3:無糖(ブラック)コンビの微糖な日々

「は?

 何この神展開。

 しかもオープニングまで流すとか、激熱なんですけど。

 はい、次」  



 駄目ダメだった。  



巫山戯ふざけんなぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」

 リモコン扱いされたので、流石さすがにキレた。



 1ヶ月。

 この間に灯羽ともはは、睡眠も食事も必要ない体になった上で、趣味を満喫していた。

 にもかかわらず、飽き足らなかった。

 満足なんて、これっぽっちもしてくれなかった。

 モノクロな特撮をカラーにしたり、レトロなアニメを現代風にしたり、作画崩壊を直したり、原作準拠、あるいは完全にオリジナルなアニメを作ったり、4DXにしたり、あまつさえ未来の作品まで見せても、まだ心行かない。

 流石さすがに計算外だった。



「お前さぁ……これで本当ホントに、満足なのか?

 これが本当ホントに、お前が、死んでも叶えてしかったことなのか?」



 気を沈め、努めてクールにげる。

 灯羽ともはは、居心地いこごちが悪そうな顔色で目を逸らしてから、返す。



「……そうだよ。

 だったら、なに?」

「……」



 ……そーかい。

 完全に、白ばっくれようって腹かい。

 はっ……上等じゃねぇか。

「いや。

 なんでもない。

 悪かった。忘れてくれ」

「そ。

 だったら、早く続き見せてよ」



 俺はドカッと座り、魔法で再び、灯羽ともはに未来の特撮を見せる。

 あくまでも、納得した風を装って。



 俺が何を、いつ、どんな形で言った所で、こいつは本心を、仮面を割らない。

 本当ほんとうの胸のうちを、明かしてはくれない。

 悔しいが、今の俺だけじゃあ、こいつを完全に救うことは到底、かなわない。

 高石たかいし 灯羽ともはとは、それだけの難敵なのだ。


 

 だったら、これから俺が取るべき行動は一つ。

 こいつの余生、遊びに付き合いつつ、最終日……最後には笑顔で大往生を迎えられる。

 そう信じ、その為にひそかに作戦を練る事。



 それがこいつの命を、心を、人生を、未来を、最終的には、トータルでは救ってくれると信じて。





 ファミス◯の雪合戦。

 スーパーモンキーボー◯のモンキーファイ◯。

 じゃんけんシューティング。

 邪暗拳。

 パネポン。

 ゼノギア◯のバトリング。

 クラッシュ◯ンディクーカーニバルのタマたまやホッピンやタンクやレーサー。

 ルー◯のレース。

 エアライド。

 バトルドッジボー◯。

 コンパチカイザ◯。

 サターンボンバーマンファイ◯。

 二人対戦版(に改造した)ロックマ◯の格ゲーやエグ◯。

 大工の源さ◯。

 ドロンボ◯。

 スターフォック◯の棒回し(最後だけ、妙に難易度ヤバくね?)などなど。

 かくゲームを遊びまくった。



なんで実際、来てくれたの?」



 そのタイミングで、そんな疑問を突然、灯羽ともははポツリとこぼした。

 あまりに自然だったので、聞き逃しそうになった。



 ちなみに、現在はチョコ◯レーシングの真っ最中であるが。

 やつは8つのアビリティすべてを同時に有していやがる上、常にゲージが満タンである。

 さらに、こっちが選べるのは「はばたき」だけ。

 きたねぇ。



 灯羽ともはと出会って2ヶ月。

 打ち解けて来たのか、ようやく腹を割って、本題に触れられそうだ。



「……本音と建前。

 どっちがい?」

「言い繕えるもんなら繕ってみろ」

「分かった、真実を明かすわ」

「はっ。

 本当ホント、ちょろ……」



 上げたり下げたり、突き落としたり。

 一体こいつは、俺に何をして欲しいんだろうか……?

 などと思いつつも、俺は座りながらも姿勢を正し、後頭部を掻きつつ、げる。



 どうでもいいが、こいつは何発、メガフレ◯やガンブレー◯を使う気なんだ?

 辻斬りでもしたいんだろうか。



「言ったろ?

 産まれたばっかなんだよ、俺。

 自分がどうしたいのかも、なんために生きようとしてるのかも分からない。

 そもそも、死にたいのか生きたいのかさえ、本当ほんとうの所、不明だ。

 ただ、『死ぬ』って感覚が、死んだあとが不鮮明で、不正確で怖いから、それを出来できれば回避したくて。

 で、お前の元に現れた」

「別に、他の誰かでも良くない?

 なんで、こっちにこだわるの?」

「そりゃあお前……お前が断トツで、希亡きぼうしてたからだろ。

 じゃなきゃ、キャパ・オーバーになんてなりかけないしな」

「だったら、それだけ止めればかったじゃん。

 ルール違反だとか適当にだまして、黙らせるだけで事足りたんじゃない?」

「逆に聞くぞ?

 お前、それだけで大人しくなるような玉か?」

「んにゃ。

 むしろ、煽られたと受け取って、余計に火が点くね」

「ほれみろ。

 やっぱ、生約せいやくして正解だったんじゃねぇか。

 確かに、普通なやつ……希亡きぼうしゃって時点で大なり小なり普通じゃないんだが。

 比較的、普通に近いやつは厳重注意だけで解決するだろうが。

 お前に限っては、その類いではなかったんだよ。

 それに……」

「……それに?」



 幻界にてタックルで落とされ何度目かも分からない修理が完了した後(あと)、俺は二つの世界で動き出した。 



 シドさん、本当ホントさーせん。

 てか、そろそろ見切ろうよ、いくら積まれてんだよ。



「なんつーか、こう……不愉快だし、不可解なんだよ。

 あそこまで世界や誰かをヘイトしたまま、楽しいこととか思い出が追い越せなかったまま、死なれちゃ。

 もっと、こう……最期位《くらい》は、スッキリした気持ちでいてしいんだよ。

 そうじゃないのが、すげぇムカつく」

なんで?」

「そりゃそうだろ。

 こっちゃあ、自分から望んだわけでも、誰かが愛し合ったり、俺を、俺だけを求め期待した結果、生を受けたわけじゃないんだぜ?

 俺は他の百体くらいと同列の、不必要と分かればぐに切られるような、ちっぱけな存在なんだぜ?

 確かにいくつもの魔法は使えるが、逆に言えば、それだけだぞ?

 完全に自由に動けるわけじゃないし、いつ消されるかも分からないし、そもそもオーナーの地雷さえほとんつかめてない。

 そんな状況で、実際には支配下に置かれながら、せっせと働いてんだぜ?

 しかも、肝心の仕事内容が、美化しただけの殺人だぜ?

 役割を果たさないと自分の身が危険だからって、たまに投げ出したくなるよ、流石さすがに」

「……確かに。

 相当ブラックだよね。改めて考えると」



 ま、先頭走ってるくせに、こっちが走り出すと一々、遠距離魔法なり、ワープからのタックルなり仕掛けて来るお前も相当、ドス黒いと思うがな。

 ワンサイドは良くないなぁ。

 こっちは、意味も無く羽撃はばたく事しか許されないのに。



「だろぉ?

 だからこそ、思うんだよ。

 それが運命さだめ、使命、職務である以上、本当ほんとうに放棄するもりは無い。

 けど、それならせめて、希亡きぼうしゃも、周囲の人物も、なるべく笑顔のまま、死事しごとを終えたいなって」

「……あんた、本当ホントに死神?

 こっちより余程、人間らしいよ」

「だろうな。

 それが俺に与えられた武器だからな。

 とどのつまり、『人間味で親近感、信頼を勝ち取る』のが、どうやら俺のスタイル、スタンスらしい」

「……なる」



 こっちが一度もゴール出来ないまま、灯羽ともはは三度目の周回を終え、レース終了。

 灯羽ともはは、なおも俺の方を見ず画面を眺めたまま、語る。



「断言する。

 あんた、これから限りなく苦労するよ?

 確かに有利だろうけど、その分、不利でもある。

 あんた、思いっ切り他者に感情移入するタイプだろ?

 他人の気持ちになって思考し、苦悩するパターンだ。

 典型的な、損する側だ。

 死神ってだけで、うに茨の道なのに」

「……分かってる。

 でも、構わないさ。

 俺が追い詰められた分、誰かが早く、多く、長く笑顔になれるのなら。

 俺が行動する事で、重荷と過去を背負い、呪縛や未練を断ち切れるのなら、安いもんだ」

「……そ。

 本当ホント……変なやつ

「お前もな」



 軽口を叩き合いつつ、灯羽ともははポテチを食べる。

 三口目辺りに差し掛かった頃、食べるのを一旦、止めて、俺と灯羽ともはの間に置き、パーティー開けをした。

 依然として俺の方には一瞥いちべつもくれないが、開かれたのがお菓子の袋だけじゃないのを悟った俺は、笑顔でポテチを摘み始めた。



 思い返してみれば。

 その瞬間こそが、俺が初めての食事という行為を体験したシーンだった。

 まぁ……ポテチ作ったの、俺なんだけど。

 灯羽ともはに頼まれて、こいつの記憶を頼りに、魔法で。

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