第3話 前に進む理由
ラストとグラートが通う学園都市区域の近くにある住宅街が広がるリストール郊外。
そこはコンクリート材質の建物が多く立ち並び、夜という時間帯も相まって人通りも少なく、街灯が怪し気に等間隔に夜道を照らしているのみ。
その郊外の端に外套を着てフードで頭を隠した二人の学生の姿があった。
グラートはラストにとある武器を渡していく。
「これを使え。それは充填式魔力式駆動剣銃で、簡単に言えば武器自体に魔力が蓄積されていて魔力がない人にも扱える代物ってわけだ」
「これを僕に?」
「あぁ、なんせ言い出しっぺは俺だしな。
それに魔力を持たないと通用しない相手に魔力がないラストを戦わせるわけにはいかない。
あ、安心しとけ使えるか確認してあるから。ただ一般的な魔剣銃とは違って内在する魔力量を使い切ると単なる鉄の塊になるから気を付けろ」
「わかった。それで肝心の悪魔の場所とかわかってるの? というか、本当に悪魔なの?」
ラストは渡された魔剣銃を見たり、感触を確かめたりしながらそんなことを聞いた。それに対し、グラートは神妙な顔で答える。
「正直なところ、ハッキリしたことは俺もわからない。ただ事件の感じが悪魔の仕業って可能性が高いってだけだ。
ま、それでたとえ悪魔じゃなくても何人も誘拐してる凶悪犯を捕まえるだけでも立派な功績になるからな」
「でも確か出現場所はバラバラなんだよね? まぁ、ある程度の範囲で収まってたけど」
「そう、そこが肝だ。まぁこれ以上は実際に見つけなければ話が進まない。俺がその場所に行くからラストはついてきてくれ」
「わかった」
グラートの案内の下にラストはその後ろをついていく。二人が脳内マップで目印をつけた場所に虱潰しで探していくとリストール郊外の端のさらに端ほどの薄暗く木に覆われた近くで何かを目撃した。
それはその夜道を歩く一人の女性の街灯によって後ろに伸びる影からスッと角の生えた人型の上半身が現れたのだ。
その光にさらされても暗き存在は背後から女性の口もとを抑え、羽交い絞めにするとそのまま現れた影へと引きずり込もうとしている。
「助けないと!」
「待てっ!」
咄嗟に飛び出そうとしたラストに対して、グラートはすぐさま腕を伸ばして制止させる。
その行動にラストは思わず文句を言おうとするが、グラートがもう片方の手でしっーと口に人差し指を立てていて、すぐにその女性方向に指を向ける。
するとそこには、その暗き存在に対して両手に剣を持ち斬りかかっている存在がいた。
「あれは......エギル君!?」
「みたいだな。どうやら目的は俺達と一緒らしい」
エギル=ラクリエッタ――――魔力を持たないラストを邪険に思っている人物の一人で、その彼が暗き存在に攻撃を加えていたのだ。
しかし、暗き存在は女性を手放すとエギルの攻撃を颯爽と躱していく。そして、エギルを手招くように動かすとそのまま逃げるように動き出した。
その後を「待ちやがれ!」と叫びながらエギルは後を追っていく。
一先ず周囲の確認が終わると二人は顔を見合わせ頷き合い、地面に倒れている女性の下へと走り出した。
グラートは女性を抱きかかえると手首から脈拍を測っていく。
「大丈夫、気絶してるだけみたいだ」
「良かった。ぞれじゃ、グラートにはその人を任せるよ。僕はエギル君を助けに――――」
「やめておけ」
「......え?」
ラストがすかさず走り出しそうとしたその時、グラートから思わぬ発言を受けて立ち止まる。
その意味を尋ねようと振り返ると悔しそうに口元を歪ませながら、脂汗を流しているグラートの姿があった。
その体は僅かに震えている。その異常的な状態にラストは困惑が隠せなかった。
「どういう意味?」
「お前は魔力がないから感じれなかっただろうが、あいつがエギルの野郎を手招きした瞬間、僅かに魔力が漏れたんだ。それを感じた直後に思った――――格が違うと」
グラートは僅かに震えた声のまま続けていく。
「あいつは悪魔だ。確かに俺は『悪魔かもしれない』と言ったが、それはあくまで下級の魔族の意味合いで言ってただけだ。しかし、アイツは違う!」
この世界における悪魔は総称してそう呼ばれることが多いが、厳密に言えば悪魔と呼ばれる存在はかなり個体数が限られている。
総称して「悪魔」を個別に分けると「悪魔」「魔族」「魔獣」とあり、特魔隊の大方が務めるのが「魔族」の討伐である。
そして「魔族」とは「悪魔」によって作り出された人型の魔力生命体のことを指し、その力は人間の力と同等かそれ以上と呼ばれている。
その「悪魔」と「魔族」の間には隔絶された圧倒的力の差が存在しており、「悪魔」は手練れの特魔隊員であっても生きて帰って来れれば幸運と呼ばれるレベルである。
グラートは先ほど目撃した存在をそう断定した。その芯から震える恐怖から、魔力量の違いからそう判断したのかもしれない。
しかし、ラストは落ち着いた声色でその意見に反対していく。
「あれは悪魔じゃないよ。グラートは本物の悪魔を見たことないだけ。恐らくあれは魔族だよ」
「どうしてそんなことがお前に言えるんだよ! お前は魔力がないのに!」
グラートはすかさず言い返した。しかし、その言葉が明らかにラストを傷つける言葉だとすぐに理解して思わずハッとした表情になる。
「すまん......ついカッとなった。冷静じゃなかった」
「しょうがないよ。最初見た時はそんなもん」
「見た時はそんなもんってお前まるで見たこともあるような言い方......」
グラートはラストの悲しそうな瞳で微笑む顔を見てそれ以上は言えなかった。しかしすぐに理解する。ラストは「悪魔」を見たことがあるのだ、と。
ラストは「それについてはまた後でね」と告げるとグラートに対して背を向ける。
「グラート、その人を頼むよ。僕はエギル君を助けに行く」
「......どうして相手が格上だってわかってるのに前に進めるんだ?」
やけに落ち着いたようにも見えるラストの背中に向けてグラートは思わずついて出た言葉を口にした。
するとラストは弱気など見せない力強い笑顔で答える。
「もう何も失いたくないから。後はもう苦しまなくていいように、かな」
ラストは「それじゃ行ってくる」と告げるとそのままエギルが行った方向に走り出した。その後ろ姿が小さくなるまで、グラートは思わず眺めてしまう。
「......ははっ、やっぱりアイツはスゲーや。魔力がないにもかかわらず、魔力がある俺よりもよっぽど勇敢な行動をしやがる」
「あれは勇敢じゃなくて無謀というの」
「誰だっ!?」
グラートは全く気配を感じなかったことに驚きながら、すかさず正面に立った外套を着て深くフードを被った人物に声をかけた。
するとその人物は一言も発さずにフードを外していくと街灯の光によって照らされたその顔が露わになった。
「お前は......!」
******
その一方で、グラートと別れエギルの場所に向かって走っていくラスト。
本来魔力のある者は探し人を探す時には魔力による探知で探っていくものだが、魔力がないラストは目視で周囲を探っていた。
普通はそんなことをしてもわからないが、前方の斜め方向で建物の奥から僅かに雷光を捉えた。
「あれはエギル君の魔法だ」
ラストはその場所に向かって更に走る速度を加速させる。魔力がない分鍛え上げられた脚力がそれを可能にさせていた。
そして、ラストが再び雷光を見たのはとある廃れたビルでその両開きの扉を蹴飛ばしながら開けてみたその先には――――
「おや、招かれざる客人のようだ」
「エギル君......!」
魔族に首を掴まれながらも意識を失ったように脱力させているエギルの姿があった。
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