第2生 ー高石 灯羽ー
1:死験(しけん)、開始
それは、長い長い旅、もしくは夢を終えた
丁度、そんな感覚だった。
気が付けば俺は、確かな視覚と触覚、そして実体を認識。
次いで、他にも俺と似た存在が立っている事を理解した。
が、他の誰もが一様に、何も無いのに前を見詰めており。
俺と違って、良く言えばクール、悪く言えば機械的なのが、気になった。
「な、なぁ……」
試しに俺は、隣に立つ男の肩に触れる。
しかし、相手は目もくれずに手を払い、何事も無かったかの
その流れが
これ以上、ショックを受けるのを避けるべく、それからは何もせず、俯いた。
ここまでの、何とも自然でスムーズな
……
ここは、どこだ?
この、試験でも始めるかの
生まれたばかりの俺が
いや……そんな事よりも……。
「俺は……誰だ?」
口に出す
誰も、答えてくれなかった。
この世に生を受けた時。
俺は、孤独だった。
※
まるで試験会場みたいな光景。
俺が抱いたその感想は、何も間違っていなかったらしい。
あれから何人か生まれ、煌びやかで厳かな部屋に、ざっと百体程度が生み出されたタイミングで製造が終了。
そこで、同じくゴージャスなドレスに見を包んだ女性が現れ、俺達に演技めいた調子で説明した。
「あなた達は死神です。
正確には、たった今、
そのオーラに、美しさから滲んだ
「あなた達には、これからトライアル・テストを受けて
テスト……
命の証である、名前を」
俺達の群れを抜けた
「もう、お分かりですよね?
名前を授かるという
つまり……このテストをクリア
それまで黙って聞いていたが、
当然だ。
突然、命を与えられ、その時には幾つかの言葉を知っていて。
だからこそ死神という、非現実的な言葉を理解しているのに、拒否反応は薄く。
そんな中で今度は、不合格なら、またあの、
動揺しない方が不自然である。
相変わらず笑顔を絶やさないまま、
彼女の話を聞き逃したくないからではない。
彼女が
「私を
期間は、3ヶ月。
チャンスは一度だけ。
キャンセルは己が命のドロップ・アウトも示します
先着順ではありませんが、早いに越した事はありませんし、
私があなた方を作ったのは、あくまで上質な
正々堂々、競い合ってください」
一気に話した彼女は、最後にパンと、手を叩いた。
開戦の合図だと分かったのは、数人が
「あらあら。
中々の判断力、適応力ですね。
話が早い子は好きですよ?」
気付けば、会場に残ったのは俺、そして
「あら?
あなたは行かないのですか?
辞退をご希望とあらば、この場で応えますが」
「……分からないんです。
俺は……自分の気持ちが」
両の
そんな態度が気に食わなかったのか、
「では、今回はキャンセルという
また次回、受験してください。
杖の先端の玉からピンク色の光が発生し、徐々に大きさを増して行く。
俺は、
あー……俺、死ぬんだ。
生まれた意味も、生きる理由も無いまま、名前すら貰えないまま、消えるんだ。
まるで最初から、存在していなかったみたいに。
「待て」
抵抗する気さえ起きないまま瞳を閉じていると、二人だけと思っていた空間に、何者かの声が聞こえた。
目を開けてみれば、そこにいたのは、
そいつは、俺と
「あんたも
こいつの個性が
ここで消すのは、早計と言う他無いだろ。
正々堂々と謳っておいて、不平等じゃあないか?」
「……ふっ」
杖の光、そしてステッキを消した
「それもそうですね。
分かりました。不問に付すとしましょう」
まるで答えを予測していた風に、男は何も答えず、振り返り俺を見た。
「大丈夫か?」
「あ……ああ。
と、思う……」
「そうか。ならば良かった」
一通りの確認を終えた
そんな中、俺は男に質問する。
「……あんた、言ったよな?
『俺に、個性ってのが有る』って。
それは
別に、個性という言葉自体が把握出来てない
俺が知りたいのは、俺の中に宿された個性その物だ。
そこら辺を取ってくれたのか、中々に
「『人間味』。
それが、お前の個性。
他の死神候補には無い、お前だけの武器だ」
「……人間味?」
「そうだ。
お前と同様、他の連中にも
才知に富んでいたり、情報収集に長けていたり、意志疎通が得意だったり、話術が優れていたりと、そういった具合にな。
そうして区別する事で時代、人間達の需要を計りたい
そして『
上質な
「じゃあ、俺が……。
俺だけが、あの中で浮いていたのは……?」
「お前の性格が、死神ではなく、人間寄りだからだろう。
他の連中は、職務を全うする
馴れ合いは良しとしないどころか、必要とさえ思わないだろう。
そんな風に設定されている」
その言葉が、とてもスッと入って来た。
正直、
けど。
「何ていうか……。
……悲しいな。それ」
「……かもしれん。
だが、仕方が無い。それが俺達、死神だ。
お前も覚えておけ。
お前がどれだけ人間に近しい存在であっても、お前は決して人間その物にはなれない。
こうして生きている内、転生でもしない限りはな。
だから、これからどの様な道、自由を選んだとしても、その一点だけは絶対に忘れるな。
まだ死にたくなければな」
「……」
正直、まだピンと来ない。
自分がどうしたいのかは
それでも、何となく分かるんだ。死ぬってのが、とても怖く、辛く、寂しく、ひたすら嫌な
「……分かった」
俺の返事に男は、無言で
他の死神や
「本題に入ろう。
俺と手を組まないか?」
「え?」
それまで余裕を見せていた男が、ここへ来て頭を掻いた。
大なり小なり、冷静さを欠いている
「俺には、『調理』の個性が付けられている。
料理はお手の物だ。
見合った
が、
有り体に言えば、てんで興味が無い」
「おい」
初めて、
こいつこそ、人間らしいのではないだろうか?
「そこでだ。
お前が
「お前、大して働いてなくね?」
「
俺とて向こう三ヶ月、何もしない
調理の才を有しても、現在の料理の知識を収集や、予行練習も必要だ。
その間、料理にだけ専念出来る。
勝率は上がる
逆に問うが。お前は
「うっ……」
そこを突かれると、弱る。
確かに、俺にはそんな力は無い。
加えて言うなら、身に付ける気力も湧かない。
なるほど……どうやら俺も、こいつを
「……
ルール違反って奴なんじゃ?」
「思い返してみろ。
合格出来るのは『一品』だけだが、『一体』だけとは、宣言してない。
つまり、『組んでも構わない』という事だ。
「……なぁ。
俺達は今、その
「案ずるな。
現に
まるで意に介していないのだ。
それに、
それなら問題無いだろう?」
不安に思い、俺は体を横にずらし、男の背後に隠れた
依然として微笑みを絶やさずにおり、ステッキも出していない。
つまり、攻撃、消滅対象ではないという事か?
「……らしいな。
乗った。あんたと組むよ。えと……」
「む? 名前か?
そうだな……『シーク』。
そう呼んでくれ」
「シーク?」
「フランス語で『砂糖』を意味する、『シュクレ』から取った。
俺は
これからは、そう名乗るとしよう。
効率上、コード・ネームが求められるだろう?」
「分かった。
じゃあ、シーク。よろしく、頼む」
「こちらこそ。
是非とも、最高の
俺達の明日の為に」
「最善は尽くすよ。
生まれたばっかで右も左も分かんねぇけど、少なくとも、あんたと話すっていう楽しみは見付けられたからな。
ちょっとスリリング過ぎるのが難点だが」
「
「過多過ぎて死ぬわ……」
「そうか。
ならば、他の相手を探すとしよう」
「いや、切り替え早ぇな、もっと悩めよ!?」
「大変、大変、大変っス〜!!」
俺達しか居ない空間に、不意に何者かがワープして来る。
しかし、着地に失敗し、床に頭をぶつける。
「レイ……あなたのドジは、一体いつになったら直るのですか?」
「レイ?」
「はいっス!
オペレーター担当で、主に
ゴーグルやタンクトップ、ジャケットを腰に巻いたミリタリー・スタイルなどなど、どっからどう見ても発明家の女なのだが。
実際には情報分析の担当らしい。見えねー。
てか、随っ分、元気だなぁ。これで死神か。
てか、そろそろ立てよ。顔だけ上げて会話すんな。
「で?
何が大変なんだ?」
「それっス、シークさん!
大変なんスよ、
勢い良く立ち上がり、意味もなく腕を振りつつ、レイは必死に訴えた。
「ご冗談を。
人間世界で言う所の、一万字まで入力出来る仕様にしたのは、他でもないあなたではありませんか」
「そうっス、そうなんス、
でも、相手がヤバいんスよ!
果てには、更に文字を叩き込める
未曾有
人間業じゃなさ
何なんスか、あの人間は!?
怖いし気味が悪いしムカつくっスよぉ!!」
「……知らん」
シークの感想も
確かに俺達は、レイが作ったシステムがどんな物か詳しくは知らないし、現場に居合わせた
よって、その凄(すご)さが今一、掴めない。
「知らんじゃないっスよ!
このままだと、
下手すれば、死神存続の危機っス!
死活問題っス!」
「……え?
そんなにヤバいの?」
確かに、緊急事態だ。手を打った方が良いかもしれない。
「すんません。
俺、ちょっと
「おい。
そんな事をしてる場合か?
試験中だぞ?」
「分かってる。
でも、仲間のピンチは見逃せっかよ。
それに」
未だに表情を変えない
「『
好都合じゃねぇか。
そいつも、
ここまで捻くれた
「……やれやれ。
やはり俺は、組む相手を間違えたらしい」
「だが、乗りかかった船だ。
今更、解消する
何より……複雑だが俺も、お前と同意見だ。
苦労は必至だがな」
「助けてくれるんスね!?
あざっス!
早速、座標を特定するっス!」
言うとレイは、周囲にポップを展開し、慌ただしく操作する。
「悪いが、俺は付き合わん。
先程も言った通り、勉強したいのでな。
だが、相談
いつでも、連絡しろ。
武運を祈る」
「分ぁってるって。
なるべく俺だけで、どうにかしてみる」
必要最低限のやり取りを終え、シークと拳を突き合わせた俺は、レイの設定したポイントへと、ワープした。
そして、辿り着いた。後に俺と、切っても切れない関係を持つ事になる人間……
俺が初めて受け持つ、
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