第1話 雨の訪問者


パチンと玄関の明かりをつけ、秋彦は、クロックスを履き、玄関の覗き穴から、外を見た。


暗くて、よく見えなかったが黒い人影が立っている。


秋彦は、覗き穴から覗いた格好のまま、手を伸ばすと玄関の外の明かりをパチンとつける。


「うわっ!」


思わず秋彦は、声を上げた。


明るくなった玄関のドアの向こう側、赤と白の服を着た髪の長い若い女が全身びっしょりに濡れ、立っている。


女は、横を向いて、少し俯いた感じで立っていた。


真っ白な肌をした女の顔から雨の雫が顎を伝い、ポタポタと落ちている。


秋彦は、一旦、ドアから離れ考えたがチェーンをかけたまま、鍵を開け、ドアを開いた。


ガチャリと開いたドアの音に、女が顔を上げ、こちらを見た。


そして、秋彦の顔を見ると、ハッと驚いた顔をしたがすぐに、無表情に戻り、小さな声で、こう言った。


「あのう…ここは、田中さんの家ではないですか?」


秋彦の名前は、結城 秋彦。


田中ではない。

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