5弦の主張

 えー、どうもどうも。やぁっと張り替えてもらえましたよぉ。もう、長かったー!

 どれぐらいぶり? え、1年以上は張り替えてないよなぁ。もうサビサビでしたよぉ。

 もうね、オーナーの声で「ダダリオ」なんて単語が聞こえてきますとね、「おっ、次は俺らかな? あぁ、違った………」「あっ、今度こそ…?! うーん、あっちのギターだったかぁ〜」なんてね。一喜一憂ですわ、ええ。待ちきれなくなって、自分で音出してアピールしてみちゃったり。「…ビィ〜ン」なんつって。こう、必死に身を捩ってね、「ビィ〜〜ン」つって。


 いやいやいや、笑いごとじゃないんですよ。けーっこう大変なんですから。だって、弾かれてもいないのに音出すんですよ? 誰も触ってないのに、音出すんですよ? 学校の怪談かよ、って。音楽室のピアノかよ、って。

 こっちはオバケ一切関係ないのに、音出すんですから。そりゃ大変……ええ、それはもう、気合いですよ。気合い。

「オーナーさん、たまには弾いてよ〜! 弦替えてよ〜!」ってなもんでね。で、頑張ってビィ〜ンって鳴らしてみたら、オーナー留守だったりしてね。はちゃ〜って感じですよね。「出かけるなら一声かけてよ、もう〜」つって。

 で、がっくりとため息をついたら、その勢いで「ビィ〜ン」とかね。オイオイ今じゃないって!! なんてね、ヒャ、ヒャ、ヒャ、ヒャ!!


 あ、オーナーって? 持ち主のことです。ええ、ウチの6弦なんかは持ち主って呼びますね、オーナーのこと。いや、どっちもおんなじです。でもなんか、俺はぁ、オーナー呼びの方がかっこいいかなって。えへへ。

 あー、あいつねぇ。ちょっとこう、僻みっぽいっていうかね。よく「6弦は損」とかボヤいてますね。別に、俺たち弦に、損とか得とかないと思うんですけどね……ええ? そんなこと言ってました? 俺のおとがでかいって? えー、参ったなぁ。ま、俺の方が若干音が高いからね? 響きがいいっていうか……あ、これ自分で言っちゃ絶対ダメなやつっすね、アヒャ、ヒャ、ヒャ!!


 まあ、俺がしっかりしてないとね。俺が基準、みたいなとこありますからね、ええ。なんかっちゃぁ12フレットでハーモニクスされがちですし、緩んでらんないっすよ。気合い入れてね、声張ってこーって。あ、声じゃなくて、弦張ってこー! ですね。アヒャ、ヒャ、ヒャ、ヒャ!

 うん、気合いとかってわりと大事だと思うんですよ。そりゃ、テクニック的なことも大事ですけどね。それをココで話しても……ねえ。専門用語ばっかじゃ、読んでる人はつまんないじゃん?

 えーっとね、それで6弦はともかく、隣の4弦なんかがさ……あいつも巻かれてっけど、造りがちょっと華奢なせいか、なんかど〜も頼りなくてね……そのぶん俺が頑張らなきゃって、思うんすよ。ええ、マジな話。えー、酷いじゃないですかぁ。俺だってたまには真面目なことぐらい言いますよ。たまーにですけどね! アヒャヒャ、ビィ〜ン! あっ、鳴っちゃったw


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