第1話 雨の訪問者


「いいえ。表札、見なかったのですか?」


秋彦の言葉に、女は、眉を寄せ、玄関の表札を見る。


「おかしいわ…。」


何だ、この女?


おかしいだって?


おかしいのは、お前だろ。


などと思ったが秋彦は、落ち着いた声で言う。


「とにかく、うちは田中じゃありませんから。」


そう言って、ドアを閉めようとすると、女は、震えた声で呟く。


「…寒い。」


随分、雨に打たれていたのか、声も震えているが身体も小刻みに震えている。


何だか気持ち悪い女だな…と思ったが今は、11月。


暖かい季節ではない。


秋彦は、チェーンを外し、女に優しく言った。


「良かったら、少し、ここで休んでいかれませんか?


何故、そんなことを言ったのか自分でも分からなかったが何となく、冷たく突き放すことが出来なかった。


女が自分の好みのタイプだったかもしれない。


女は、美しかった。


寒さに唇の色はなかったが美しい顔立ちをしていたのだ。


「いいんですか?」


「どうぞ。」

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