第十三話「退屈」

「……ここかな?」


 俺は会議室4と書かれた扉を開ける。

 中を覗くと室内にはホワイトボードと長い机があり、会議室というよりも教室に近い形になっていた。


 俺とケイはホワイトボードから二列目の席に座る。



「……ドーナツ食べていいい?」


 ケイがもの欲しそうな目で俺を見る。


「一つだけね」


 俺が答えると、待ってましたと言わんばかりドーナツをリュックから取り出した。

 その瞬間、部屋の中が甘い空気に包まれる。


 この世界にきてから甘い物を一切食べていないためか、少し目がくらむ。

 しかし、後でゆっくり食べたいので今は我慢した。


 それに今食べたら絶対に眠くなる。




「……こないねー」


 ケイは机に突っ伏している。


 ケイが二つドーナツを食べ終わっても誰も来ないどころか、足音さえも聞こえない。



 ガチャ


「おまたせしましたー」

「いやー、なにせ甦人なんて10年ぶりなんでね!テキストがなかなか見つからなかったんですよー」

「あ、これ、終わったら持ち帰っていいですよー」


 そう言いながらあの受付のおっさんが部屋に入って来るや否や、2冊の薄いテキストを俺とケイの前に置いた。


「本当ならば担当が違うんですけどー、今、手が空いている者が私しかいないので私が説明会しますねー」


 そういうとおっさんはホワイトボードの前に立った。


 『さっき暇じゃないとか言ってたのに暇じゃねーか』と言ってやろうかとも思ったが、面倒になりそうなので止めといた。


「えーっと、まずアレンさんが日本人とのことなので、最初に英語の講習がかるーくあるんですけど……必要なさそうなので飛ばしちゃいますねー」

「ちなみに留学とかされてましたー?」


 おっさんがホワイトボードの前から笑顔でこちらに近づいてくる。


 この不快な笑顔にも段々と慣れてきた。


「まぁー、そんな感じです」

「というか、そんなかるーくで話せるようになるんですか?」


「そうですねー、大体10分から15分ぐらいで日常会話程度なら誰でも話せるようになれますねー」

「レベルの影響もある思いますよー」


「へー、そうなんですかー」


 俺は聞いておきながら棒読みで返す。


 確かに俺のスキルボードでも普通のスキルの上限が1000ポイントなのに対して言語系スキルは50ポイントしかない。

 その点から見ても、この世界で言語を覚えるのは簡単になっているのかもしれない。


 その辺りは都合が良い世界なんだよな……



「それでは改めて説明会の方を初めていきますねー」

「ではまずはこの国の法律から……」


 こうして、退屈で退屈で仕方がない3時間にも及ぶ説明会が始まった。

 なぜ退屈かというと、最初の2時間半は主に法律やお金の話で、前世の倫理観から特に外れたものはなく、当たり前すぎるものだったからだ。

 強いて違う点を挙げると、レベルによる差別が法律によって厳罰化されていることぐらいだ。


 それと、甦人の登録証だが、1年間有効で持っていると色々優遇してくれるらしい。



 しかし、残り30分ではこの国の地理や特産物の話に変わり、こちらはなかなか面白かった。

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