第7話

 俺は何もかもをあずさに任せっきりの今の状況に少し焦っていた。自分も何かしないといけないのではないか。せめてお宝の換金だけでも、そう思った。


 あずさ、俺も町に行ってみようと思うんだけど。


「だめだよぉ♡ お兄ちゃんはずぅーっとここで私と過ごすの。町なんて行っちゃダメ♡」


 あずさは両手を俺の頬に添える。鼻が触れ合うくらいの距離まで顔を近づけて、深紅の瞳で俺を覗き込んでくる。


「現世に居た頃を忘れたの? ニンゲンは恐ろしいの。モンスターの方がよっぽど安全なくらい。だから、お兄ちゃんは町に行っちゃダメ。」


 あずさの瞳を覗いていると意識が吸い込まれるような気がして、頭がふわふわする。あずさの言葉が身体に染み込んでいく。


「わかった? お兄ちゃん♡」


 うん。俺が間違ってたよ。町に行ったってイヤな思いをするだけだよな。


 ――己の思考に違和感を抱く。


「うふふ♡ 物分かりのいいお兄ちゃん、だーいすき♡」


 そういってあずさは俺を抱きしめる。俺は心地よさを感じながら身をゆだねる。


 ――腹部が疼く。


 そうだった。現世でもあずさだけが俺を大切にしてくれた。他人は必要ない。どうせ裏切られるなら、そんな無駄な勇気を出す必要はない。


 ――脳の奥で何かが警鐘を鳴らす。


 恍惚とした表情のあずさを見ていると俺の中にあった焦りが消えてゆく。これでいいんだと安心する。


「よかった♡ ちゃーんとおまじない効いてるみたいだね♡」


 ――かすみがかかった頭の中で、己の感じる違和感は塗りつぶされて、いつの間にか感じなくなっていた。

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