第九十三話「報知」
アメリアさんの俺の呼び方が、『アレンさん』から『アレンくん』にいつの間にか昇格(?)していたことに少しドキッとする。
しかしそんなウキウキした事を考えたのも一瞬で、アメリアさんの険しい顔に緊張感が走った。
「アレンくん、今ちょっといい?」
アメリアさんが手招きしているので、俺はノアに目線を向けると、ノアは顎で俺を促してベンチに座った。
俺はアメリアさんの後に続いて運動場を後にする。
廊下を進み、アメリアさんに案内された部屋に入ると、ケイがポツンと一人で座っていた。
俺はケイの斜め後ろの席に座る。
この感じ……もしかしてケイが何かやらかしたか?
「ごめんね、二人とも急に呼び出しちゃって」
「その、大事な話があるんだけど……」
アメリアさんは少し顔を伏せながら話し始める。
「そのね、さっきウォロ村に行った調査隊の連絡係が帰ってきたの」
「それで、運が良かったのか遺体が残っていてね」
「今日の午後に戻ってくるから、立ち合いをお願いしたいんだけど……」
「いいかな?」
アメリアさんはケイに目線を向けずに俺の目を見てそう言った。
……あの量をどうやってここまで運んだんだ?
いや、多分その疑問の答えはシンプルだろう。
そんな事は今どうでもいい。
まず聞かなくてはいけないのは……
「僕は大丈夫です」
「ケイはどうする?」
「……」
ケイは微動だにせず、何も答えない。
後ろに座ったせいで顔が見えないので、どんな表情をしているのかも分からない。
「ケイちゃん、今日会わないと火葬するまで会えないから、もうちゃんとお別れできないよ?」
アメリアさんは少しうつむいているケイの顔を覗きこみながらそう言った。
しかし、ケイは何も答えない。
「……行く」
10秒ほど沈黙が続いた後、ケイは口を開いた。
その声は震えていて、ようやくケイの顔が想像できた。
「わかった」
「それじゃあアレンくんは仕事が終わったら4階で待っててね」
「話はそれだけだからもう行って大丈夫」
アメリアさんがそう言うと俺はゆっくりと立ち上がったがケイは動かない。
そのまま部屋を後にしようとする瞬間ケイをチラッと見ると、ケイの顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。
俺はゆっくりとした足取りで訓練場に戻り、再びノアと訓練を再開する。
しかし、訓練中も気が散ってしまい、いつもよりボロボロになる破目になった。
訓練も終わってノアと一緒にレストランで昼食をとったが、そこにケイの姿は無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます