第六十三話「おとぎ話」

「……それでケイちゃん、この青い龍にいつ会ったの?」


 ヒナコは改めて小声で質問すると、ケイに膝をくっつけて聞く体勢をとった。


 ヒナコは相当、興味があるそうだ。


「うーんとね……」

「この子の名前は知らないんだけどね、お母さんと一緒にご飯あげたことあるよ」

「……覚えてるのはそれだけ」


 ケイは目をギュッと瞑り、少し考えた後にそう言った。


 ということは、この青い龍はケイのお母さんのペットだったのだろうか……


 いや、そんな訳がない。


「それっていつの話?」


 ヒナコはすかさずケイを詰める。


「うーん……」

「お母さんがまだ生きてた頃だから……10年くらい前だよ」

「けど、小さいころだからあんまり覚えてないや」


 ケイがそう言うとヒナコは顔を一瞬、険しくした。


 そういえばヒナコにケイの両親の事とか説明してなかった。

 というより俺たちの事を何も説明してない。


 時間があったら説明しよう。


「ご飯って何あげたの?」


 俺は一歩引いてしまったヒナコの代わりに、ケイに質問する。 


 おそらくこの龍は特別なモンスター、もしくはモンスターではないなにかである可能性が高い。


 そういえばモンスターは何を食べるのだろうか……

 さすがに、人間の肉を手渡しであげたという事は無いと思うが……


「えっとね……お魚とお芋」

「あ、アレンも食べたやつだよ」


 ケイは一層と顔をギュッとした後に答えた。


 ケイの記憶もあやふなので、これ以上の質問は間違った記憶が混じりそうだから止めておこう。



 俺は新しい本を探しに本を持って立ち上がる。


「あ、アレン、私そろそろ帰るね」

「夜ご飯の買い物しなきゃいけないから」

「ケイちゃんはどうする?」


 ヒナコは俺に続いて立ち上がる。


 時計を見ると3時半ごろを指していた。


「わたしはアレンと一緒にいる」


 ケイはそう言いながら読んでいる本のページを一枚めくった。


 いくら簡単な本でもヒナコ無しでケイはこの本を読めるのだろうか……

 質問されてもたぶん答えられないしな……


「……いや、ケイはヒナコの買い物手伝ってあげて」

「大変だと思うから」


 俺はケイが読んでいる本を片手で閉じる。


 ケイは一瞬硬直した後、立ち上がりヒナコの後ろに立った。



「じゃあ私たち先に帰るね」

「夜ご飯は歓迎会やるから楽しみにしててね」


 ヒナコは俺のわき腹を指で突くと、ケイの手を取って階段を下っていった。


 俺は自分が読んでいた本だけをしまって先程の席とは違う一人席に座ると、ケイが読んでいた本をめくり始める。


 やっぱり挿絵があると断然と読みやすい。


 一旦この本で休んでからまた知識を入れよう。



 先程までと違い、仕切りで区切られたこの小さな空間には静寂が流れている。


 やっぱり読書は一人がいい。

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