第四十一話「相違」

 目を覚ますとノアがニタっと笑いながら俺の顔を覗き込んでいた。

 どうやら俺はお姫様抱っこをされているようだ。


「……」


 接戦なら悔しさがあっただろうが、こんなにもあっさり負けると何も感じない。


 というか、いくら木刀だからって手で受け止めるとか無しだろ。

 実践なら……まぁいい。


 それにしても、俺ってもしかして高所恐怖症なのか?

 いままで自覚したことは一度も無かったな……


 ……賢者タイムはこの辺にしてそろそろノアに降ろしてもらおう。



「……降ろしてください」


 俺は両手で自分の顔を隠した。


 いつの間にかギャラリーがいなくなっていたのはせめてもの救いだ。


「おう!!!」

「とりあえず、お前の試験の結果だが……」


 ノアはそっと俺を地面に降ろす。


 やろうと思えばできるじゃないか。


 さて、トレバーさんに違う部署を紹介してもらおう。


「本当なら不合格と言いたいところだが、特別に合格にしてやる!!!」


「……え?」

「まじ?」


 俺はスーツについた汚れを叩き落とすのを止めて顔を上げた。


「ただし!!!」

「条件が一つ……」

「最初にやった技を俺に教えろ!!!」


 ノアは地面に落ちている木刀と木剣を拾い、木刀を俺の方に投げた。


 どうやらノアはあの技を気に入ったらしい。

 しかし、こちらとしては好都合だ。


 俺は木刀を持ってノアに指導を始めた。


 あんな繊細な技、ノアにできるはずがないだろう。




「こんな感じか?」


 そうノアが言った途端、俺の木刀が宙に浮かぶ。


 指導を始めてから約五分……


 ノアは3回試しただけで巻き上げを完全にマスターした。


 いや、確かにそこまで難しい技でもないのだが3回で俺を超えるのはやめてほしい。

 俺のプライドはもうぐちゃぐちゃだ。


 そしてノアの巻き上げを意地で防ごうとした結果、俺の手首はお釈迦になった。


「これで俺がお前に劣る事はなくなったな!」

「そしたら次は<特能>の確認をするからここで待ってろ!!!」


 ノアはそう言い残し、再び訓練場から小走りで出て行った。




 俺は4階の窓を眺めながらノアの帰りを待つ。


 すると案の定、ノアが4階の窓から飛び降りた。



 コツンッ


 先程と違い、ノアはつま先で軽やかに着地をすると、急いで辺りを見渡した。

 手にはバインダーとそれに挟まれた書類を持っている。


 これは確実な常習犯だ。

 


「よし、それでお前の<特能>の事なんだがな……」

「なぜかレゼンタックのデータベースだと確認が出来なかったんだ」

「だからとりあえず一通りここで見せてくれ!」


 ノアは足を開いて腕を組み、こちらを凝視する。



 俺は少し緊張しながらも<貧者の袋>と<猫足>をノアに見せながら説明した。


 この二つの<特能>は明らかに戦闘向きではないので、どのように評価されるか少し不安だ。



「……なるほど、おもしろい<特能>だな!!!」


 そういいながらノアは書類にいろいろと書き込んでいく。


 どうやらそこまで悪い印象では無いようだ。


「それにしてもお前……」

「なんで口に出して<特能>を使ってるんだ?」


 俺はその言葉を聞いた瞬間、首筋から血の気が引くのを感じた。

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