第4話 井戸を覗いたら
「な、な、何だよ!」
声を震わせる将大の方を振り向き、慶子は、あっはははと笑い声を上げる。
「なんちゃって。何も見えないわよ。寺も井戸も、今は使われてなくて、水だってないんだから。死に顔なんて、映らないわよ。」
「な…何だよ。」
ホッと胸を撫で下ろした将大に、井戸の中を覗きながら貴之は、言う。
「ほんとだ。何もないよ。将大、来てみろよ。」
手招きをする貴之の側に、恐る恐る近付くと、将大は、懐中電灯で井戸の中を照らし覗く。
井戸の中は、暗く、手前は、懐中電灯で明るいが、奥に向かうにつれ、次第に明かりがぼんやりと灯り、深さがあるのか、奥は暗闇で見えなかった。
「ほらな。なんもないだろ? 」
そう言って、小石を手に取り、貴之は、井戸の中に落とす。
しばらくすると、井戸の奥で、ピチャンと音がした。
「あら?水はあるのね。でも、石が落ちるまでに、結構、時間かかったし、思ったより、深そうね。」
笑いながら慶子は、言う。
「何もないんだし、もう帰ろうぜ。」
そう言いながら、井戸から顔を上げようとした将大は、ドンッと強く背中を押され、井戸の中に落ちる。
「うわっ!」
声を上げ、ガッと井戸の縁を両手で掴む。
「慶子!貴之!引き上げてくれ!」
必死の形相で、そういう将大を慶子と貴之は、クスクス笑いながら見ている。
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