第5話

「えいっ♡」


 あずさが軽く腕を振るうとかまいたちが生じる。目の前のモンスターたちはあっさりと両断されて、魔素の霧となって消える。


 あずさは本当に強いんだなー。


「もうっ♡ そんなに褒めないでよお兄ちゃん♡」


 照れたあずさにバシッと背中を叩かれる。痛くてちょっとむせる。


「あは♡ 向こうに強い魔素の塊があるよ! きっとお宝だねお兄ちゃん♡」


 出来立てのダンジョンだけあってまだ回収されていないお宝もたくさんあるようだ。だが、他の冒険者もこぞって取りに来ているはずなので先取りされないように急いでお宝へ向かう。


 あずさの魔力探知は便利だな。


「えへへ♡ これがあればお兄ちゃんの位置も手に取るようにわかるんだよ♡」


 そうこうしていると宝箱が見えた。だが、残念ながら先着した女の冒険者がいた。

 ダンジョンの宝はわかりやすく宝箱に入っている。これはダンジョンに生じた宝そのものが魔素の拡散を防ぐために生み出すものだ。しかし、たまに過剰な防衛本能を持つ宝がモンスターを自身といっしょに宝箱に入れることがある。


「あーあ♡ 先に取られちゃったかぁ。」


 などといっていると、女の冒険者が宝箱に頭からぱっくりと食べられた。そのまま宝箱から伸びてきた触手に体を絡め取られ、引きずり込まれそうになっている。


 まずい! あずさ、頼む!


「えー♡ ま、お兄ちゃんの頼みなら仕方ないか。」


 あずさが触手を切断し、宝箱から女冒険者を引き抜く。そのまま宝箱の中に手刀をねじ込み、中のモンスターを退治する。

 触手の粘液でべとべとになった女冒険者が咳き込みながら礼を言う。


「えほっ。えほっ。 助けてくださり、あ、ありがとうございます。うー。 そ、その辺に眼鏡、ありませんか?」


 ん? ああ、これか。


 俺は眼鏡を手渡す。


「あ、ありがとうございます。本当になんとお礼をしたらいいか……。そうだ。お名前だけでも聞かせて……。」


 しかし、急に眼鏡をかけた女冒険者の顔が青ざめる。


「し、失礼しましたー!」


 などといって急に駆け去ってしまった。


 いったいなんだったんだ。


「さあね♡ でも、お兄ちゃんには私だけ居ればいいし関係ないよね。ああ、お兄ちゃんに変な虫が付かなくてよかった♡」


 あずさ、おまえなにかしたのか?


「しーらない♡」

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