第九十二話「関係性」
「痛いっ痛いっ、ギブだって!」
俺は今、ノアさんにサソリ固めを掛けられている。
さっきからタッチしているのだが、ノアさんはなかなか解いてくれない。
想像していた通り、ノアさんは先程、俺がやった技を5分ほどで自分の物にした。
しかしノアさんは関節技という概念を今日、初めて知ったらしく、もちろん一つの技で満足するはずもないので、知っている関節技を教えろと脅迫され、俺はその試験体となった。
その状態がもう一時間以上続いていて、もうどっちの訓練だか分からない。
こんな事ならプロレスなんて覚えていなければ良かった。
「よし、昼飯行くか!」
ノアさんは関節技を解いて、近くに置きっぱなしだった槍と短剣を片づけ始めた。
俺は頬を地面につけたまま、その場で横になっている。
「ほら!何してるんだ!」
「早く行くぞ!」
ノアさんはそう言いながら、俺の身体を抱えて持ち上げる。
「うぅ……、はい、行きます」
俺はそう答えると、ノアさんの後に続いて運動場を出た。
なんとかプロレス技を教えることで誤魔化せたが、今後、ノアの前で武道を使うのはやめよう……
ノアさんは俺をレゼンタックのレストランに連行すると、勝手に食券を買う。
俺の訓練の時間が無くなったので、結局、昼飯は奢ってくれることになったのだ。
しかし、ここではケイが働いているので本当は行きたくなかったが仕方がない。
ノアさんは俺に席を取らせると、そこにトレー二つ分のご飯を持ってきた。
その端にあったカレーを俺の目の前に置くと、さっそく自分の分を口の中に詰め込み始めた。
俺はスプーンを手にし、辺りを気にしながらご飯を食べ進める。
ケイは他の店員と同じ制服を着ていたが、小さいのですぐ分かった。
お客さんには笑顔を向け、自然に仕事をしている。
心配はしなくても良さそうだ。
談笑を交えながら、30分ほどでノアとの昼食が済むと、俺はレゼンタックを後にする。
一応、自分への反省の意味も込めてノアに敬語を使ってみたのだが、『今更敬語なんて気持ち悪いからやめろ』とノアに言われてしまった。
尊敬の念は心の中だけに留めておこう。
レゼンタックを後にすると俺は朝に入った雑貨屋に戻り、再び商品を吟味する。
早くケイと和解しなければ、あの宿の中での俺の肩身は狭いままだ。
店員さんに聞くと、2月の誕生石がアメジストという事だったので、アメジストが使われているペンダントの中で一番安い物と、それよりも断然安い写真立てを買うと、店を後にした。
値段は合計で約300ギニーほどだ。
100均が恋しい。
その後、俺は図書館に行き、モンスターの生態表を読みながら時間を潰してヒナコの宿に戻った。
日曜日は部屋の掃除をしてくれるらしく、布団はからはお日様の良い匂いがした。
そして、やはりケイとは何も会話をしないまま、あっという間にその日は終わってしまった。
――1日後――
俺は運動場の壁に寄り掛かり、息を整えている
今日もまた運動場でノアと訓練をしていた。
初日とは違い、窓際で立ち止まってこちらを観ている人がちらほらと見える。
一昨日、運動場に鳴り響いた爆音と連日の訓練せいか、多少の観客ができてしまったようだ。
ケイとは未だに和解できていない。
昨日の夜、ついにしびれを切らしたヒナコが、夕食の後に話し合いの場を設けてくれたが、ケイは俯いているだけで、二人ともなにも話さなかった。
そして、また俺だけヒナコに怒られた。
子供を目の前に話せと言われても、話し方が分からない。
なにかしなければと思ってはいるが、時間は無情にも風のように流れていく。
一応、和解の品を準備はしたがタイミングがない……
どうせなら昨日、勢いで渡せばよかった。
「よし、続きやるぞ!!」
ノアは俺の悩みなんて関係なしに、当然のごとく俺を痛めつける。
マジで、もう、逃げたい。
「アレンくん!!」
俺がノアに向かって短剣を構えようとすると、アメリアさんが運動場に飛び込んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます