第3話 C3-『与えられた……幸福……』
『Cウイルス』によって死者が増加し、世界の人口が10分の1にまで減った世界。
冷凍カプセルから目覚めて50年後の世界。私は、りんたろうと東京への旅を始めて6日が経った。
「ニアちゃん、今夜はここらで休もうか」
「うん…………今日も疲れたね…………」
田舎の村から東京を目指して自転車での移動。
疲労は蓄積され限界にまで達していた。それも仕方ない。
舗装されているとはいえ、荒れた野山のような道路を自転車で走行するのは、かなりの体力を費やす。そして、運よく野宿できる民家があれば良いが、最悪、野生化した野良犬の遠吠えに怯えながらの野宿になる夜もあった。食べ物だって、賞味期限の切れた保存食や、生臭い魚を焼いて食べたりして、食あたりすることもあった。りんたろうは、このような生活に慣れているのだろうが、50年ぶりに目覚めた私は、都会での便利な生活が身に染みてしまっていて、とても馴染めなかった。りんたろうと暮らしていた村の生活の方がはるかにマシだった。私の心は、キリキリと磨り減っていくように感じた。
「ニアちゃん、大丈夫かい?」
「え……えぇ……」
そんな私に気遣いして、りんたろうは、優しく微笑んで気をつかってくれる。
いけない、いけない。せっかく、りんたろうは、私の記憶を取り戻そうとして、この旅につきあってくれているのだから。私も、贅沢やわがままは言っていられない。彼の好意に報いるためにも、我慢は必要なのだ。
今夜は、崩れ落ちたような民家の瓦礫を利用して、夜露をしのいでいた。
この民家は、台風や地震によって崩れ、半壊したような家だった。でも、何も無い野山で野宿するよりは、少しばかり安らげる。贅沢は言ってられない。
私が、空腹のあまりボーッとしていると、りんたろうは、この家の奥底から白骨化した死体をひっぱりだしてきた。最初は驚いたが、彼は、その仏さんの前で念仏のような呪文をとなえ、指先を切って血をポタポタとしたらせた。これは、彼の独特の弔いであるようだった。生真面目な彼にとっては、この方法こそが、死者を弔う最善の方法らしい。当然、私からすれば意味不明の行動であるが、ここはすでに私が生きていた世界の50年後なのだ。宗教や宗派が、私の常識と価値観が異なっていても何ら不思議ではない。それも、『C-ウイルス』によって世界の人口が10分の1にまで減った世界なら、尚更だ。
「うう……」
「りんたろう……泣いているの?」
彼の目から流れる涙は清らかだった。
死者を弔い、同情し、尊ぶ。その好意は、尊敬を通り越して崇高だった。
この瞬間。私は、りんたろうを愛してしまった。
次の日。一週間目。奇跡は起きた。
その日の宿は、災害や劣化に犯されていない、キレイな状態の家だった。
いや、家というよりは、お金持ちの豪邸だったようで、地下にある蓄電池のおかげで、快適な生活を現在でも行うことができた。シャンデリアから放たれる煌びやかな光と、エアコンによって流れる綺麗な空調。そして、賞味期限の切れていない豪勢な食事。台所までもがキレイな状態だった。そして、お風呂にまで入れる事で、私の旅の疲れは吹っ飛んだ。
「信じられないことだけど、ここまで蓄電池が生きていたなんて、よほど高級な装備だったんだろうね」
「そうね、なんだかお金持ちそうな家だから、ラッキーだったね!」
私は、ひさしぶりに、ワイン倉庫から見つけたワインと、ボリュームのある食事の前に気分が高まっていた。しかし、りんたろうの顔はなんだか険しい。
「どうしたの? りんたろう」
「はは……いや、ひさしぶりにこんなにも美味しい物を食べれて、どんな顔をしたらいいか忘れちゃった!」
「やだわ! あはは! でも、そうね、それわかるわ」
その夜。
高揚した気分のまま、ふかふかのベッドで就寝した。
今までのつらい旅の疲れが、いっぺんにふっとんだ気分だ。
あ~、気持ちが良い。きもちいい。天国にいるようだ。
私が、すぐにウトウトし、やがて眠りに入る直前だった。
その瞬間、私は、あまりの事に驚き、大声を出しそうになった。
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