ウチの2弦はキレやすい

霧野

6弦のボヤキ

 ああ、やっと張り替えてもらえた。これでキレのあるいー感じの低音が出せますよ。


 もうちょっと頻繁に張り替えてもらえると有り難いんですがね。

 悪口を言うわけじゃないんだけど、なんせ持ち主がズボラだし、忙しいし。そのわりに持ってるギターの数が多すぎるんじゃないかと。俺はそう思うんですよね。

 何本持ってるのかって? それが、酷い話で。聞いてくださいよ、本人も正確には把握してないらしいんですよ。

 俺から見える範囲で……うん、20本はありますね。他にもケースに入って眠ってるのが何本もあるらしいですから……そりゃ、全てのギターの張り替えなんてできやしません。時間もお金もかかり過ぎる。しかたないんですよ。


 でもねぇ、そうは言ってもですね、俺なんてほら、6弦だから、造りが太いでしょ。真ん中に太い芯があって、その周りをぐるぐるぐるぐるって巻いてあるわけです。だから、その……一言で言っちゃえば、錆びやすいんですよ。

 いや俺だってね、好きで錆びてるわけじゃないです。もちろん。実は傷つきやすい俺をもっと労れ、なんてそんな大それた事言うつもりもありませんよ。え、誰もそんなこと思ってない? ……そうですか? ………ほんとに? だってみんな「太いんだからいーじゃん。どうせ丈夫なんだろ」とか思ってそう。


 太きゃ太いでねえ、わりと大変なんですよ。表面積が大きい分、演奏者の汗や世間の風にさらされがちなもんで。

 他人よそのギターの6弦と話した時なんかもね、「6弦は太くて固くて指が痛い」なんて嫌われたみたいで。ああ、それは持ち主がギター初心者だったみたいですね。あるあるなんですよ、6弦嫌われがちあるある。

 そりゃこっちもね、女の子の細くて柔らかい指で押さえられたら、ちょっとくすぐったいけど悪い気はしませんよ。「指いたーい!」とか言われちゃうとね、「ごめんよ、固くてごめんよ。そんなに強く押さえなくても、ちゃんと音は出るから大丈夫だよ」って思いますよね。普段は硬化したオッサンの指でガンガン弾かれてるんでね。

 やっぱねえ、1〜3弦あたりがもてはやされますよ。なんせ巻いてないぶんキラキラして見た目も華やかですしね。スラッとして細いし。音だって……活躍の頻度だって……見せ場も多いし………


 いや、べつに羨ましいとかじゃないですよ、ハハッ。俺は俺にしかできない役目と良さがありますしね。渋み、っていうのかな。俺が居なきゃ、曲の深みが出せな……え、いまベースと一緒って言いました? 言ったじゃないですか。低音ならベースに任せればって…!! そういうことじゃないんですよ、そういうことじゃ、ないんですよ! わかってないよなあぁぁ!!

 ほんと、いつもこうなんだ。世間は6弦の重要さをわかってない。過小評価もいーとこだ。まったく………同じ低音担当なのに5弦はやたら音デカイし………くそっ……そりゃ俺だって主役張りたいですよ。スライドとかやりたいですよ……あ〜あ、往年のベンチャーズブーム、再来しないかなぁ。ブゥ〜ン、テケテケテケテケって、やりたいなぁ………


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る