前にお前からか
やめなさい
高田さん
危ない
スパ スパ
う
うう
助かったよ
月之紋さん
あれは
燕返し
お主はもしや
いや
そんなはずはない
時がちがう
どうされましたか
高田さん
しかし
その長剣からして
お主は
佐々木小次郎
そうみたいだな
なぜここに
今
わからん
しかし
お主
さっきより
刀の長さが短くなったような気がするぞ
そうか
どれ
二人とも命を大事にすることだな
高田さん
灯り
お爺ちゃん
どうしたの
蝋燭が揺れている
何かが
斉藤様
お茶をどうぞ
ああ
どうかされましたか
沖田が
沖田さんが
どうされたのですか
何もなければいいが
サチヨさん
蕎麦をもらえないかな
あれ
今日は珍しくお店を休むのかな
翌日
サチヨさん
サチヨさん
おかしい
サチヨさん申し訳ないけど
部屋に入るよ
あ
血が
サチヨさん何処
何処だ
ここの部屋か
なに
「娘を預かる」
急がないと
土方さん
どうした
サチヨさんが
サチヨさんとはお前の女だったな
そうか
それでどうした
昨日から見かけなくて
わかった
力になるぞ
新選組も動きだしたようだな
サチヨさん
サチヨさん
おお
沖田殿ではないか
高田さん
どうした慌てて
ええ、いろいろと
北の方じゃ
何がですか
蝋燭のひかりが北に揺れた
わかりました
助けて下さい
大丈夫だ
おとなしくしておれ
サチヨさん
どこだ
おや
今日も休みか
月之紋さん
いえ、佐々木さん
ちょうどいいところに
どうした
沖田
サチヨさんか
そうなんです
昨日からいなくて
誰かからさらわれています
わかった
俺はあっちを探してみる
しかし、心当たりがないからな
まあ、なんとかしてみる
この時はどうなっているのか
それさえ、わかればな
蝋燭の灯りが
また、輝きだしたか
ここは、何処
周りは暗闇
物音ひとつさえしません
待っていてください
サチヨさん
小次郎様
たすけてください
大丈夫だ
サチ
もう少しだぞ
もう少し
小次郎様
たすけてください
大丈夫だ
サチ
おぎゃあ
立派な男子ですな
よかったな
サチ
あの時とは違うが
同じだな
俺が行く
沖田さん
助けて下さい
待っていてください
サチヨさん
大丈夫だ
サチ
助けてください
だいじょうぶだよ
娘さん
この、ご時世のためだ
我慢してくれ
もう少しすれば
ひかりがさす
はい
土方さん
分かりましたか
やはりな
そうでしたか
申し訳ありません
サチヨさん
巻き込んでしまって
僕がサチヨさんのことを
想ったばかりに
出会ったばかりに
僕がかんざしを拾ったばかりに
サチヨさん
待っていてくださいね
必ず行きますから
また
かんざしを挿してあげますよ
沖田さん
また
お会いできますか
お会いして
手をつなぎたいです
あの時にふれた私の手を温めてください
どうか
お願いします
ひらり
ぱら
ほら
落としましたよ
あ
寒いですね
ありがとうございます
娘さん
申し訳ない
もう少し待っていてください
はい
沖田
わかったぞ
土方さん
俺も行くとするか
そうだな
斉藤
いえ
僕がひとりで行きます
いや
駄目だ
近藤さんの言うとおりだ
相手は少なくない
いくら、お前が新選組で強かろうと
一人では無理だ
しかし、多勢では騒ぎになるぞ
俺と土方、斎藤の四人でいこう
はい
小次郎様
やはり
行かれるのですか
ああ
なぜですか
行かなければならないんだよ
お侍さん
あっちの方に人だかりができているそうです
気をつけないといけないですよ
どうも新選組らしいな
相手はわからないが
聞いた話だと
女らしき声が聞こえてきたみたいだぞ
あの時と同じか
いや
ちがう
どっちだ
しかし
俺がいく
着いたな
沖田
寺か
相手は名のある者が数人いる
京での剣豪としてな
沖田
油断するなよ
わかっています
ざっと十名ほどか
そこら辺の雑魚じゃないぞ
サチヨさん
大丈夫です
僕が守ります
なぜ
俺が行かないといけない
蕎麦を御馳走になったからか
いや
俺がいく
ここか
ザー ザー ザー
突然の大雨ときたか
ザー
ピカ
ガラ ガラ ガラ
ピカ
やめてください
サチヨさん
娘さん
大丈夫ですから
後ろの方に座っていてください
娘さん
申し訳ありません
覚悟はいいか
おう
ザキ
ジャキ
スス
ぴか
だああ
沖田は左
俺と土方は中央
斉藤は右
よし
貴様は沖田だな
そうだ
優しいのか
鋭いのか
怯えているのか
わからない目をしているな
貴様と打ちあえて
よかったぞ
土方
後ろから
ザ
スパ
う
うおおお
お前は誰だ
知らん
なんだ
その長剣は
何しにきた
あの娘を助けにきた
月之紋さん
こないで
俺は佐々木小次郎という名だ
お前の目は鋭い
でも
どこか寂しいな
遠くを見つめているぞ
俺はここだ
仕方ないな
こい
言われなくともな
土方
大丈夫か
大丈夫だ
血が見えぬからな
この大雨でな
沖田さん
危ない
ス
油断するな
沖田
やめてください
やめないなら
舌をかみます
娘さん
そういう訳にはいかないんだよ
申し訳ないが
大丈夫だ
サチ
スパ スパ
うう
じゃあ
この刃で
待て
そうだな
娘さん
申し訳なかったな
この世を明るくするにはな
仕方ないんだよ
うう
よし、今日のところは
そうだな
お互いに明るくしような
ああ
俺はなんなんだ
大丈夫だった
サチヨさん
はい
よかったな
これでよかったのだろうか
わからん
俺には
俺はいったい
なんのために
ここに
大丈夫ですか
沖田さん
ここの肩に切り傷がありますから
傷薬を塗りましょう
ありがとう
サチヨさん
怖かったでしょ
沖田さんが蕎麦を美味しく
食べている姿を見ていましたから
怖くありませんでしたよ
僕は怖かったよ
いろいろな意味で
サチヨさんと
会えなくなるのか
それとも
会わないほうがいいのか
怖い思いをさせてしまった
僕も
沖田さん
どうして
どうしてそのような
悲しいことを
おっしゃるのですか
私は
それが怖いです
確かに周りは暗闇でした
でも
沖田さんが
いつもそばにいてくれましたから
怖くはありませんでしたよ
沖田さんは
いえ
どうしたの
沖田さんは最近の顔の色は変です
僕はもともと
こんな白い色だよ
沖田さん
沖田さん
起きてください
なんだ
この色は
いつからこんな色に
わからない
それが不安だ
僕は新選組の一番隊長じゃないか
そんなはずはない
死が怖い
怖い
駄目じゃないか
一番隊長が何を言う
情けないぞ
そういえば
幼い頃から不安だったな
意気地なしだった
でも
いまは
サチヨさんが
いるじゃないか
白く透明な水平線が見える
沖田さん
しっかりして
沖田さん
サチ
砂浜が熱い
焼けるほど熱い
沖田さんが
私のことを追いかけるからです
追いかけすぎです
今度は私が追いかけますよ
待ってください
はははは
ここに座ろう
なぜ
白い雪がふるのだろう
白い水平線がみえるね
サチヨさん
あれ
サチヨさん
サチヨさん
どうしてここに
沖田さん
近くに病を治すところがあります
そこに行きましょう
大丈夫だよ
サチヨさん
この国が僕を待っているんだ
大丈夫だよ
沖田さん
サチヨへ
突然だが弟の健次郎が
大工の仕事で大怪我をしてしまってな
薬を買うお金がないのじゃよ
わしも、もう思うように体が動けなくなった
生活が思うようにいかん
何とかならんか
ただ、サチヨも京で蕎麦屋をしているしな
このようなことを書いてはいかんな
せっかく
京で蕎麦屋をするということで
行ったからな
だが
弟のことはわしが何かあったら頼むぞ
父より
沖田さん
どうしました
実は弟が大怪我をして
田舎に帰らなければなりません
田舎とはどこ
薩摩でございます
薩摩とは
遥か遠くではないですか
沖田さん
もう
会えないですね
サチヨさん
確かにそうですね
仕方ないですね
薩摩か
なおさら
嫌です
沖田さんの後姿を
歩いていきたいです
でも
そうですね
薩摩か
別れも辛いけど
心配かな
僕と親しかったと知る者もいるかもしれない
それでいつ
準備ができ次第です
父は帰ってこなくともよいと
でも
たった、一人の弟と父のためですから
準備ができるまで
いつもどおり
蕎麦を食べにきてくださいね
もし
のれんが垂れていなかったら
それが
お別れの挨拶です
どうして
そんな辛いことをいわないでよ
僕が見送るから
いえ
それまで
よけいに
悲しくなるじゃないですか
サチヨさん
がら がら がら
がた
待って
カチ
サチヨさん
沖田さん
ごめんなさい
明日です
のれんを
もう
はずしました
翌日
よかった
のれんが出ているな
「本日はお休みさせていただきます」
沖田さん
本当は今日
船に乗るつもりでした
でも
これが精いっぱいです
やはり
明日は行かないと
今日は開いているよ
きっと
「申し訳ありませんが
本日までお休みさせていただきます」
サチヨさん
沖田
今日も休みか
佐々木さん
なに
どうした
実は
そうか
そうなのか
佐々木さん
お願いがあります
なんだ
道中だけでかまいませんので
そばにいてあげてもらえませんか
そうだな
どうせ
俺も居場所すらないからな
ありがとう
佐々木さん
それで
いつ
出発するのか
それがわからなくて
そうか
今日も開いているよね
サチヨさん
のれんが
どうやって
土方さん
実は
そうか
薩摩となると
ひらり
沖田
背中の帯から
こんなものが落ちてきたぞ
これは
いつのまに
土方さん
サチヨさんは
ここから舟で渡るつもりだ
乗れないじゃないですか
これがないと
そうだ
探せ
はい
何処だ 何処だ
早く追いついて渡してあげないと
佐々木さんにも伝えなければ
駄目だ
そういう間はない
これを渡さないと
走れ 走れ
あ
船代の札が
ひら
ひゅう
ひらり ひらり
なんだこれは
そろそろかしら
え
船代の札が
ない
もしや
ここから舟で
沖田
佐々木さん
サチヨさんが
わかっている
これだ
沖田
これを渡すんだ
この馬だ
この馬で翔け抜けろ
わかった
タッカ タッカ タッカ タッカ
サチヨさん
すぐ行くから
あ
舟が
船頭さん
待ってください
お客さん
もう、出ないと
間に合いませんよ
出発時刻をもう過ぎているのです
急がないと
タッカ タッカ タッカ タッカ
サチヨさん
沖田さん
船頭さん
待って下さい
すぐ行きます
わかりました
急いでください
これを持って
早く
お父様や弟さんを
はい
でも
でもじゃないよ
さわ さわ さわ
早く
川を渡って
佐々木さんが向かうから
着いたら
合流して
ほら
行くんだ
沖田さん
サチヨさん
元気でね
サチヨさん
沖田さん
ユッサ ユッサ ユッサ
さわさわ
さらさらさら
沖田さん
体は
体はだいじょうぶですか
心配です
サチヨさん
大丈夫です
佐々木さんが
きっと
守ってあげますよ
ゆっさ ゆっさ
佐々木さん
お願いします
舟が着く場所はここか
もう
あたりは暗いな
月の音しかせぬ
着いたのか
どうなのか
あれか
お客さん
着きましたよ
足元に気をつけて
はい
あ
危ない
ありがとうございます
佐々木さん
沖田さんが
元気にされていらっしゃるのであれば
いいのですが
ああ
大丈夫だ
俺が道中はそばにいる
道中は長いぞ
サチヨさん
無事に着いたかな
蕎麦が食べたい
いつか
会えるよ
僕も頑張る
サチヨさんもね
佐々木さん
頼みます
サチヨ
すまないな
心配をかけて
手紙を書くべきじゃなかったな
お前は京で頑張るんだ
わしは
あの
欠けている月だったな
満たしてあげられなかった
お父様
待っていてください
今
向かっています
そばに
力強い方もいらっしゃいます
どうか
お体を気をつけられて下さい
すぐ行きますから
お父様へ
お父様
途中で手紙を書くことができました
健次郎の怪我はどうですか
お父様のお体はどうですか
私は元気ですよ
待っていてくださいね
今日は途中で蕎麦屋さんに寄って
蕎麦を食べました
美味しかったですよ
でも
私の蕎麦の方が美味しいです
早く
お父様のそばに行って
美味しそうに食べる
姿を思っています
サチヨ
サチヨさん
そろそろ行こう
はい
サアー ザザザザー
かあ かあ
ザブン さわ さわ
ひゅー ひゅう ひゅう
ひゅうう
遅い
遅いぞ
ちゃぽん さわ さわ
ザワ ザワ
そろそろ着きます
では
お気をつけて
遅い
遅いぞ
ス
ズガ
さわさわ
ザー
かあ かあ かあ
あれは夢だったのか
幻か
なぜ
俺はここに立っている
サチヨ
なぜ
なぜ帰ってきたんじゃ
お父様
帰ってこない理由がありますか
誰がお父様と弟を助けることができますか
わしは
大丈夫ですよ
お父さん
あなた様がサチヨを
いや
行先がたまたま同じだけだったからですよ
では
待ってください
佐々木さん
どれ
少し離れたところで
釣りでもするか
また来る
何かあったら
いつでも
近くにいるぞ
佐々木さん
なんだ
都合のいいお願いなのです
京みたいに大きな町ではありませんが
蕎麦屋を開こうかと思っていました
舟の中で
小さい蕎麦屋を
開こうかと
わかった
俺は何をすべきかわからない
とにかく
生きていくべきだとしか
わかっていないからな
ありがとうございます
佐々木さん
サチヨさん
今頃どうしているのかな
僕は夜空を見上げているよ
今度は雪じゃない
あの星かな
どれだろう
おい
沖田
何をぼおっとしているのだ
申し訳ありません
局長
いつか会えるぞ
その時まで待て
沖田さん
サチヨ
申し訳ないな
お父様
お母さまが亡くなられて
さびしかったでしょ
どれだけ
ほら
お母さまのかわりに
肩をもんであげますよ
ここですか
それともここですか
ここですね
ああ
ありがとう
もう大丈夫ですよ
わしも長くない
健次郎をどうか頼む
お父様
大丈夫ですよ
心配いりません
小さい頃
お父様とお母さまと健次郎で手をつないで
散歩しましたね
川で泳いだり
私が溺れそうになって
お父様が助けてくれたのを覚えています
健次郎が川の石を積み上げていたら
私が意地悪で崩してしまって
お父様から怒られましたね
あの時は石が崩れましたが
今度は私が積み上げていきますよ
また
あの頃のような
しあわせな暮らしに
戻れますよ
どれ
釣りでもするか
釣れるか
よし
釣れたぞ
これを焼いて蕎麦と一緒にだすか
よいしょ
重いな
よし
ありがとうございます
佐々木さん
だいぶ準備ができたな
はい
これをいっしょに出したらどうだ
さっき、釣ってきた
鮎ですか
ああ
いいですね
パチパチパチ
香りが
蕎麦を引き立たせてくれそうです
沖田はどうしているかな
そうですね
きっと
優しい笑顔で頑張っていますよ
私も負けないで頑張らないと
そうだな
俺も手伝うよ
ありがとうございます
トントントントン
サクサクサクサク
よし
これでいいな
明日からお店を開けそうですね
そうだな
おや
あんな所に蕎麦屋が
おお
いいな
行ってみるか
いらっしゃいませ
こちらへどうぞ
いい感じの店じゃないか
ありがとうございます
どれどれ
蕎麦と鮎の塩焼きか
これにしよう
かしこまりました
パチパチパチ
おお
こうばしい香りがするな
そうだな
おお、これは美味い
ありがとうございます
ずるずる ずる
美味い
また、この鮎の塩焼きと合うな
ああ
よかったです
佐々木さん
ああ
どんどん
釣ってくるぞ
はい
おい、あそこの蕎麦屋は美味いぞ
そうか
行ってみるか
美味いな
おお、鮎か
いいな
美味いぞ
サチヨさん
今頃どうしているかな
僕は孤独かな
いや
局長、土方さん、斎藤さん達がいつもいる
頑張らないと
お互いに頑張ろう
希望の光が見えるよ
よし
釣れるぞ
どんどん釣れる
勝った 勝った
また、勝ったぞ
それでは
この試合で小倉藩の師範を決定する
よろしいか
はい
相手は強いぞ
俺は勝てるのか
自分を信じろ
いまだ
俺には今は何もない
力さえも
苦しかった
だが
勝てば小倉藩の師範となれるぞ
おのれを信じるのだ
今まで頑張んばってきたことを信じるのだ
これは
おのれとの
闘い
よし
行くぞ
勝は
佐々木小次郎
見事
小倉藩の剣術の師範として
頑張ってくれ
ありがたき
幸せでございます
よし
俺には未来があるぞ
ころ ころ ころ ころ
サチ
小次郎様
これか
だから
釣れるのか
いけるぞ
よし
釣れた
これだ
今はサチヨさんの力に
サチヨさんのそばにいるぞ
ちゃぽん
僕も釣れるかな
お魚が釣れるかな
ああ
釣れるとも
どっちが多く釣れるか
競争するか
うん
佑介
ちゃぽん
ほら
僕のほうが釣れたよ
本当だな
おじちゃんより
僕の方が上手だね
ちゃぽん
どれ
ちゃぽん
おじちゃんは刀を持っているけど
強いの
どうかな
僕が見た感じだと
強く見えるよ
そうか
サチ
どうされましたか
俺は強いのか
はい
そのように見えます
大丈夫です
小次郎様は
強いです
ひらり
サッ
僕は強いのかな
ああ
十分に強いよ
新選組の中でも
お前が一番強いかもな
だが
もっと上を目指せ
キャ
お父様
追いかけてきます
はははは
わんわんわん
はい
お手
お父様
ほら、お手を
よしよし
お姉さま
どうしたの
健次郎
凧あげをしませんか
いいですよ
走って
凧を上げて
もっと
雪がふってきたから
滑らないようにね
お姉さま
上がりました
もう
走れないけど
お姉さんがいるからね
風邪からの
熱も下がりましたよ
お父様
私が蕎麦屋をして
お薬代をなんとかします
沖田さん
今
どうしていますか
私は
佐々木さんと蕎麦をつくって
頑張っていますよ
あれ
熱が下がったかな
サチヨさんは今頃どうしているかな
外は雪か
サチヨさん
どうしているかな
僕は頑張っているよ
時々ね
でも
頑張るよ
どうやったら
届くかな
薩摩か
遠いな
僕の周りには
霧がみえる
本当は斬りたくないな
京の町も平和に
早くなれるといいけど
それを実現させるのが
僕の仕事だよ
サチヨさん
佐々木さんはどうしているかな
サチヨさんを守ってあげてくれてるかな
相変わらず
不愛想かな
鋭い目
でも
どこか
さびしい目
友達だよね
友
と言っていいのかな
佐々木さんは
何を求めているのだろう
何を探しているのだろう
サチヨさん
最近
夢をよく見るんだよ
サチヨさんから
怒られる夢をね
駄目ですよ
あまり無理されたら
そういう風に
怒られる
僕は新選組で強いと言われるけど
サチヨさんには勝てないな
好きだからだよ
薩摩は遠いか
でも必ず会いにいくよ
ころろ こころ ころ
サチ
ここにも
まりが転がっているぞ
俺はここに転がってきたが
お前のことは忘れないぞ
時が変わっても
佐々木さん
鮎は釣れましたか
ああ
三匹か
ちょうど
無くなったところでしたので
助かります
薬代の方はどうだ
はい
なんとか
なりそうです
そうか
健次郎はあと一年ほど治療が必要です
佐々木さんには申し訳ないという気持ちで
いっぱいです
だから
佐々木さんは
ご自身のことをお考えください
いや
サチヨさんのそばについてあげるべき者は
沖田だが
俺も行くところはない
また
サチヨさんを手伝ってあげなければな
それでよろしいのでしょうか
ああ
もう
それ以上は言うな
ありがとうございます
沖田と会える時までだがな
佐々木さんには
大事な方はいらっしゃらないのですか
もうこの時にはいない
そういうことだ
わかりました
無理はなされないでください
サチ
本当はお前のそばにいたい
サチ
しかし
もう
あの時にはいない
もう
あの頃には帰れないのか
とうとう
小次郎様
ゆらり ゆらり
俺の心や
気持ち
行くべき道
それぞれが
行ったり来たりする
わかったようで
わからない
だが
とにかく前に進む
進まなければ
がや がや
どうした どうした
またか
おお
またか
新選組の方ですね
ありがとうございます
いつも助かります
頼りになるな
そうだよ
僕はこの町
いや
この国を守っていかなければならない
これが僕の仕事のひとつかな
でも
やはり
サチヨさんに
会いたいな
どうすればいいのだろう
土方
なんとか
沖田とサチヨさんを会わしてあげる方法はないか
薩摩か
そうだな
沖田達しだいか
俺達はするべきことがあるからな
そうだな
ピチピチピチピチ
健次郎
だいぶ良くなりましたね
はい
お姉さま
今日はいつもの着物と違いますね
お姉さまの
今日の着物の帯は
どことなく
さびしい紅色にみえます
そうかしら
この紅色の帯は大事な方からいただいたのよ
優しい色じゃない
そうですね
僕の見間違いかな
お姉さま
どうしました
紅の葉が
外は紅の葉が舞い散っていますね
そう
沖田さん
はやく
斉藤
どうにかせんといかんな
早く
そうだな
局長
申し訳ありません
僕は
行きます
あの川から舟に乗るから
サチヨさん
待っていて
ゆっさ ゆっさ
ゆっさ
サチヨさん
ぽちゃ
お主
久しぶりだな
ああ
いつ
気づいた
わかるよ
僕が西を向いて
お前が東を向いているけど
そうか
方向はちがうけど
行きつくのは同じではないかな
そうだな
ゆっさ ゆっさ ゆっさ
なんだか背中が温かいな
気のせいだろ
俺は冷たく感じるな
ゆっさ
だが
俺の温かさを感じろ
時期に温かくなる
この国も何かに覆われているが
時期に温かくなる
そう信じろ
そうだね
でも
なんだ
僕はこのまま
行っていいのだろうか
あの人を
そうか
舟に乗って
今
気づきました
ゆっさ ゆっさ ゆっさ
お主の事情はわからぬが
信じるがままに行くべきではないか
そうですね
あなたは
どこに行くのですか
己がしんるべきところに行く
わかりました
ただ、僕の心はこの舟のように
揺れ始めています
己を信じろ
わかりました
ゆっさ ゆっさ
お客さん
着きましたよ
着きましたね
あれ
お客さん
さきほどから
何かを一人でしゃべっておりましたが
この舟は僕だけしか乗っていなかったのですか
そうですよ
わかりました
着いた
よし
行くぞ
紅の葉が落ちているな
どこだ
どこだ
そう言えば
あそこの蕎麦屋は美味いという評判だな
蕎麦屋
サチヨさん
申し訳ありません
蕎麦屋とは
どこですか
ええ
あそこを右に曲がって
ずっと一里くらい行ったところにあります
見た感じはお侍さまだと思いますが
途中に病を治してくれるところがあるますから
そこに寄られたほうがいいと思いますよ
ありがとう
だいじょうぶかな
かかわらない方がいいんじゃないか
そうだな
ここが病を治すところか
いや
急がなければ
大丈夫ですか
お侍さま
横になってください
ありがとうございます
お姉さま
いつも一緒に連れて行ってくださって
申し訳ありません
気にしなくていいですよ
もうすぐです
大丈夫です
だいぶ良くなりましたから
今日もお客さんが多いから
ここからは一人で行けますよ
だいじょうぶ
もう、大丈夫です
じゃあ
佐々木さんも待っているから
夕刻の頃に迎いにいきます
ありがとうございます
ひら
もう、だいぶ良さそうだな
はい
沖田さん
どうしていますか
ひら
おや
お侍さまが
あまり
近寄らんほうがよい
そういえば
サチヨさんは最近は一緒ではないのだな
はい
途中まで送ってもらっております
お店が繁盛しており
忙しくて
そうか
それは良かった
よかったよ
サチヨさん
もう少しか
いえ、もう幾日かここで過ごされなさい
だいじょうぶです
そうだ
帰りに神社に寄ってみよう
チリリン
沖田さん
お体はだいじょうぶですか
早く私の蕎麦を食べて
元気になれますように
どうか
はやく会えますように
会えますように
もう少し待っていて下さい
サチヨさん
がやがや
おい
まただぞ
だいじょうぶか
あそこに死人がいるぞ
この病はなんなんだ
土方
こればかりは
俺達もどうもできんな
いつまで、この病は続くのか
ああ
天に祈るしかないな
わあああ
ここもか
こっちもだ
どこだ
なんとかならんか
えええん
わああん
ひらり
帰りつきましたね
健次郎
足の怪我の方はどうでしたか
だいぶ良くなっているみたいで
もうすぐです
そういえば
病をかかえた
お侍さまが横になっておりました
佐々木さん
今日はお店を
行ってこい
はい
沖田さん
今からいきます
沖田さん
待っていてください
先生
サチヨさんではありませんか
弟さんと先程
いえ
ここにいらっしゃった
お侍さまは
また、同じ道を帰って行かれました
サチヨさん
やはり
駄目だよ
駄目なんだよ
サチヨさん
僕はやはり弱虫なんだね
幼い頃のように
サチヨさんを守ってあげられなかった
船頭さん
また乗せてください
お侍さま
先日ここに着いたばかりではないですか
もう
お帰りになられるのですか
申し訳ありませんが
わかりました
ゆっさ ゆっさ ゆっさ
ここに
お侍様がお見えになられませんでしたか
さきほど
もう一人の舟人が乗せて行きましたよ
先日来たばかりだったのですが
どうやら顔色も悪く具合が悪いようでした
追いかけてくださいませんか
もう、無理ですよ
お願いします
お願いします
わかりました
それでは急ぎましょう
お乗りになられてください
サチヨさん
僕はなんて
船頭さん
急いでください
お願いします
ピカ
ガラゴロゴロ
お侍様
雷に
北風が強くて
前に進めません
お母さん
おかあさん
聡司
もう熱も下がって
良くなったよ
ほら
おかゆができたから
食べてみて
はい
ゆっくり噛むのよ
はい
ゆっくり
飲み込んで
そう
そうよ
聡司
ありがとう
お母さん
ひらり
ひらり
おや
お客さん
後ろから
強い風が吹いてきました
ぐんぐん
進んでいきますよ
ゆっさ ゆっさ ゆっさ
もしかしたら
追いつけるかもしれませんよ
沖田さん
もう少しです
お侍さま
これじゃ進めません
お客さん
あ
舟が遠くに
確かに
そうですね
もう少しです
沖田さん
おや
もう舟は出ていないはずだが
近づいてきますよ
サチヨさん
お客さん
白い花が
届きましたよ
サチヨさん
沖田さん
どうしてここに
優しい風が吹きました
だから
来ました
タン
刀が
もう
拾う必要はありません
今度は
私が
私が拾います
沖田さんを守ります
サチヨさん
沖田さん
僕は
サチヨさんを守ります
雷がやみましたよ
はらり
ひら
雪が
ふってきましたよ
お客さん
先生
ああ
サチヨさん
いっしょにいって
私の家で休みましょう
沖田さん
ありがとう
サチヨさん
あれ
佐々木さん
お客様は
お姉さま
佐々木さまがこれを
「南の方にいく、沖田にそう伝えてくれ」
沖田さん
今からお蕎麦を作りますから
少々お待ちください
どうですか
ああ
美味しいよ
サチヨさん
あれ
佐々木さんは
佐々木さんは
佐々木さんは隣町に
そうですか
しばらくは帰ってこないと思います
ここでゆっくりされてください
ありがとう
しばらくここにいるけど
いいのかな
沖田さん
待っていました
お腹がすいたでしょう
すぐにお湯を温めてきます
体を洗ってさしあげます
さぞかし
寒かったでしょう
さみしかったのでしょう
もう
大丈夫です
大丈夫です
さぞかし
つらかったでしょう
今日はゆっくり休んでください
サチヨさん
おはようございます
おはよう
サチヨさん
昨日はよく眠れましたか
はい
サチヨさんのおかげで
あれ
なんだこの手紙は
佐々木さん
サチヨさん
サチ
会いたいぞ
会いたい
時がちがうのか
佑介
佐々木さん
早かったじゃないか
沖田
佐々木さん
サチヨさんを支えてくれて
ありがとうございました
ここに座れ
あそこに大きな池があるだろう
一面が紅の葉でおおわれていますね
ああ
ここに石がふたつある
これをあそこに投げるぞ
そうですね
今度は必ず届く
そうです
ぽちゃ ぽちゃ
今度は届きましたね
佐々木さん
次は
沖田
立て
わかりました
かまえろ
どうして
いいから
俺も
ひゅう
ひらり
すう
見ろ
あの大きな池を
虹が
広がって
見ろ
池の紅の葉が
広がって
消えていきましたね
遠くに白い水平線が
答えはここにあったんだね
サチヨさん
白い 白い
雪とともに
雪もいずれ消えていく
そうだ俺はこのために
ここに来たんだ
沖田
覚えているか
指相撲をしたのを
覚えていますよ
佐々木さんが
小指でくすぐったから
僕がつかんだんですよ
約束だったろ
そうですね
お前と出会えて
よかったよ
僕もです
パタパタパタパタ
白い鳥が飛んで行ったな
虹の方にな
大きな虹の方にですね
ピチ ピッチ ピチ ピチ
チュウ チュウ チュウ
お父さん
ほら
白いきれいな花が
病が治っていきはじめたぞ
すう
ふわふわ ひらひら ひら
ひゅう ひゅぅ
おお
あっちには
優しい
うす紅色の花もあるぞ
ふぁ ふぁ ふぁ
みて
みて
さあ さあ
ふあ
ほら
ひら ひら ひら ひら
わあ きれい
花が広がっていくね
うん
お爺ちゃん
メン
はははは
土方
斉藤
よかったな
近藤さん
沖田
おお
よかった
こっちもだぞ
ヒュ ヒュウ
風は温かいぞ
そうだな
やった やった
キャ キャ キャ
くすくすくす
佐々木さん
お元気ですか
私は今
京で元気で
新たに蕎麦を作っています
京の町だけでなく
この国も今は
笑顔であふれかえっています
今はどうされていますか
お元気でいてください
笑いながら蕎麦を食べている姿を
もう一度みたいです
お母さん
どうしたの
大丈夫よ
もう
大丈夫よ
小次郎様
サチ
お帰りなさい
ああ
待たせたな
お父様
佑介
帰ってきたぞ
お帰りなさい
小次郎様
完
沖田聡司と一人の男 虹のゆきに咲く @kakukamisamaniinori
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