7(夏澄美side):灯羽(じなん)、夏澄美(にょにん)羽織り
得意分野も
親しまれる人格も
恋人や友達は
退屈で偏屈で鬱屈とした、兎に角、屈折に事欠かない人物だ。
家族仲だって、
父親は下心の塊だし、母親は小姑。
兄貴はガキ大将だし、弟はエリート。
反抗期に
唯一、心を許したのは、ペットのダックス。
正確には、
そのダックスは、
締めていた
餌も散歩もトイレも済んでるのに、寂しいからと叫んで呼び出して来るわ。
タイピングしていたキーボードの上に、寝転がって甘えて来るわ。
とまぁ、そんな具合だ。
というか、最後のは猫がする仕草ではないか。
その
小学生だった頃。
交差点で、横から走って来た、前方不注意の自転車に擦られ、足から血を流し、
職場が近所だったので、急いで駆け付け、手当してくれた祖父。
同じく小学生だった頃。
家族で釣りに行ったら、逆に釣られ、海に落ちてしまった時。
誰よりも早く気付き、
他にも、パチンコで当てたコンポや、お駄賃や小遣いをくれたりと、
そうやって絡む
そんな
決して、パン屋に住む魔女に当てられたのではない。
大体、あれは猫だ。
ジジのお
補足すれば、別に楽しくなった
そこで、次は『楽しみ』を見付ける
しかし、分からない。
自分が
断っておくが、女性は好きだ。
ただ昔から、花や宝石、占いが好きだったり。
大人になってからも、少年漫画よりTLの方が好みだったり。
そんな
そこで、男らしい物を漁った。
そうする
そうして行き着いたのが、PCゲームだ。
現実の人間に興味と好感の
同時並行で、下読みのアルバイトも始めた。
そうして、高卒と同時に、在宅ワーク可のゲーム会社に就職。
家に
仕事自体は嫌いではなかった自分が、少し意外だった。
問題なのは、そこからだった。
相変わらずクズガキの兄。
世間体の悪さ。
無くならない偏見。
真っ当な出世街道を邁進する弟への、嫉妬。
違法配信、割れ厨共の
脚本家やスクリプターが逃げた
職場のスキャンダル。
そんなストレスに見舞われる中、訪れた、最大の不幸。
それが、父親の左半身付随だった。
日頃の不摂生が祟ったらしい。
父は、ヒーローの
っても、創作の世界の出身とかではないし、過去に役者、スーアクとして出演していたんでもない。
ましてや、ローカルは
それでも、個人的には、紛れも
子供を思った結果、酒も煙草も
家族の為に、老体に鞭打って重労働に明け暮れ。
休みの日は決まって病院に通い。
息子に、多くのゲームをプレゼントし。
そうやって、なるべく家族が不自由しない
そんな父は、ある日、
見る影も
まるで、変身不能にでも陥ったかの
それは、理解している
かといって、「許容しろ」だなんて、簡単には行かない話だ。
常に松葉杖を付き、音を立てて歩き。
ドアを開けっ放しにして、トイレを済ませ(後にノブを紐で引っ張れる仕様にしたが、近くに誰もいないと、それで閉める
少し動く度に逐一、舌打ちし。
変更前の情報しか乗っていないメモを渡し。
何度、口で説明しても、「パスワードの必要、重要性」を理解せず億劫がり。
特にドン引きしたのが、未だに女性に興味津々、どこぞの世界の名医ばりに現役バリバリだった
居丈高に振る舞い、リハビリで訪れる女性の先生にデレデレし。
隙あらば、若い子を捕まえ、再婚しようとしていたり。
「一緒に暮らしてるんだから、
「ここまで育てて
そうバッシングされても、無理は
だが、しかし。
そんな、年甲斐の
それでも「適応しろ」という方が、
そこまで強いられ、虐げられ。
それでも、「前を向いて生きろ」と命令する現実に従う
残念ながら、素直ではなかった。
だから、自殺する
元々、エスカトロジーとかデストルドーとか、そういうのには惹かれる人種だった。
生きる上でのシンボルを失ったのだ。
ここらが、そろそろ潮時だろう。
そんなこんなで、ある日、死神からのメールが来て。
そこから紆余曲折を経て、
色々
今となっては、家族を
その
それに、気の多い父を適度に懲らしめる、
などと、言い訳めいた調子で自身に言い聞かせるも。
いざ、家の前に立つと、やはり不安が隠せない。
情けない
自分は、演技が不得意なのだ。
いつ、正体が露見されるともしれない。
もし、仮にそうなった場合の対策、打開策も
かといって、家族は心配だ。
弟や母、
父は、放ってはおけない。
自分が少しでも目を離せば、
というか今となっては、年齢的にも性格的にも、父の方が、女性受けが悪そうではないか。
なのに本人は、てんで
呆れて物も言えない。
自分を、ザ・ドリフター◯の一員とでも誤認しているのでもあるまいに。
体よりも、メンタルを直すべきだったか。
……最早、手遅れか。
自分とて所詮、同じ穴の
その興味対象が、3次元か2次元か。
共感を得られる方か、他者にとって無害か。
違うのは、それだけだ。
「おわっ」
などと玄関前で自嘲していると。
不意に、足元に、見慣れたダックスがやって来た。
性懲りも
いや。
そんな
「お前……分かるのか?」
念の
こっちは今、似ても似つかない別人に女装している。
多少なりとも勘付かれぬ
にも
ジジは出会い頭、一瞬で、見抜いて来たのだ。
これは、
「……さては
こっちが心配な
屈み、冗談めかしつつ、頭を軽く撫でる。
ジジは、「
どうやら、当てが外れた
じゃあ、
一言も発さず、面影も残さずに名前も性別も変え、ご自慢の嗅覚さえ無力化され。
その上で、見破って来たとか。
そんな、「奇跡」としか言い
こんな、ちょっと仲良くしてただけの、有り触れたダックスが?
「お前……エグいな」
今度ばかりは、素直に負けを認めよう。
まさか、こうもサクッと看破されるとは思わなんだ。
お
「これこれ、ジジ。
お客様にご迷惑だろ?
すみません、家の子が、とんだ失礼を。
それはそうと
飼い犬を
そんな、小遊◯みたいな振る舞いを、即座に止める母。
父の頬を抓り、ジジを抱えつつ、母はたおやかに
「すみません、
「お、俺か!?
ジジじゃなくて!」
「当然です。
いやはや、恥ずかしい。
「い、
こっちは、ずーっと、仕事一筋だったんだぞ!?」
「だからといって、
私の目の黒い内は断じて、
しかも、いつまで昔の話を引きずる
あなたが退職したのは、もう何年も前の話でしょう。
だらしない
「いーや、
俺は
「はっ。
そもそも今時、こんなダメ亭主を無償で引き取ってくれる寛大なお方が、どこに
「
「事実を言ったまででしょう」
「そこまで
「でしたら、普段からちゃんと節制してさえいれば済む話ではありませんか。
大体あなたという人は、いつもいつも」
……また始まった。
やっぱり、父の恋愛脳は、早急に調整すべきか。
「して。
あなたは、どちら様ですか?」
父を
何食わぬ顔で、母が尋ねる。
てか、頭から湯気出てるんだけど。
大丈夫かな、あれ。
死んでないよね? 父さん。
あ。指、ピクピクしてる。
大丈夫だな、多分。
「あ……。
えと……」
言い
慌ててキャッチすると、涼しい
「す、すみません。
普段は、ここまで
こんなに懐くのも、家の次男にだけだったんですが」
それを聞いて、得心した。
やはりジジにだけは、正体を見抜かれたらしい。
相変わらず、原因は不明だし、信じ
これは、好都合だ。
別に、父の
「でしたら、納得かもです。
一緒に暮らしてる内に、彼の匂いが、移ったのかも」
「まぁ。
あなた、
「彼女です。
今日は、彼の
改めまして、初めまして。
今後とも、
自己紹介前から手厚い歓迎、痛み入ります。
あと、これ。
良かったら、どうぞ。
「まぁまぁ、ご丁寧に、ありがとうございます。
そうとは知らず、ごめんなさいね。
いきなり、失礼を働いてしまって。
ささ、どうぞ、上がってください。
今、お菓子をご用意するので。
時に、
「はい。
大好物です」
「なら
いつ
振る舞ったのがあなたなら、
是非とも、召し上がって
「頂きます」
計算通り。
やっぱり、
まるで、オンゲーでもしているかの
「あら、お父さん。
そんなところで、
お客様の前ですよ。
ちょっと、この人を部屋まで運ぶの、手伝って
「任せてください。
お手の物なので」
「え?」
し、しまっ……!
つい、いつもの
「あー、いや、えっと、
ベロンベロンになった
「あら、そう?
ごめんなさいねぇ、親子揃ってご迷惑掛けちゃって。
にしても、
あの子、
「み、見栄を張りたかったんですよ、きっと!
彼女と宅飲みしている手前!
ほ、ほら!
そういう、
男の人って!」
「そうねぇ。
それはそうと、そっちお願いね」
「は、はーい!」
あ、危なっ……。
どうにか、免れたか……。
にしても、調子が悪いな。
やはり、実家だと気を抜いてしまいがちなのか。
もっと、引き締めないと。
父を寝室に運び終えた後、二人で。
時々、ジジも混ざって、
こうして、始まったのだ。
我が家の、新しい形が。
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