萎びた胎児
手先が、全身が震えている。
私は背の高い草が生い茂る川べりに座り込み、白い長方形の箱を抱えていた。大きさは、縦が16センチ、横が5センチ程度だろう。中身も、為すべきことも分かっていたが、私は動けずにいた。
まだ四月に入ったばかり。麗らかな春の陽気と、時折吹く爽やかな風。それらが私を苦しめる。異常な発汗でびしょびしょになったシャツが肌に張り付き、風が体温を奪っていく。かと思えば陽気が生い茂る草に捕らわれて、地面からの湿気と相まって気持ち悪い。早くここを離れたかった。
私は恐る恐る箱の蓋を開けた。中には、萎びた胎児が収まっている。
赤子と呼ぶには早すぎ、ただの人型だと言うには遅すぎる。妊娠三か月くらいになれば、こんな姿なんだろうか。小さな手足があり、にゅるりと比較的大きな頭部がある。体色は紫がかって萎びて――これは、萎びた胎児だ。
ジーンズのポケットからはさみを取り出して、意味もなく動作を確認した。喉が震え、生ぬるい吐息が小刻みに漏れ出る。
理由はないが、私はこれから恐ろしいことをしなければならない。欠如した私の過去と、形而上学のこの空間がそうさせる。私はルールではないからだ。
はさみを萎びた胎児の細い右腕にあてがい、力を込めた。軟骨を砕く感触――骨はまだ未完成で、半透明にも見える。
そのまま四肢から頭部へと処置を行う。出血がいやに少ないが、身体のサイズを考えればこんなものだろうか。なんと恐ろしいことをしているのかと、私の中の何かが責め立てる。良心か倫理観か、酷く冒涜的な気分だった。
あとはこれを箱に戻し、土の中に埋めれば終わりだ。しゃがみ、素手で土を掘り始めた。
「あそこで何かしてる」
「変なお兄さんいる」
はっとして、声の主を探した。
左側、遠くに子供が二人いた。男の子と女の子。私を指差し、きゃっきゃと無邪気な様子でこちらへ向かっている。
彼らは、この光景を見て騒ぐだろうか。無事やり過ごしたとして、家に帰って親御さんに話したりしないだろうか。
急激に体が熱を持つ。汗が止まらない。
私ははさみを持っている。はさみを――
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