4:元・クズガキ兄貴に手向(たむ)く詞(うた)
「なぁ。
そろそろ機嫌、直してくんね?」
「誘拐犯。
大嘘
詐欺師。
ペテン師」
「いや、お前が連れてけったんだろが!
てか、後半、一緒じゃねぇか!」
「こっちは頼んでない。
しかも、結婚式場なんて……陰キャな引き籠もり
テストの最終日。
俺は
とある目的を達成する
「あ!
待ち合わせの相手の彼女は、式場の玄関にて俺達の姿を確認するや
そして、俺の隣を見て、ギョッとした。
「……何?
てか、誰? 彼女?
生意気。たかがケーゴの分際で」
「あ……あはは……。
ごめんなさい、
やっぱり私、帰ります。
数日前の私を仕留めて来るので」
「せめて『
お前まで物騒な発言、しないで!?」
「だってっ!
だって私、とんだお
てっきり、
信じていたからこそ、二つ返事で了承したのにっ!!
あ、あんな……あんな、あんなぁ!
……ぐすっ……。
うわぁぁぁぁぁんっ!!」
「だぁぁぁぁぁ!!
泣きたいのは、こっちだぁぁぁぁぁ!!
……うわぁぁぁぁぁんっ!!
どこで道を踏み間違えちまったんだよぉぉぉぉぉっ!!」
「……何?
この、見事なまでの類友、
その後、数分かけて互いに機嫌を直した。
その間、隙あらば逃げようとする
※
「改めまして。
俺の助手、
っても、未来のだし、俺も直接こうして顔合わせるのは初めてだけどな。
今まで、
「初めまして。
今日は、よろしくお願いします」
「……ん。
っても、何するのか知らんけど」
すっかりいつも通りに軌道修正に成功した
未来の俺、こんな出来た助手が
羨ましいなぁ、ちくしょう!
どうやってオトしたんだよ、おいっ!
てか俺、生存してんじゃん!
あーでも、あれか?
分岐した未来、つまりパラレルかもしれないのか?
「ん、んっ。
ガチで意気消沈し始める前に、そう俺は切り出し、
「バッチリです。
「は?
誰それ?
まさか、他にも女が
ハーレムじゃん」
「……それに関しては、未だに俺も
それより、とっとと行くぞ」
「そうですよ! ほら、行きますよ、か……
「は〜な〜せ〜!
そもそも、了承してな〜い!!」
ここに来ても煮え切らない態度を示す
それでもどうにか、会場に連れて行く
どうでも
初めて「!」使うのが、こんなシーンで
お前。
※
「何……これ……」
中に広がった光景に、息を呑む
こいつの目を奪っているのは、ゴージャスな装飾でも、人の多さでも、見てるだけでも美味そうな食事でも、ウエディングドレスを纏った花嫁でもなく……。
「ーーとも、は?」
そう。
花嫁の隣に居た花婿……彼の実兄、
そして、その横に立つ、父の
次男が帰って来たのを悟った四人は、
「お前……!!
今まで、どこに行ってたんだよ!!
「は、はぁ!?
知らない、知らない!
てか、聞きたいのは、こっち!
しかも、大袈裟!
本の3ヶ月じゃん!」
ハグから解放された
俺は
「ん、んんっ!
「
平成、31年でしょ?
しっかりしてくださいよ。
いつ何時も、私が付き添ってるとは限らないんですからぁ」
俺の横に居た
何この、可愛
過去に持ち帰りたい。
「さんじゅっ……はぁぁぁっ!?」
そう。今は、平成31年。
俺は確かに、未来の助手である
しかし、現代に彼女を呼んだのではない。
未来を調べた結果、彼女の存在、そして今日こうして行われる
「ケーゴ……!!
お前ぇっ……!!」
「
しかも家族から記憶、消してなかっただろ!?」
「おぉっと、いっけね、俺とした
つい、うっかり凡ミスっちまった。
次からは
悪ぃ、悪ぃ」
「こんのぉぉぉっ……!!」
が、後ろから迫って来た
「……
事情は良く分からないが。
お前が怒りの矛先を向けるべきは、その人じゃない。
俺だ」
勢い良く下げ
「……悪かった!!
散々、お前をぞんざいに扱って!!
お前に、父さんの面倒も、母さんからの用事も押し付けて!!
それでいて、
いつも、いつも、嘘ばっかで!!
今度こそ、嘘は
どうか、俺を……許してくれぇっ!!」
「ーーえ……」
……睨んだ通り。
確かに
おまけに、職場の同僚の家をハシゴし
見えを張る為に買っていた高級車を売り払うも、 捨て切れなかったプライドの高さで散財し。
その結果、数ヵ月は持つ筈だった貯金を数日で使い果たし、
死にかけた。
生きるのを
人間不信に陥った。
犯罪に手を染めかけた。
自殺未遂も図った。
そんな、心身共にボロボロの状態で。
信号無視により轢かれかけた子供を、最期の力を振り絞り助け。
その姉と親しくなり、やがて恋に落ちる。
最後の最後で
これまでの行いが、正しくなかったのだと。
自分は、間違っていたのだと。
彼女に支えられつつ、髪を坊主にし生まれ変わった彼は、改めて自分と向き合い。
天職に就き、伴侶も手に入れ。
そこまでして、やっと両親とも和解し再び家族となり。
そうやって、どうにか、今日この日を迎えたのだ。
「あっ……」
その辺りを、言葉を交わさずとも理解したのだろう。
放心状態から解けた
しかし、あと少しで勇気が出せない。
当然だ。
二十年近くもかけて出来た溝は、そう簡単には埋まらない。
「……
ギュッと、
「……ああ。
分かってる」
互いに、
そう判断した俺は再び時間を操り、
今のこいつに
※
「それでは、新郎様の弟、
どうぞ!」
「……え?」
瞬きを終えた
そう。
今まさに、彼はスピーチの直前だったのだ。
「こーら、
緊張すんなー!
失敗しても、リテイクさせてやっからよー!」
「そーですよー!
思いの丈、ありのまま全部、ぶつけてくださーい!」
俺と
緊張を解す
よもや、文字通りリテイクが可能だなんて、一人として思っていないだろう。
その額は、
きっと、悟った
この5年間に起こったストーリーを、俺が都合良く改変。
それにより、『
「……プロ大かよ。
はっ……上等」
開き直った
兄に。現実に。
そして何より……自分自身に。
「……
それが嘘偽り無い、正直な、真っ先に浮かんだ感想です」
ウェルカムだった会場の空気が、第一声から凍り付いた。
家族でさえ、焦っていた。
そんな中、俺と
熟知してるから。
こいつが、ただ爆弾だけぶち撒ける様な、最低最悪な
「子供の時から、兄とは不仲でした。
ゲーム機やテレビの争奪戦は頻繁だしり
晩飯の時には決まって口論して、でも毎回、暴力や暴論で打ち負かされて、泣かされて、ロフトに逃げて、その
そんな毎日を強いる兄貴が、この世で一番、嫌いでした。
……それだけじゃない。
上から目線な父親も。
何かと口煩い母親も。
兄弟で一人だけエリートな弟も、嫌いでした。
家族なんて……心底、嫌ってました。
でも」
司会者が止めに入ろうとしたタイミングで、
「そんな兄貴にも、多少なりとも良い所は
初代デジモ◯のアニメの第一話がやってる時に、始まったばかりのタイミングで教えてくれたり。
大学受験の時に、新しい靴を送ってくれたり。
アラバス◯でワニぶっとばす回だけ、読ませてくれたり。
祖母が入院した際、病院で待ってる時に、ジャン◯とコーラをくれたり。
スーツとか分からなくて困ってる時に、
蓋を無くして髭剃りを壊し掛けた時に、こっそり見付けてくれたり。
仕事で忙しくて墓掃除や大掃除が手伝えそうにない時に、『手伝わないなら、出てけっ!』って母親に脅されたのもあるけど、代わりにやってくれたり。
そういう、不器用だし
今度は両親、そして弟に視線を向け、
「他の三人も一緒です。
父は昔から、『先行投資』だと言いつつ、新しいゲームを一杯、くれました。
高校から大学までの七年間、送迎もしてくれました。
母は、喧嘩してる時でも決まって料理だけは作ってくれました。
ケータイの充電が切れて連絡が取れない時も、激怒しながらも、迎えに来てくれました。
弟は、正直あんまり敬ってくれなくって、どっちかってーと、年の離れた
勝手に部屋に入るわ、炬燵に隠れて悪戯するわ、人の漫画を勝手に持ってく上に巻数をバラバラにするか返さないわ、気付いたら二十歳で公務員になるとか、兄弟の中で一番、立派に社会人やってるリア充になってるわと……。
まぁ、逆恨みも含めれば気になる点は、はっきり言って枚挙に
一緒にゲームしたり、映画を見に行ったり、替え歌熱唱しながら帰ったり、風呂で馬鹿騒ぎしたり、二人で特撮に夢中になってたりと……改めて考えると、思い出ばかりで笑えて来ます。
口ではああだこうだと
こんなにも家族の
それでも
「……兄さん。
ごめん。
今まで、きちんと呼べなくて。
きちんと、兄と思ってなくて。
でも……もう、大丈夫だから。
もう、一人じゃないから。
これからは、こんな
それが、今の、こっちの……最高、最大、最強の願いです」
「……
彼の涙を、
俺が無言で、マイクを海音(かいと)に近付けた。
「『死にたい』とか、『生きてる意味無い』とか……
『こっちの気持ち、知ろうともしない
散々、無神経な事言って……傷付けて、すみませんでした。
何も分かってないのは、こっちの方でした。
これからは、きちんと自立します。
正直、『生きてんだ』って、胸張っては言えないけど……誰かの
誰かの支えに、笑顔への架け橋に、なってみせます。
上手くいかないのを、詰まらないのを、社会や誰かの
……
湿気させちゃって、すみません。
……どうか……。
……幸せに、なってください……」
それは
大橋◯弥さんの『ありがとう』。
それに合わせ、会場中が、手拍子で彼を後押しする。
「……っ!!」
覚悟を決めた
察した俺達は、
その後、
二人の新たな門出を、心からの笑顔で祝福するのだった。
そして、式を終えた
一人で静かに、幸せを噛み締めながら、その命を終え。
綺麗に透き通ったマリン・ブルーの、光り輝く
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