第7話
俺は何もかもをあずさに任せっきりの今の状況に少し焦っていた。自分も何かしないといけないのではないか。せめてお宝の換金だけでも、そう思った。
あずさ、俺も町に行ってみようと思うんだけど。
「だめだよぉ♡ お兄ちゃんはずぅーっとここで私と過ごすの。町なんて行っちゃダメ♡」
あずさは両手を俺の頬に添える。鼻が触れ合うくらいの距離まで顔を近づけて、深紅の瞳で俺を覗き込んでくる。
「現世に居た頃を忘れたの? ニンゲンは恐ろしいの。モンスターの方がよっぽど安全なくらい。だから、お兄ちゃんは町に行っちゃダメ。」
あずさの瞳を覗いていると意識が吸い込まれるような気がして、頭がふわふわする。あずさの言葉が身体に染み込んでいく。
「わかった? お兄ちゃん♡」
うん。俺が間違ってたよ。町に行ったってイヤな思いをするだけだよな。
――己の思考に違和感を抱く。
「うふふ♡ 物分かりのいいお兄ちゃん、だーいすき♡」
そういってあずさは俺を抱きしめる。俺は心地よさを感じながら身をゆだねる。
――腹部が疼く。
そうだった。現世でもあずさだけが俺を大切にしてくれた。他人は必要ない。どうせ裏切られるなら、そんな無駄な勇気を出す必要はない。
――脳の奥で何かが警鐘を鳴らす。
恍惚とした表情のあずさを見ていると俺の中にあった焦りが消えてゆく。これでいいんだと安心する。
「よかった♡ ちゃーんとおまじない効いてるみたいだね♡」
――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます