第四十二話「超現実」

「おい、ノア、馬鹿な事言うなよ」


 俺は拳を身体の横で軽く握りながらノアに聞く。


 なぜ、口にだして<特能>を使っているのか……

 それは口に出さなければ使うことが出来ないからだ。


 これはウォロ村で何度も試したので間違いないはずだ。

 それがこの世界の普通ではないのか?


「おぉ、いきなり呼び捨てとはお前いい度胸をしてるな!」

「まあいい、特別に許してやろう!!!」

「それで……俺は普通の事しか言ってないぞ?」


「口に出して<特能>を使っている奴なんて古今東西探しても多分お前だけだぞ?」


 ノアはバインダーを太ももにパタパタと当てながら、当たり前かのような顔をしている。


「……じゃあ、ノアはどうやって<特能>を使ってるんだよ」


 俺は少し躊躇いながらもノアから情報を聞き出す。


「どうやってって……意識したことは特にないな……」

「呼吸と同じ感覚……強いて言うなら心の中で念じる感じか?」


 ノアは首を傾げながら必死に考えている。


「……よし、説明するより見せた方が早いだろう!」

「ついでにお前が持っていない、この仕事で必須な<特能>で実演してやるからここで待ってろ!!」


 ノアはバインダーを足元に置き、運動場の端まで小走りで離れていった。



 距離にして50mほどある。



「よし!いくぞ!!!」


 そう言うとノアは陸上選手のように右手を上げた。


 俺は一応、見よう見まねのファイティングポーズをとってみる。



 トンッ


 突然、後ろから誰かに肩を叩かれた感触がした。


 運動場の端にいたノアの姿は消えている……?


 慌てて後ろに振り返るとノアがニコッと笑っていた。


 距離を縮める<特能>の存在はスキルボードで確認済みだが、あまりにも非現実的で頭が追い付かない。


「いま俺が使ったのは<急襲>だが距離を詰める<特能>は数多あるから一つは使えるようにしておけ!」

「武器で遊んでればそのうち手に入るぞ!!!」


 ノアはバインダーを置いた場所に戻り、バインダーを拾い上げた。



 ……今思い出したが、ウォロ村で俺がリベイロに襲われた時カイが俺を助けるためにこのような<特能>を使っていた気がする。


 というか、そんなに離れたら口に出したか出してないか分からないじゃないか。

 ……まあいいか。



「他に使える<特能>ってあるのか?」


 俺は色々と疲れたのでその場であぐらをかいて座った。


「そうだな……生物の名前がついた<特能>は強い傾向があるな」

「お前の<猫足>も使い方次第では化けると思うぞ」


 ノアは俺の腕をつかんで持ち上げる。


「じゃあ、神の名前がついた<特能>は?」


 俺はその場で屈伸をする。


 一度座ったせいか、足が急に疲れてきた。


「なーに冗談言ってんだ!」

「そんな<特能>があったら俺が欲しいぐらいだ!!」

「……お前も疲れているようだし実習はしまいにして中に入るか!」


 ノアは地面に転がっている木刀と木剣を拾い、武器倉庫に入っていく。



「ふーん……」


 俺はそう呟き、左手の指輪をじっと見つめた。

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