第2話 C2-『与えられた……恐怖……』

『Cウイルス』によって死者が増加し、世界の人口が10分の1にまで減った世界。

冷凍カプセルから目覚めて50年後の世界。私は、りんたろうと東京への旅を始めて3日が経った。


「ニアちゃん、今夜はここらで休もうか」


「うん……今日も疲れたね……」


田舎の村から東京を目指して自転車での移動。

50年後の世界。自動車は残っている。しかし、ガソリンは無い。

あたりまえだ。日本でガソリンを掘っても出る訳が無い。輸入でまかなってきた石油は、海外の経済が破綻してしまえば供給されるわけもない。バスも無い。タクシーも無い。当然、電車も無い。


人口が減少すれば、働いている人、エネルギーを作っている人も当然いなくなる。

あたりまえの生活があたりまえでなくなるのがあたりまえになっている。


道路だってきれいに舗装されたままではなく、ヒビ割れ劣化したアスファルトに草木が生い茂り、直進することさえ不可能な土砂の隆起によって、やっと自転車で走行できる状態。当然、夜の街灯など無く、凶暴化した野性生物から身を守る為、夜が明けるまで夜を明かすしかない。


ウォオーン!!


「キャッ! あの泣き声は何!?」


「はは、ニアちゃん。野生化した犬だよ。この民家まで入ってこないから安心だよ」


人口が減ってしまった日本の田舎。そこらじゅうに空き家が点在する。

そこに宿泊すれば危険は避けられるし、それなりの保存食も残っている。


「ここにも……誰かが住んでいたんだね……」


ウイルスによって命を落とした人間がいたおかげで、私を守ってくれる家があることに感謝した。


「人の命は……こうやって人の命を紡いでいくんだろうね……」


りんたろうの、しみじみとした言葉が、心に染み渡った思いだった。


深夜。私は夢を見た。

私を追いかけてくる人間の群れ。私を襲おうとしている人間に、ナイフを振り回して身を守る。振りかざしたナイフが、相手の腕をかすめ、足を切り裂き、目をえぐり、背中を突き刺す。いつしか身を守る抵抗は、過剰な殺傷へと変わる。肉を引き裂く感触がナイフから伝わる。それは、まるで以前に自分が体験したかのようなリアルな感触だった。まさか、私は以前、殺人鬼だったのではないかというような錯覚を残したまま……そして、目の前には、朽ち果てたガイコツが襲い掛かってきた。


「きゃあああッ!!」


絶叫によって大声を出した私の部屋に、りんたろうが駆けつけた。


「ハァハァ……りんたろう……夢だったの?」


「ちがうよ、ニアちゃん。この家には誰かがいる……そいつは……」


りんたろうは、土壁に向かって激しい突きを入れた。それによって土壁はボロボロと崩れ落ち、そこから人骨が現れた。それは、人間の死体を強引に3人ほどギチギチに詰め込んだようで、完全に白骨死体となっていた。


「こ……これは……なんなの……?」


錯乱する私に、りんたろうが私を優しく抱きしめる。


「見ちゃダメだ……これは、おぞましき人の怨念だ……」


ガタガタといつまでも震えの収まらない私の肩を、りんたろうは優しく抱きしめてくれた。私が恐怖に怯え、疲れて眠ってしまうまでずっと。夜が明けるまでずっと。

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