第1話 雨の訪問者


秋彦が住んでいる家には、2年前に若い夫婦が住んでいた。


奥さんは、とても美しい人で、近所でも評判だった。


しばらくして、奥さんは、妊娠し、幸せな家庭に見えたという。


もうすぐ子供が生まれるという頃。


その日は、雨が激しく降っており、買い物に出掛けた奥さんは、足を滑らせ、転倒してしまった。


運悪く、尻もちをつく形にドスンと、雨の中に転んだ為、奥さんは、下半身から酷い出血をして、着ていた白い服がみるみる赤く染まっていった。


子供は、死産、奥さんも、その時のショックで身体を壊し、間もなく亡くなった。


しばらく、そこに住んでた夫だったがいつの間にか、引越し、空き家になったという。


家自体は、新築で綺麗なままなので、すぐに売りに出されたがまた、すぐに空き家になった。


雨の日になると、女の幽霊が出るとか、何処からか赤ん坊の泣き声がするとか、そんな噂がたったらしい。


「俺もさ、お袋に聞いたんで、詳しくは知らないんだけどな。気になるようなら、不動産に聞いてみろよ。」


健二は、そう言うと先に休憩室を出て行った。


話を聞き、ゾッとはしたが、どこか気の毒に思え、秋彦は、複雑な思いになった。


「引越しちゃえば?」


洋子が言う。


「お前ね…簡単に言うけど、引越しなんて、そんなに出来ないよ。貯金も、あんまりないし。」


他人事だと思い、明るく笑っている洋子に、軽く息をつき、秋彦も休憩室を出て行った。

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