第十二話「嫌い」

「ただいま」


 手遊びで時間をつぶしているとケイがトイレから戻ってきた。

 顔が少しにやけている。


 ……トイレが綺麗だったのだろうか。



「おまたせしましたー」


 ケイが戻ってきたのを見計らうようにおっさんも戻ってくる。


「一応、手続きはこれで終わりましたー」

「年間の住民税が大人が2000ギニー、子供が1000ギニーなので、二人合わせて3000ギニーかかりますが月締めの分割払いでよろしいですかー?」


「……え?」


 住民税なんてあるのか……

 いや、それはそうか。


 というか、高すぎないか?

 手持ちは残り370ギニーだ……


 でも払うしかないよな……



「はい、それでお願いし……」「僕が払いますよ」


 俺が苦笑いをしながら分割払いを了承しようとした時、コビーさんが横から入ってきた。


「いいんですか?」


「ケイちゃんのためならそのくらい払いますよ」


 コビーさんは笑顔で財布に手を伸ばす。


「それと銀行の開設はどうなさいますかー?」

「政府直轄の銀行と普通の銀行が複数あるんですけどー」

「前者の方なら今ここで開設できますよー?」


 おっさんが悪徳営業マンのような笑顔で迫ってくる。


「コビーさん、どっちがいいんですか?」


 俺は商人として働いていて、その辺に詳しそうなコビーさんに素直に聞くことにした。


「そうですね」

「お金を預けて引き出すだけなら、どちらもあまり変わらないので、今ここで開設しても問題ないと思いますよ」


 コビーさんは流ちょうに説明してくれる。


「じゃあそれでお願いします」


 俺は言われるがままに前者を選んだ。


「じゃあこの書類に記入をお願いしまーす」


 俺とケイはそれぞれの紙に先程と同じような事を記入する。

 今日の日付を確認することはもう無い。


「それではこちらも預かりますねー」

「えー、そしたらですね最後に甦人の説明会がありますが……お嬢ちゃんどうする?」


「ケイどうする?」

「コビーさんと待っててもいいよ」


 俺はケイの方に目線を落とす。


「ううん、一緒に行く」


 ケイは首を大きく振りながら即答した。


「それでしたら、そこの通路沿いを行くと会議室4という部屋がありますので、そこで待っててくださーい」


 そう言うとおっさんは席を離れたので俺とケイも席を立つ。


 ようやく解放された……



「では私は明日の準備がありますのでこの辺で失礼しますね」


 会議室に向かおうとすると、コビーさんが俺を呼び止め、頭を下げる。


「いえいえ、色々とありがとうございました」


 俺もつられて頭を下げた。


「これ少ないですが持っていってください」

「それじゃあ、ケイちゃんをお願いしますね」


 コビーさんはケイに厚めの洋型封筒を渡し、建物を後にした。



 ケイはコビーさんが見えなくなったのを確認すると、なにも言わずにリュックから財布袋を取り出し、封筒の中身を乱雑に突っ込む。


 そして俺たちは再び二人きりになった。



「……それじゃあ行こうか」


 俺が通路を進もうとするとケイが手を繋いできた。


「わたし、コビー嫌い」


 ケイが突然、突拍子もないことを口にする。


「……なんで?」


 俺の目には二人は仲が良さそうに見えていた。

 何より、出会った時に抱き着いていたではないか。


「アレンと違って手がベトベトしてて気持ち悪い」


 ケイの顔がその嫌さを物語っている。


 お年頃の女の子はこんなにも残酷な生き物なのか……

 汗をかかない身体で良かった。


「それ、コビーさんに言っちゃダメだよ?」


 俺は苦笑いをしながらケイに言った。


「分かってる」


 ケイは返事はしたものの、分かっていなさそうな顔をしている。

 


 俺はケイの手を引いて会議室4に向かった。

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