2:死神になれ
「こ、こは……。
……どこだ……?」
『
そこは丁度、ナイトメアー・ビフォア・クリスマスの
殺風景な、荒廃した場所だった。
当て
視線を下げると、見覚えのある後ろ姿が横たわっていた。
「……っ!?
急いで
その瞳は閉じられており、生気が、熱が一切、感じられなかった。
「
だろ……?」
……
だって今、普通に話してたじゃん?
途中まではともかく、最後は笑顔だったじゃん?
なのに、
俺が……
まさか本当に……この件には、死神が関与してた……?
それで、俺が邪魔して来たから、頭に来て、見せしめに
「……ぇ?」
俺はふと、周囲を確認した。
そして、言葉を失った。
彼女と同い年
まさか……この子達が、
「そう。
お兄ちゃんが殺した、
唐突に、足元から、先程まで聞いていた声が聴こえた。
驚く暇さえ与えられないまま、視線を下げた先には。
死んだとばかり思っていた、
その顔は、俺への果てない恨みで歪められていた。
会話の不慣れさ、幼さも
「嘘
嘘
……嘘
暗雲が立ち込めていた世界で、雷が轟音を上げて無数に降り注ぎ、嵐が巻き起こる。
突然、荒れ始めた天気をバックに。
どこからともなく用意したナイフを不気味に光らせ。
そのオーラに押され、俺はバック・ステップを踏むも、やがて何かに阻害された。
俺の背後にあった物。
それは、墓。
『
俺の、墓。
「『パーティしてるだけ』って言った!
『お喋りしてるだけだ』って!
許さない……!!
許さない、許さない、許さないっ!!
お前が、死ねば良かったんだ!
殺してやる……!!
殺してやる、殺してやる……!!
殺してやるぅぅぅぅぅっ!!」
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
腰を抜かした俺に向けて、
そして、また……。
視界が、黒いインクで満たされた。
※
「ねぇ、ねぇ、どれにする?」
「うーん……パンケーキ♪」
「えー、またー?」
「いいじゃんー。
おいしいじゃん、パンケーキー」
いつの間にか『
導かれ、視線を上げると、そこに居たのは
「無事だったのかっ!?」
身を乗り出し、夢中で6人を抱き締める。すると、その中の一人が、俺を切り離し、遠ざけた。
マセてるらしい。
「ふしんしゃー!
セクハラー!」
「ち、違っ……!?」
「ねー?
『セクハラ』って、なーにー?」
「しらなーい」
「ダメよ、みんな、きをぬいちゃ!
ママがいってたでしょ?
おとこはみんな、わるいやつなんだって!」
「よーし!
じゃあみんなで、こらしめちゃおー!」
「「「「「「おー!!」」」」」」
などと話し、全員が俺の腹部に突撃を
そんな中、俺は見逃さなかった。
今、『ママ』と言ったのは、
そして、それに対し、五人が肯定していた
つまり……この子達の言う『ママ』は、同一人物の可能性が浮上して来たのだ。
俺は、6人から遊ばれつつも、スマホを確認した。
案の
これでは、援護も救援も望めない。
「……」
これは……『ママ』とやらからの、挑戦状なのか?
「6人を傷付けずに、それでいて嘘も
だから、SFみたいな感じで、少し形は変わったが、ループしてるのか……?
「……ふっ」
舐められたもんだなぁ。
こっちがまだ6年位しか生きてなくて、仲間の助力が無いと
「うぉぉぉぉぉっ!!」
床で倒れていた俺は雄叫びを上げ、6人を強制的に離す。
そして、悪そうな大人をイメージして表情を作り、怪しく近付いた。
「
「「わぁぁぁぁぁ♪」」
「「「きゃぁぁぁぁぁ♪」」」
「はーい」
「こっちこないでよ、ロリコン!」
こうして俺と少女の追いかけっこが始まり。
数分後、俺がシークに拳骨を
※
「
あれから、
俺は再び、例の墓場めいた場所に
今度こそ、成功した
誰にもチャチな嘘は
そして、「じゃあ、何者なんだ?」って聞いたと同時に、ここに問答無用で飛ばされた。
どうやら、今度は深く踏み込み
戦い
「勘弁してくれよ……。
また、
こんな発言をしていたからか、俺の足元に再び、何かが当たる。
不安になりながらも見下ろし……戦慄した。
そこに居たのは、
ゆめかでも、のぞみでも、ひかりでも、あすかでも、みゆきでもない。
今まで俺の見た事の無い……新たな少女の、死体だったのだ。
「……っ!!」
いや……その子だけじゃない。
10、20、30……ざっと見て、100人近く。
それだけの人数の、まだ小学生にも満たない少女達が、亡くなっていた。
「
「被害者だよ。
今回の件の」
足音、そして声が聴こえた。
それは、久し振りに聞いた、男の声。
そう……約6年振りに耳にした、あいつの声。
「……
俺の前に現れた、
彼は、哀れみを帯びた眼差しで周囲に転がった死体の数々を捉え、全員を蘇生させ元の世界に帰した後、俺を見た。
「ロックは外れたみたいだね。
それじゃあ……
いつもの気怠そうな雰囲気を一切感じさせない真剣さで、
次の瞬間、ワープで至近距離に移動し、いきなり拳を振りかぶった。
「……っ!?
お前……
殴られる
「は?
それはこっちの
続いて
その状態で近付き、回し蹴りをお見舞いして来る。
「がっ!」
脇腹を押さえ立ち上がる俺に、
「お前……『ママ』とやらも救う気なんだろ?
だから、いつまでも、いつまでも、こんな
「
俺は、
殺したい
「でも、本気ではない。
だろ?」
今度は俺をワープさせ、
続いて魔法陣を展開し、プロミネンスに似た炎を放つ。
「そもそも、おかしいんだ。
自分のスマホが使えないのなら、シークのを借りれば
なのに、お前はそれをしなかった。
それどころか、シークに、自分のスマホが使えなくなっている
怖かったんだろ? ママに辿り着いたら、自分がどうにかなってしまいそうな
「……黙れぇぇぇぇぇっ!!」
向こうが本気である以上、
そう確信した俺は、本音を晒し、拳を構える。
「何が悪い!?
俺は
それが
先程のお返しに、今度はこちらから炎を出し、
しかし、
「なっ……!?」
俺が気を取られている隙に、俺の頭上から
「
いつまで、ヌルゲーで満足してる
今回は、イージー・モードじゃないんだ。
今までの、なんだかんだでハッピー・エンドだった、おこちゃま向けみたいなチュートリアルとは、
これまでとは、ステージが変わったんだ。
次のステップに進む時が、もう来たんだよ」
俺の体を蹴り上げ、吹っ飛ばし、
「
お前は決して、
今回の黒幕が誰なのか。
今からお前が戦うべき相手が、どいつなのか。
なのに、お前は逃げてる、逃げ続けてる。
最後の一歩が、踏み出せずにいる」
「〜っ!!」
図星、だった。
分からない
俺の記憶の中では、俺を遥かに凌ぐ魔法を有した死神なんて、一体しか存在しないから。
でも……それでも、俺は……!
俺、はぁ……!!
「……」
目を閉じ、涙を流し、それでも声を押し殺す俺。
そんな俺の倒れた体、そして地面との間に、新たに死体が増える。
それも、今日よりも前から……5年間も見続けていた、大切な少女の亡骸が。
「すば……る……?」
そう。
そこに居たのは、
その子が、今……俺の前で、絶命している。
「……っ!?」
……違う。
目を凝らし一望してみれば、少女達の無惨な姿が、先程よりも増えている。
見る見る、どこからか転送させられて来ている。
その
「あの女……!!
……どこまで、命を冒涜する!!
いや……嘲笑は、こっちに向けてか!!
あからさまに、
激昂しつつ、
そして、真摯な眼差しで、真っ直ぐに、涙ながらに語る。
「今だけで
本物の死神になれ……
死ガキでなんて、いられない!!
もう、一刻の猶予も無い!!
これ以上の暴走を許すな!!
あいつを殺す
悠長に手段を選んでる場合じゃない……!!
こうして迷ってる
その内、魔法の蘇生さえ妨害される可能性も有る!
今までみたいに、話し合いや時間移動だけでどうにかなるレベルじゃないんだ!!
同情の余地なんて、
あいつは、それすらも、
「〜っ!!」
決して自分の足では立ってない状態で、俺は考える。
それしか無いのか。
あいつを倒すのではなく殺す
頭の中で、
あの時間が、彼女達の未来が、かけがえのない命が、こんな形で潰されるなんて……
到底、許されない。
改めて、お前に誓うよ。
お前を、お前の友達を、そして俺の大切を苦しめ、貶め、死に至らしめた
今度こそ、気休めなだけの適当な嘘でも、その場凌ぎの蘇生でもなく、ちゃんとした形で。
お前を、お前達を救ってみせる。
お前達を
命を懸けて。
「……やってやる」
地に足を付け、
涙を流しながら、
「あいつを……殺す。
今、この時だけ……俺は、死神になる。
手を貸してくれ……
俺が手を伸ばすと、
初めから、予知していた
「でしたら、私もご一緒します」
それまで俺と
彼女は、俺達が
「
「そうはいきません。
それに……私も一枚、噛まされたので。
非常に腹立たしい
未だに増え続ける犠牲者、中でも
全員を蘇らせ、
そして、揺るぎない覚悟を胸に、
こういう時、女は
「……分かった。
……頼む。力を、貸してくれ」
「ああ。
6年前から、その
「右に同じです。
私も
実に頼もしい。
「で? 実際の所、勝算はあるのか?」
「……ワンチャン、
こっちも、そこそこ経験は積んでるし。
間違っても、
あんなの、序盤も序盤だし」
「……
ごめんだけど、何言ってるんだか全然、分かんない」
「……」
お
俺達らしいっちゃあらしいが。
少なくとも、今は
「お遊びはそこまでだ」
俺が手を叩くと、二人はスイッチを切り替え、気を引き締めた。
そして俺達は上空。
正確には、これから戦うべきラスボスの待つ場所を、見詰める。
「行くぞ」
「あいよ」
「はい」
被害者が来たと同時に復活し、
俺達は墓場を出て、最終決戦の場へと、移動した。
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