第3生 ー導 憩吾ー
1:無情、非情、激情
喫茶店『
店長の
といっても、住所不定でクローキングも施されている、神隠しを体現した店なので(
基本的には死神や
そんな秘密の場所で、たった今、俺は5歳
断っておくが、
というか、家族の家族とか、友達の友達とかに『
となれば、彼女の正体は二択に限られる。
俺としては、こんな身空の子は
この年齢で
「あっと……
俺が出したメニューを掴もうとして、
そして
子供用スマホを操作し、無邪気に俺に画面を見せた。
『おしゃべり
いいの?』
「……」
……なるほど。
これは、聞きしに勝る異常事態だ。
あの
白状しよう。
俺は、この子と
この案件は、
俺は、
他には、一切のタッチもしてない。
そして俺は、この子の事に関しては、名前しか教えられていない。
なぜ
これは確かに、きなくさい。
付け足せば、同じく妙な事に、ここに入って忽然と、俺のスマホが壊れた。
これでは、
この場に居る死神は、俺とシークだけ。
別にシークを侮ってる訳ではないが、中々どうして困難な状況である。
どうも、
生まれたばかりの俺にアレな試験を受けさせた、あの
俺はテーブルで両手を組み俯き、その上に頭を乗せる。
そして、暫し熟考(表現的には誤りだが、精神的、体感的には正しいので、敢えて熟考とする)した後、切り出す。
「……
折り入って、頼みがある」
『なに?』
「これからは、遠慮しなくて
普通に、しててくれ。
スマホも、俺の許可も必要無い。
普通に、言葉で、お喋りしてくれ。
俺は君の敵じゃない。
君が俺をどう思ってるのかは分からないし、いきなり会ったばかりだから、怖がっても変じゃない。
それは仕方の無い
ただ……どうか、間違えないで欲しい。
俺は君の
少なくとも俺は、君が悪い子だとは思ってないし。
これからもきっと、思わない。
つまり、俺は……一緒に
そんな、君の味方になりたいんだ」
「……?」
おかしい
『ありがとう
やさしい
おにいちゃん
でも
ごめん
できない
だって
そしたら
みく
すぐ
しんじゃうんでしょ?』
「ーーは?」
怒りが、沸々と込み上げてきた。
俺の願いを無視した
彼女をここまで
今回の件の、得体の知れない、諸悪の根源に対してだ。
「……どういう、
よかったら、説明してくれないかな?」
一旦、頭を冷やすべくグラスを満たしていた水を飲み。
顔が強張らない
コクッと
『ママ
いってた
ゆめかちゃんも
のぞみちゃんも
ひかりちゃんも
あすかちゃんも
みゆきちゃんも
みくのともだち
みんないなくなっちゃったのは
おしゃべりしたからだって
おしゃべりがうるさくて
かみさまがおこったから
だからしんじゃったんだって
だから、みくも
おしゃべりしちゃだめだよって
ママが』
ガシャンッ!!
「きゃっ!?」
俺が使っていたグラスが、割れた。
別に、落とした
そもそも壊す
気付いたら、壊れていた。
それ
それでも、収まらない。
どんだけ自分に言い聞かせても、どんだけ気持ちを整理しても、落ち着かない。
激しい憤怒が、明確な殺意が、迸って沸騰して、止まらない。
「
キッチンに居たシークが慌てて駆け付ける。そして、俺に何度も訴える。
「魔法を使え」と、「
けれど、答えない。
答えられない。
俺の
その時。
「あ……。
あっ……」
俺の向かい側にいた
その原因は、俺の渋面でも、腕力でも、血でも、いきなり現れたシークでもない。
「みく…。
おしゃべり、しちゃっ……!?」
「「!?」」
嘘……だろ……!?
まさか、今みたいなのも……!?
咄嗟の悲鳴でさえ、今まで、禁止されてた、のか……!?
お前……その若さで、そこまで健気に、懸命に、今日まで自分を封じていた、てのか……!?
あんな適当な、取って付けた
お前を縛る
「やぁっ……!
…… やぁぁぁぁぁっ!!」
やにわに
慌てて片手で口を覆い、ボロボロと泣きながら、スマホを操作する。
『ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
みく
まだ
しねません
みんなに
おともだちに
あえてません
みんなとまたおしゃべりする
みくのおねがい
かなってません
かみさま
ごめんなさい
もう
おしゃべり
しません
みくを
おばかなみくを
ゆるして』
「……っ!!
堪忍袋の尾が切れた俺は、
「違う……!!
そうじゃないだろ、
俺は全身全霊で、俺の
「お前じゃない!!
お前は何一つ、間違っちゃいねぇ!!
お前は
そんな寝惚けた
『ママ』は今、どこに
今すぐ俺が、ぶっこ」
「
激情した
そんな俺を、シークが壁に抑え付け、
「
前々から思っていたが、お前は感情的
目先の、一瞬の衝動に踊らされ
今日は、取り分け、そうだ!」
「……でもっ!!」
反論しようとした俺を、シークは再び壁に押し付け、今度はクールに語る。
「……
お前は、
だったら、気付いてくれ。
その子は今、どんな顔をしてる?
どんな
「……え?」
シークに諭され、俺は
彼女は、こっちを見て、無言で呼び掛けていた。
『やめて』と。
『ママをころさないで』と。
「俺は……。
「そうだ。
『俺は
だったら……
彼女の心にも、お前の
「シーク……」
返事は要らない。態度で示せ。
そう、シークの目が語りかけた。
そして彼は、俺を離した。
俺は
彼女の心、彼女の直面した現実と向き合った。
「
間違ってたのは、兄ちゃんの方だ。
もう、あんな
それとな?
実は……
こういう時、俺の中の人間味とやらに、敬意を表したくなる。
「……ホント?」
「ああ。
でも、お兄ちゃん、
急に
だから、お兄ちゃんの世界にお招きしてたんだ」
「……パーティ?」
「そう。
パーティをしてるんだ。
ごめんな? 許して、くれるか?」
「……うん。
無事だって、分かったから」
「そっか。
ありがとな、
……その時だった。
いきなり、ブラック・アウトしたのは。
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