5:ヒョーショー
俺が瞬間移動した頃から、
まるで俺の心その物を表している
と同時に、丁度良いと思った。俺の心を冷ますのに。
誰も居ない道路で叫んでから、彼これ
立ち上がりはしたものの、
不意に、足が縺れ、そのまま再び倒れ、アスファルトに当たった。
今度は起き上がる気力も沸かないまま、そのまま目を瞑った。
このまま雨に打たれ続けていたら、俺は死ねないだろうか。
もしくは車に
などと、我ながら末期な考えが頭を過った。
「……?」
ふと、ぼんやりした思考と視界が、見慣れた空色の髪、そしてオレンジの
声を聴くまでもなく、ピントを合わせるまでもなく、理解した。
「
「……風邪。引いちゃいますよ?」
膝を降り、傘の中に入れ、
俺は何も答えないまま起立し、彼女に視線も当てないまま、立ち去ろうとする。
「ま、待って!
振り返り駆け寄ろうとする
雨なのか涙なのか分からない物に顔を濡らしながら、俺は
「頼む……。
……もう、俺に関わらないでくれ。
俺は、もう……お前とは一緒に、
お前と一緒に
俺は、ただの……死神だ……」
再び彼女に背中を向け。
俺は方向の定まらない足を頼りに、目的地も無く歩き出す。
「お前も、
これ以上、
俺は、生まれついての死神……人間になんて、なれっこないから……。
俺の手伝いなんて、しないで
俺は、もう……死ぬ、から……」
「〜っ!!
傘を捨てて駆け出し、
そのまま俺のシャツを、破りそうなまでに強く握り締め、背中に顔を埋め擦り付け。
必死に、引き止める。
「お願い、
死んじゃ、
そんなの、認めない……!
そんな
……
この世の誰よりも強く、深く、長く、未練がましく、あなたを恨む……!
そんなの、私、
一旦、顔を離した
そのまま、俺の腕を引っ張り自分の両手を絡める。
「私……!
『私の全部を、
私はもう、そう、決めたから!
でも……! でもぉっ!
その言葉だけには、従えない!
だって、今の
今の言葉は、
「……じゃあ……!!
じゃあ、どうしろってんだよぉ!?」
俺は
俺の中で今、荒々しく渦巻いている感情を、そのままぶつける。
「お前は、俺にどうして欲しいんだよ!?
俺が何をいつどこで誰とどうすれば、お前は満足なんだよ!?」
「
その一点さえ確約してくれるなら、私はもう、何も言わない!
他に何も要らないし、望まないよ!」
「お前は、俺に何を期待し、俺の何を信用してんだよ!
俺は、死神だ!
世界をいずれ綺麗にする
かけがえの
その実、
必要悪気取りの偽善者な!
自分自身の存在理由や心さえも曖昧な、得体の知れない、ただの化物なんだよぉ!
そんな
お前はどうやって、そんなのを判別するってんだよ!?」
「私だって正確、完璧には分かんない!
だって、
こんな時でさえ、本心を見せてくれないんだもん!」
「だから!
俺の言葉が嘘だって、本心じゃないんだって!
単なる直感、勘でしかないだろ!?
根拠に
「そうだよ、当てずっぽうだよ、何となくだよ、
でも、それでも断言
今の
普段の嘘
だから、こうして私は戦ってるの!
喧嘩なんて未だに大嫌いだし、それを
今日だけで色々起こり過ぎだし緊張し過ぎて頭真っ白だし心もグチャグチャで正直もう訳分かんな
それでも、私は喧嘩するの!
偽者の
「だったら、教えてくれよ!
俺は、どうすれば本物になれる!?
どんな手段、チートを使えば、人間と死神のハーフみたいな
曝け出し過ぎた反動か、視界がグラつき、俺は崩れた。
そのまま
「ずっと……ずっと、
『俺は、正しい
『俺は、誰かの命を、心を、笑顔を、人生を、救えてるんだ』、って……。
そうやって正当化して、逃げてたんだ……」
消沈した俺に当てられたのか。
冷静さを取り戻した
「……事実だよ。
私は、
「でも、俺はぁっ!
そんな
お前の大事な妹をぉっ! ……殺したぁっ!!
他にも、何100人も……!!
お
「
直接的にも、間接的にも、関与してない。
ただ、巻き込まれただけ。
あの子
「違う……。
俺は、ただ、現実と向き合いたくなかっただけだ……。
あの女が真犯人、諸悪の根源だって薄々、勘付いてる
遠回りした……足踏みした……。
怖かったんだ、俺……。
あの女と戦うのが……勝てる気
何より……殺されるかもしれないのが、怖かった……。
怖くて、怖くて、仕方
「当たり前だよ。
あの時まで、
私だって、
俗に言う体育座りの体勢を取り、
「……ねぇ?
今の
ーーえ?
「……
ずっと求め続けていた、この場では思いもよらない一言。
それを受け、俯いていた顔を、俺は無意識に上げてしまった。
「私……ううん。
多分、
何が自分で、何が本物だとか。
生きてる意味とか、生まれた理由とか。
何をしたいとか、何が本心だとか。
そういうの、
心は、
おまけに、見えないし、聞こえないし、
ぼんやりと感じる、信じる
……
人間も死神も案外、根本的には、あんまり変わらないのかもね。
まぁ、
髪を掻き分け、
「
今も、今までも、きちんと、
でも、そろそろ
『ご主人様(さま)なんて、もう知らな〜い!!』って」
冗談めいた口調で演技した
「あはは。……なんてね。
結構、難しいね。
それに、
私には、何だか向いてないみたい。
これを普通に、計算せずに出来るんだもん。
やっぱり
俺の胸から手を離し。
両膝を抱えた
「……
都合良いかもしれないけどね?
私、実は、そんなに嫌いじゃないの。
だって、
基本的に場を和ませる、誰かを思っての
まぁ、
大恩人だから、敬ってたけどさ。
などと抜かしつつ、
そして、俺の両手を掬い上げ、包んだ。
「
確かに、私達の行いは、広義的には邪道かもしれない。
だって私達は、もう人間じゃない。
違反さえしなければ死なないし、睡眠も食事も必要無いし、法律の適用外だし、魔法で基本的に
それに何より……世界を平和に、誰かを笑顔にする
糾弾されても、仕方ないのかもしれない。
……でもね?」
身を乗り出し、
私が
「そんな時は
『私は彼に、救われました』って。
『彼は、
あなたが自分の心を
私が、あなたの優しさの、命の、正しさの証明になる。
『
あなたの手がどれだけ汚れようが、血塗れになろうが。
その度に私が愛情込めて、綺麗に拭き取ってみせるから」
「しず……く……」
俺に向けて微笑むと、
背中に手を当て、結んだ。
「
私に、
私は、
その代わり、
盗み聞きしてたから、知ってるでしょ?
私は、そういう願いを託されて、生まれた存在だもの。
それ
俺を抱擁から解放すると。
「高卒止まりだからって、舐めないでよ?
もう一生、離れないし、放さない。
『地獄の底まで、悪魔と相乗りする』って感じ。
まぁ、正確には死神だけど。
だから……。
もう、『俺はもう死ぬから』とか、『俺に関わらないでくれ』とか、『来るな』とか。
そういう
逆撫でするだけなんだから。
あんまり詰まんない事言うジョーカーさんは、
「……
「はい。
それで、憩吾くんは?
私に、お返事、してくれないの?」
「……ああ」
「んー?
聞こえないなぁ」
「はいはい、分かった、分っかりましたぁ!!」
そう。
俺は、もう……一人じゃない。
生きてて、今のままで、
「おい。
そこの、公然猥褻罪
俺と
「べ、別にっ!
そこまで行ってないもんっ!」
「いや……外で、服濡らして抱き合ってたら、それ一択でしょ? 普通。
何? 寧々さんごっこでも楽しんでたの?
炎上した
「途中までは傘も差してたもんっ!」
「あー……じゃあ、マスタークごっこしたくなったのか。
それより、んっ」
俺達の服を魔法で交換した
釣られて見上げた先に広がった景色に、俺と
俺に至っては、惹き付けられた
空だ。
先程までの曇天
どこまでも澄んだ青空が、雄大に、自由に、広がっていた。
「すっ……げぇ……」
「
俺達がコメントしていると、
「
ところで、ケーゴ。
あんたに客人だよ」
「え?」
「あ〜っ!!
おにいちゃん、いたぁぁぁぁぁ!!」
俺がヒントを求めていると、それより早く答えがやって来た。
その相手……
俺との記憶を無くした
それはもう、俺を倒す
「ヒュー。
その年で押し倒すとか、やるー」
「ちょっ……!?
とっ、
「何さ?
それより、キャッチの練習させときなよ。
将来の
「あ。それは賛成。
いざって時に困るかも」
「お
ちったぁ、こっちの心配もしろよ!
思いっ切り頭、打ったのが見えなかったのかよ!
いや、もう痛みは引いたけど!
「いた〜!!」
「みつけた〜!!」
「おにいちゃ〜ん!!」
「こっち、こっち〜!!」
「こらぁ、そこのチカン!
ミクから、はなれなさいよぉ!!」
「ぐぇっ!?」
いつぞやの光景を彷彿させる流れにより、俺は揉みくちゃにされる。
「女児と外で、真っ昼間に7Pとか……」
「えっ!?
通りで、私に一向に靡かない
「あーでも、年相応ではあるのか」
「そうだった!!
おい、そこ!
寝惚けた
特に、
『俺が困ってたら
「お、お
どうにか引き剥がした俺は、
が、それより先に
「うぎゃぁぁぁぁぁ!?」
「け、
「アドリブ力
そこは、『あーれー』とか言わないと」
「
カァァァムバァァァァァックッ!!」
「いや、
「え、えと……私も、嘘が
テヘッ♪」
「お
助けるぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!」
※
「……何?
これ」
俺、そして二人が招かれたのは、小学校の体育館だった。
これだけなら、別に、取り立てる
いや、どゆ
これからジャイア◯がリサイタルでも始めんの?
「お、おい。
そもそも、お
そう。
偽
俺の
優しく着地させられた
そんな中、
……用紙?
困惑する中、俺は壇上に上がる
困惑していた
「こほん」
可愛く咳をして、
「ヒョーショージョー。
やさしいおにいちゃん。
あなたは、ゆめのなかで、なんども、わたしたちをいっしょーけんめー、まもり、たすけ、おうえんしてくれました。
あなたはウソつきですが、そのこーどー、こころ、ことばはウソじゃありませんでした。
よって、ここに、これをひょーしょーします」
「……え?」
とやらが、俺に渡された。
ポカンとしていると、いつの間にか近くにいた女子に膝を軽く蹴られたので、受け取った。
すると、
「お前等……。
「うーん……わかんない。
でも、なんとなくだけど、そんなキモチになったの。
『おにいちゃんに、ありがとうしなきゃー』って」
「何となく、て……」
「なんとなくでも、ちがうもん。
そういうんじゃなくて。
まちがいなく、ぜったい、おもったんだもん。
『お兄ちゃんを、探さなきゃーっ』て」
「それで、ミクはヒョーショージョーのじゅんび。
のこったわたしたちは、かおもこえもとくちょうもあいまいなまま、探してたってわけ。
わざわざ、あめの中、おやすみにね。
なかにはきょう、はじめてあったコもいるのに。
フシギときがかって、コンビネーションはきちんとはかれた。
まっ、ようは、ジンカイセンジュツ」
「……」
思考停止する俺。
そんな中、シークの言葉が、脳内で再び聴こえた。
『人間も死神も、完璧に人格や記憶を操るのは困難だ。
いや……最早、不可能と言っても過言ではないかもしれん』
そう。
不可能なんだ。
……
未来は、人間は、世界は。
まだ、捨てたもんじゃない。
希望はまだ残ってるし、こうして根付けられる。
まだ……終わってない。
終わらせちゃ、いけないんだ。
「そしたら、このおにいちゃんが、いきなりあらわれて、『はれごいしな』って。
で、『はれごいって、な〜に?』ってきいたら、『いいから、そらにいいな。はれて〜って』って。
そういうから、やったの。
そしたら、ホントにはれたの!
おかげでおにいちゃん、すぐみつかった!」
「ちょ、待っ……!?」
今度は
「お前……やっぱ、優秀な裏方だな」
「……っ!!」
「
な、
今のは俺、悪くないじゃん!
嘘
「はぁ……
そして。
「……断言する。
あんた……これから限り
確かに有利だろうけど。
その分、不利でもある。
あんた、思いっ切り他者に感情移入するタイプだろ?
他人の気持ちになって思考し、苦悩するパターンだ。
典型的な、損する側だ。
死神ってだけで、
「え?」
それは、いつかの焼き直し。
まだ出会って間も無い頃の、ある日のスキット。
「あんたは、
また今回みたいな、化物を相手にするかもしれない。
そうじゃなくても、犠牲を払わなきゃいけなくなるかもしれない。
自分がどっちなのか、何者なのか、見失うかもしれない」
いや……違う。
あの時の、完全版。
6年も経って関係が深まったからこそ、深くまで踏み込んだ、リテイク。
覚悟が、あるかを。
「それでも……。
あんたは、この道を選ぶの?」
俺は背後を振り返り、
そして、勇気付けられた。
「……分かってる。
でも、構わない。
俺が追い詰められた分、誰かが早く、多く、長く笑顔になれるのなら。
俺が行動する
それで一年、一日、一時間、一秒でも先にり
世界が平和に、安全に、優しく正しく平等になれるなら、安いもんだ」
流れに乗りながら、俺は右手を突き出した。
「決めたよ。
俺は改めて、死神になる。
でも、生き方は変えない。
今まで通り、誰かの心、命、笑顔、未来を守る。
掬うし、救う。
その
それが、俺……
「……そ。
「お前のがな」
あの時みたいに軽口を叩きつつ。
けれどあの頃とは違う関係で、俺達は拳を突き合わせた。
「もぉ!
二人ばっかり、
私も、やるぅ!」
などと言いつつ、
こうして、少し歪な三角形が出来上がる。
これはこれで、俺達らしくて、有りかもしれない。
思わず、目頭が熱くなった。
しかし、涙を押さえ、俺は最高に笑った。
未来で、誰かを心から笑わせる
「……
「はい」
「……
「あいよ」
俺が手を広げると、二人も即座に
そして俺達は、互いの手を重ね、心機一転、誓い合う。
「頼む。
これからも、俺と一緒に
俺と一緒に、世界と戦ってくれ。
この世界を、
そして、いつか
俺の
「喜んで。
謹んで。
そして……生涯を賭けて。
私はもう、
あなたに、ずっと好きでいて
今日みたいにグズってたら、お尻蹴っちゃうけど」
「面倒だけど、まっ……仕方ないから、手伝うよ。
まだ、好みの
互いに決意表明を済ませ、手を叩き合う。
そして、スクラムを組んだ。
「で? こっから、どうするの?」
「それなんだが。
早速、頼まれてくれねぇか?」
「
今の
「ま、別に問題無いでしょ?
「悪かったなぁ!!」
憎まれ口を叩きつつも賛同してくれた二人に、俺は最初のミッションを説明した。
そして、シークに準備を依頼し。
感謝も込めて、待ち時間に
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