6:改名、改命
場所変わり、死神達の試験会場。
最終日の現在、
そんな緊迫した状況下で。
「……ご苦労」
この場には
中から溢れた光で仕上げを済ませ、
「
待たされた分、ハードルは上がりますよ?」
「早く食べてください。
冷めると勿体無い」
「ほう?」
シークの言葉を受け。
一見、
何か、
「分かりました。
して? あなた達の運命を画する、このスイーツの名前は?」
「はっ。
『バーシュ・ケーキ』でございます」
「はい?」
余計に、予想が出来なくなった。
どうやらシークの付けた造語らしいが、味も素材も、ネーミングまでの由来やプロセス、テーマや真意も不明瞭だった。
早速フォークとナイフで切り分け、敢えて内側を見ないまま、口に運ぶ。
瞬間……フリーズした。
ジャッジするには一口では足りなかったのだ。
スイーツを味わう心積もりだった
分かった
これはスイーツであって、スイーツではない
「ま……まさか……!?」
今度はスイッチを切り替え、メイン・ディッシュを堪能する気分で、実食に臨む。
すると、先程とは正反対に、今度は
この料理の魅力、そして素晴らしさを。
「ハン『バー』グ……。
それに、マッ『シュ』・ポテト……。
なるほど……それで、『バーシュ』ですか……」
「はい。
前に出、隠していた
そのまま、
そして、雷に似た衝撃を受け、思わずテーブルにナイフとフォークを落としてしまう。
有り得ないのだ。
ハンバーグの肉汁にマッシュ・ポテトの旨味。
そこにチーズや生クリームの甘さが見事に調和。
そこへ、ケチャップ成分が多めのデミグラスで
その
次から次へと味が姿を表し、それぞれに個性的な自己アピールを開始するも、それでいて一切の乱れも無くシンクロしている。
そんな徹頭徹尾、緻密に計算し尽くされた。
点数を付け評価する事さえ
「あぁ、あぁ……
よもや、この
涙さえ流しながら、
その後、三十分かけてホールを感触した
紙ナプキンで口を拭った彼女は、背後に立つシークに質問する。
「素晴らしい
クオリティだけなら、間違い無くトップです。
それで? なぜあなたは、この料理を?」
「はっ。
そう、判断したからです」
「ふむ。
詳しくお聞きしても?」
「はっ。
悪態を
彼は内側では、誰よりも命を欲しておりました。
私はこのケーキで、そんな彼の内面を再現しました。
彼の、生を欲する心を、肉に置き換えたのです。
思った通り、彼の人生の結晶である
「ええ、ええ。
大満足です。
よって」
席を立った
それに合わせ、
まるで最初から存在していなかった、生きてなどいなかったかの
こうして、この場の死神は、三体のみとなった。
「あなた達、
本日より、彼は
そして、名前は」
「……今のままで
「右に同じ。
こっちがリクエストした通りにして」
調理服から普段着に着替えたシークは、言動も戻す。
次いで少女も、その流れに乗る。
ダブルで連れない対応をされ、
「まぁ、
私は普段から寛大ですが、今は取り分け気分が良いのです。
許して差し上げます」
「どうも。
で?
あそこまで影武者を増やさずとも、良かったんじゃないか?」
「はて?
「
あんた、最初から、俺と
そうでなければ、調理にしか興味が無い俺が勝って生き残る
他の連中
そして何より、試験を受けてないあいつが、ここに死神として存在するのが何よりの証拠。
あんた、未来を見通して、知っていたんだろ?
「話が
それより、歓迎しようではありませんか。
新しく優秀な死神が、三体も増員された事を。
ねぇ、輝……ん?。
……えと……。
……すみません。
これ、何と読むんでしょう?」
「
ちょっと用事」
少女は要件だけ残し背中を向け、とっとと去った。
「やれやれ。
また妙な死神が生まれたものだ」
「まぁ、良しとしましょう。
それに、か……あの子なら、
それにしても……難儀ですねぇ」
「当然だろ。
たった3ヶ月で一人の人間の
まして
あれを一から百まで把握するなど、どれだけの制限時間を設けようと無謀、蛮勇でしかない。
例えるなら、宇宙の広さを定める
「その
せめて、宇宙にあまねく
まぁ……
もう少し、
ところで」
「趣味、『遺書の作成』『
おいおい……まだ飽き足りないのか」
「しかも、レイの話によると、
あの子が人間だった頃に」
「逆探知でもしているのではあるまいし……。
「おまけに、
確か、『死神と出会って人生やりなおした件』などという、残念なタイトルで。
まぁ、
これで
もしくは、人間社会に向けての忠告、挑戦状、復讐でしょうか?
それにしても」
面倒だったからか、ルビさえ振られていなかった箇所に、
「……
この名前」
「……さぁ?」
ひょっとしたら自分達は、死神よりも恐ろしい相手を
そんな、神の
※
「お、おい……。
あんた、誰なんだ?
俺達しか入れない
彼女は、あいつの遺品の扱いに迷っていた俺の前に現れ。
無言で、コントローラーを突き出した。
「……」
こうして俺達は、カスタムしたロボでバトルを繰り広げ……って!
初手から
出オチもいい所じゃねぇか!
「ザコめ」
「にいちかよ、
「ふーん。
「ったり前だろ
この3ヶ月、叩き込まれたからなぁ!」
「そうなんだ。
誰に?」
「お前にだよ、
立ち上がり、解答を叫ぶ。
そして、
また例の、
「え……?
な、
いや……それ以前に、
はっ……!
てか俺、今、お前をあいつだと……!?」
「魔法でロック、及び
一人称視点も含めてね」
「は!?」
うわ、マジだ、てんで言えねぇ!!
何これ、
「何、キンキンキンキンしてんの?
そんなに連呼しない方が良いよ?
ますます、
「誰が、銀河無敵の筋肉野郎だ!?
てか、お前!
「しょうがないじゃん。
だって、素直すぎるから
これ
ケーゴは」
「ーーえ?」
あいつが使ってた呼び方を。
あいつが呼んでた通りに、忠実に完全再現してみせた少女。
それだけじゃない。
この、
何もかもが、完璧に一致してる。
「お前……!!
まさか……!?」
「そっ。
っても、サポートもきちんとするけど。
死にたくないし」
「いや、名前!!
感動シーンが台無しだよ!」
「えー。
これでも分かり易くしたのにー。
てか、自分で『感動』とか、その方が下げる、冷めるっての。
ブロッコリーじゃあるまいし。
そして、良く分からん公式を書き始めた。
『 継花◯澄 プラミニ
薬王寺◯町 プリケー
蒼◯夏芽 ひとこい
姫ノ◯輝夜 ステシア
姫里◯ ラブパピ
西園寺◯璃 ヌレパラ
鹿苑寺◯おるこ ワガハイ
才城◯りん アリカニ
棗◯ キスアト
新倉◯美 あまなり
↓
「とまぁ、こういう
はいっ。授業、終わりまっす」
「いや、
これが
「はぁ? 見て分かるでしょ?
PCゲームのヒロイン達の中でもドタイプな、『黒髪ロング』『家庭的さ』『大きいの』を持った嫁達の名前だよ。
『ぼくのかんがえたさいきょうのひろいん』を体現したこの姿に、ぴったりでしょ?
っても一名、
黒髪ロングで大きいなら、それで
どうせ料理も掃除も洗濯も必要無いし。
楽で良いねぇ、死神ライフは。
てか、親切にタイトルまで書いてるのに気付かないとか、愚鈍だね」
「
正式名称、一つしか
最低限、順番通りにしやがれ!!
てか名前、長過ぎんだろ!
せめて、もっと縮めろ!
合体出来る所は省略しろ!」
「えー?
強キャラ感、薄まるじゃん」
「お前はヒロインに何を求めてんだよぉっ!?」
「煩い!
ダークストビュームダイナマイ◯食らわすぞぉっ!?」
その後、必死の説得の
いや、これ成功した? 縮まったって言えるのか?
「なぁ……そもそも、
「女装じゃない。バ美肉。
だって、その方がバランス
基本的にバックアップに専念する
もし
「確かにな。
で、
「女声でカラオケやアテレコ出来るから」
「そりゃ良い。
からの?」
「自由にエクスタシれるから」
「
んなこったろうと思ったわ、このPCゲーマー!!
死神の魔法を何(なん)だと思ってんだよ!?
てか、そんなにしたけりゃ、分身でも作れば
「分かってないなぁ、ケーゴは。
その方が空しくないし、視覚的にイタくないでしょ?
それに、自分と他者には、大なり小なり、明確な認識、理想、見解の相違、
それを一々、デバッグするのは煩わしいの」
「お前っ!!
自分の体をネタにするって
空前絶後のムッツリってだけだかんな!?
ちったぁ抵抗、示せやぁっ!
てか、
「一々変えるの、面倒。
あ、安心しな。
手を汚すのは自室の中だけだから。青は趣味じゃないし。
関智みたいな
「当ぁたり前だぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」
改めて胸張って言う
「
アーロンパークにでも殴り込もうっての?」
「の前にお前を、ゲームで
今日という今日は、容赦しねぇ!!
こっちが憂いてたってのに、台無しにしやがって!!
この、エグゼロスがぁぁぁぁぁっ!!
「そっちが勝手にやってたんでしょぉ?
まっ、良いよ。
そっちがその気なら、遊んであげるよ。
生涯をかけて」
ああだこうだ言いつつも、本当の所、俺は分かってる。
下ネタが苦手な俺に向けて、きちんと言葉を選んでくれてる、ストレートには言ってない
そして、
こいつは、そういう
……俺にとって、最高の相棒なんだって。
※
それから、約5年後。
俺にはシーク、
頼もしい
毎度毎度、苦戦は強いられるが、
ーーそう。
あの頃までは。
「あ……ああ……。
……あぁ……」
大音量を響かせる豪雨の中、傘も持たずに、レインコートも着ずに、俺は立ち尽くしていた。
そう……
どこまでも無力な、哀れな男への、殺意を。
「うわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」
これまで積み重ねて来た、
それらが単なるチュートリアル、ザコ敵に思える
俺の記憶の中でも殿堂入りレベルで最凶のラスボス。
そして最悪な黒歴史が近付いていた
あの頃の俺は、まだ知らなかった。
何一つ、知らなかったんだ。
いや……意図的に忘れていただけなのかもしれない。
俺は、紛れもなく死神。
偽善的に綺麗に繕ってるだけで、根本的には、世間一般的には、ただの大量殺人鬼でしかないんだと。
そう……あいつみたいに。
最後に語られるは、第3話。……いや。
第惨話である。
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