C(シー)- 50年後のウイルス世界

しょもぺ

第1話 C1-『与えられた……はじまり……』

『Cウイルス』という殺人ウイルスが蔓延して50年が経った。

世界人口は10分の1まで減少し、各国の文明は機能しない寸前まで衰退した。

しかし、そこに生き延びたわずかな人類は、新たなる生き方を模索し、今も生き続けていた。


私は、50年ぶりに目覚めた。

記憶を失い何もわからないまま、まるで新しい世界へと転生してしまったかのように。ここが、地球という星の、私が50年前まで生きていた世界とは、とても信じれられなかった。


私の名前は、安間 丹愛 (あんま にあ)。

年齢は25歳。記憶喪失。なにも思い出せない。

(正確には眠っていた時間を加算すると75歳?)

ここは、とある田舎の病院。そこで、私は治療を受けている。

冷凍睡眠という技術によって、私は50年間も眠っていたようだ。


この村の病院はひとつしかなく、穏やかな山々の自然に囲まれている。

気持ちの良い日差しときれいな空気。鳥達の鳴き声や、小川のせせらぎ。

とても穏やかな気持ちになるので、病院のベッドで療養するのも苦ではなかった。


私が目覚めてから2週間。体力も回復し歩行も出来た。自分でご飯を食べる事も出来た。病院の先生は退院しても良いといってくれたで、私は、とある男性と共に病院から、とある民家へと移り住んだ。この男性は、いま目の前にいる男性は、目覚めたばかりで記憶も無い私を献身的に介護してくれた。


この男性の名前は、『来瀬 鈴太郎 (くるせ りんたろう)』 25歳。


「りんたろう……ありがとう」


「ニアちゃん。気にしないでよ。困っている人がいたら助けるのが当たり前でしょ」


穏やかな笑顔で接してくれる彼。スキンヘッドだが、顔立ちはちょっとイケメン。体つきは細いが、穏やかな口調が印象的な好青年だ。私は、すこしばかり、彼に惚れてしまった。すこしだけ。


「ニアちゃん。この家は自分の家だと思って暮らしていいんだよ」


「うん…… ありがとう。何からなにまで親切にしてくれて……」


「キミの体験した50年前のつらい記憶はもう忘れて、キミが幸福に生きる事を考えようよ!」


私は、病院での療養中に、失った記憶をすこしだけ思い出した。

50年前……『Cウイルス』と呼ばれるウイルスが世界中に蔓延し、毎日のように死者が増大し、パンデミックが起きた。世界中はパニックになり、経済は破綻し、人類は死を恐れる恐怖の毎日送っていた。自分の知人や友人、そして家族までもが侵食され、命を経たれていった。すべてを失った私は、不安と絶望感にむせび泣き、発狂して自殺を決意した。そこで……私の記憶は途絶えている……


私が何故、『Cウイルス』に感染せずに生き残ったのか?

確かではないけど、私は、カプセルに入ったままこの村の海に流れ着いたそうだ。

そのカプセルは、延命用の冷凍保存装置だったようで、そのおかげで私は50年間も生き延びられたようだ。カプセルはすでに廃棄されたので、どうゆう構造なのかは知る由もないが、SFとか近代科学とかでは、わりとありそうな事なのかと強引に理解するしかなかった。だって、私が今ここに生きのびているのは現実なのだから……それを信じるしかなかった。


「ニアちゃん。今日は畑仕事を手伝ってもらうよ!」


「りんたろう、私、土いじりってしたことないわ……」


「大丈夫。ぜんぶ僕が教えるよ!」


りんたろうは、私にとても優しかった。

それから、私はりんたろうの家族と同居をはじめ、すでに一ヶ月が過ぎ去った。

私は記憶を忘れた事を忘れるかのように、ここでの新しい生活は、充実と喜びにあふれていた。畑仕事と家畜の世話。素朴だけど美味しい食事。川での釣りや山菜の収穫などなど。不安は何もなくすべてが新鮮だった。


私がおぼろげに覚えていた唯一の記憶は、以前は都会で暮らしていたことだけだった。それが、どこなのか? まったく思い出せないが、そんなことはどうでも良くなるぐらい、ここでの生活は居心地が良かった。


ある日。りんたろうが私に言った。

「ニアちゃん。キミは自分の失った記憶を思い出したくないかい?」


そのひと言が、私を劇的に突き動かした。彼の提案は、私が入っていた冷凍カプセルに記載されていた東京の住所に行ってみるとことだった。確かに、自分の住んでいた所に戻れば何か思い出すかもしれない。


「うん……うん!」 (りんたろうと一緒なら……)


それから、一週間後。

私は、りんたろうと一緒に東京を目指した。


世界中の人口が10分の1にまで減少してしまったこの世界。

東京はどうなっているのだろうか? 

人類はどうやって文明を再生しようとしているのだろうか?

私の失われた記憶を取り戻すため、希望への旅が始まろうとしていた。


そして、私が殺人鬼だとわかったのは、この旅が始まってすぐのことだった。

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