黒曜石とレーザー銃

 頭が割れるような頭痛がして、気付くと私は黒曜石の大地に立っていた。隣には、銀色の宇宙服で身を包んだ典型例エイリアンが立っている。グレイ型、一般のエイリアンイメージ。


「君の使命は」


 エイリアンからレーザー銃を渡される。これまた典型例、水鉄砲のような形だ。


「あの黒曜石を全て砕くことだ」


 空には無数の黒曜石が浮かんでいた。完全な正立方体で、ゆっくりと回転している。大きさはまちまちで、じっくり見ていると遠近感が狂ってしまう。黒曜石正立方体の隙間から覗く空は白く、狂ったコントラストに頭痛を覚えた。


「そのレーザー銃で、黒曜石を砕け」


 言われるがまま、レーザー銃の銃口を黒曜石に向け引き金を引いた。オレンジ色のレーザーは反動もなしに鋭く伸び、黒曜石に命中。しかし漆黒の表面に弾かれ、明後日の方向に跳ね返り、やがて減衰して消えた。


「壊れない」

「全ての黒曜石を破壊するまで、君はここから出られない」

「そんな! あんまりだ!」


 一度の挑戦で、このレーザー銃では黒曜石を壊せないと確信した。それはつまり、私は一生ここに捕らわれることを意味している。完全に空虚で、無意味な黒い牢獄に。


「あんまりじゃないか……」


 恥も外聞もなく、私は両膝を突いて泣いた。息を詰まらせて泣く私の喘ぎだけが、唯一の音だった。エイリアンは立ったまま、じっと黒曜石を睨みつけている。

 頭が痛い。頭痛がする。頭が割れるようだ……


 あまりの頭痛に私は目を覚ました。枕元に置いておいた体温計で図ると、熱は三十九度近くまで上昇していた。がんがんと殴られているような頭痛が離れない。


 多分インフルエンザだろう。私は毎年インフルエンザに罹る。最悪のシーズンでは、一年に三回も感染したことがある。

 ただの風邪であることを祈り、市販の薬を飲んで三日間耐えたがもう限界だ。今日、朝一で病院に行こう。先生はきっと、「またインフルエンザですか」と半笑いを浮かべるだろう。去年と同じように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る