7:天良寺 睛子の凱旋

「お兄ちゃーん。

 ボールー」

 庭で両親と遊ぶ少女を見ていた俺は、彼女がボールをこちらの方に飛ばしてしまうのを見ると、ぐにキャッチし、少女に返した。



「ほら。

 今度は、気を付けろよ?

 俺だったから、何も起こらずに済んだんだからな?」

「はーい♪

 優しいお兄ちゃん、ありがとー♪」

 ボールを手渡しされた少女、甘城あまぎ 守晴すばるは、走って両親の元に向かう。

 どうやら、俺のありがたーい言葉は、もう忘れてしまったらしい。



「ロリコン」

「だから、違うってんだろ!」

 ジャングル・ジムに体を預けつつ、絶賛トランス・ミッション中の夏澄美かすみにツッコむ。



「てか、今日からだっけか? 新しい使用人。

 ったく……結局、最後の最後まで、教えて貰えなかった。

 睛子しょうこさんの事」

「別に、分かる必要が無いから。

 だってケーゴ、もう知ってるし」

「あぁ?

 そりゃ一体、どういう意味だ」



「こういう意味ですよ。

 憩吾けいごさん」

 ふと、春風と桜に乗って運ばれた、甘く優しく綺麗な声に、俺は心を打たれ、撃たれた。



「ーーえ?」



 突如、俺の目の前に現れた彼女は、生前むかしと同じ笑みを浮かべつつ、俺の口元に人差し指を当て、甘城あまぎ一家の元に向かう。

 結果、靖治のぶはるさんと清花さやかさんは、俺と同じようなリアクションを取った。



「?

 お姉ちゃん、だーれー?」

 唯一、この場で彼女を知らなかった守晴すばるが、もっともな疑問を口にする。

 女性は、親しみ易い笑顔を維持しながら、スカートを隠しつつ屈み、守晴すばると同じ目線になって答える。



「今日から、新しく守晴すばるちゃんの家族になる、お姉ちゃん……かな?

 よろしくね?」

「?

 うん♪ 宜(よろ)しくー♪」

 よく分からないまま、彼女を受け入れる守晴すばる

 守晴すばるの頭を優しく撫でると、彼女は両親と向き合い、挨拶をする。



「初めまして。そして、改めまして。

 今日から、そちらの使用人となります、天良寺てんりょうじ 睛子しょうこ……いえ。

 甘城あまぎ 静空しずくです」



 俺達の前に現れた女性ーーあの頃より大人びた姿をした静空しずくは、そう名乗って、微笑ほほえんだ。



「しず……く……?」

「……静空しずくぅっ!!」 

 さき静空しずくを抱き寄せ、涙する清花さやかさん。

 ややラグってから、靖治のぶはるさんも続く。

なんで!?

 なんで、静空しずくがっ!?」



「理由は簡単。

 その子、ずーっと使用人だったの。

 熟生じゅくせいしてからタイム・リープして、何度も何度も、手を変え品を変え、ついでに名前も姿も職歴も変えて、甘城あまぎ家に仕えてながら、過去の自分、当時の自分しずくを助けてたってわけ

 だから、好きに姿を変えられるし、どでかい屋敷の掃除も一人まほうで担えてた。

 そうすることで、なん世代にも渡って、生約せいやくの必要も無いまま、豊かに熟生じゅくせいされた命をいくつも育てる。

 それが死神、熟生じゅくせいはんとして生まれ変わった、静空しずく死事しごと、使命だよ。

 ちなみに、睛子しょうこさんが静空しずくの最期に居合わせなかったのは、静空じぶんの死ぬ所なんて見たくないから。

 あと、タイム・パラドックスの心配とか、無いから。

 SFじゃなくてファンタジーだし、そもそも人間の常識、理解の範疇なんてうに超えてる存在だし」



 甘城あまぎ家の前まで歩み寄った夏澄美かすみが、長々と、詳細を明かした。



 つまり、その……なんだ?



「お前……さては、最初っから?」

「知ってたよ。当然じゃん。

 でも、それをケーゴに教えちゃうと面倒だから、黙ってた」

「予想通りだよ、このカス美!

 何もかも、お前のシナリオ通りだったって事かぁぁぁぁぁっ!?」

「そ。い出来映えだったでしょ?

 何せ、五分もかけて作ったし」

「短っ!?

 ちょぉぉぉ短っ!?」



 五・分!?

 俺が十ヶ月にも渡って苦労し、慣れない彼氏役も勤めて、タイム・トラベルまでしたってのに!?



っさいなぁ。

 いだろ、別に。

 その分、気ぃ遣って、五年後まで一気に送ってやったんだから」 

「道理で、がらにもねぇ真似マネすんなぁと思ったよ!

 静空しずくぅぅぅぅぅっ!!

 あんたも、あんただ!!

 そうならそうと、早く言えよぉっ!!」

「ごめんなさい、憩吾けいごさん。

 熟生じゅくせいした後に夏澄美かすみちゃんに稽古付けて貰ったり、メイドしてたり、友達と遊び捲ってたら結構、忙しくって、忘れてました♪

 あと、まだ生きてた頃の私に、全力で余生を満喫して欲しくて♪

 てへっ♪」

「許すっ!!

 全力で、許ぅぅぅぅぅすっ!!」



 だって、仕方しかたいじゃん!!

 可愛いんだもん!!



「男って、本当ホント馬鹿……」

「お ま え が ゆ う な」

 何ちゃっかり、そっち側に行ってやがる!?

 偽装してるくせに!!



「じゃあ……じゃあ、これからも……」

「一緒に居てくれるのか!?

 静空しずくっ!!」

勿論もちろん

 て言っても、弟や妹に気付かれると不味まずいから、正体は伏せるし、今まで通り、姿や名前をカモフラージュするし。

 そもそも、もう私、人間じゃないし、魔法を使わないと、年も取れないけど……。

 それでも、い?」



なんだっていさ!!

 静空しずくが帰って来てくれただけで、僥倖だっ!!

 おかえり、静空しずく!!」

「ええ!!

 おかえりなさい、静空しずく!!」

「んー?

 良く分かんないけど、おかえりー♪ お姉ちゃん♪」

「おかえり、静空しずく

 全員が彼女を迎え入れ、まだ続いていない俺に視線を浴びせた。



 揃いも揃って、順応性の高い方々ですこと!!



憩吾けいごさん。

 あのぉ……」

「……あー、ったく。

 分ぁってんよぉ」

 ボサボサと頭を掻いてから、まだ完全に納得してはいないものの、俺は精一杯、思いを乗せて言った。



「おかえり、静空しずく

 色々、言いたい事は有っけど、それ以上に……。

 また会えて、素直にうれしいよ」



 ブスッとしつつ俺が告げると、静空しずくは晴れやかな笑んで、返した。



「……ただいまっ!!

 そして……これからも、よろしくっ!!」





 とまぁ。

 甘城あまぎ 静空しずくに纏わるomni-Birthオムニバスは、これにて完了。



 最後にサプライズは有ったが、それ以外は俺のプラン通り、順調に進んだ。 



 のはいとして。



「あーっ!!

 夏澄美かすみちゃん、また七連射マシンガン使ってるー!

 狡〜い!」

仕方しかたいだろー? そういう仕様なんだから。

 って、こらぁぁぁぁぁっ!! 全体攻撃ウッキーレッ◯は反則でしょぉっ!?

 お母さんかっ!」

仕方しかたいじゃないですかー。

 そういう仕様なんだからー」

「こうなったら……リアル擽り攻撃だぁぁぁっ!!」

「きゃぁっ!

 夏澄美かすみちゃんの、エッチィッ!!」

「いや、何してんだよ、静空しずく、あんたぁぁぁぁぁっ!?」



 何、メイド服来た状態で、サルバト〜◯に興じてんだよ、あんたっ!?



「えー?

 だって、仕事は魔法でぐ終わっちゃうし、睡眠の必要も無いので、深夜は暇ですしー」

ようは、住み込み先のメインはこっちって事だな!?

 で!? その格好の意味は!?」

「単純に、憩吾けいごくんが喜ぶかなーって」

「甚だ眼福ですご馳走様です本当にありがとうございますぅぅぅぅぅっ!!」



 ……仕方しかたいんだ。

 俺だって、男だもん。



本当ホント……男って、どうしよもなっ」

「だから、お前が言うな」

「ふっふーん……夏澄美かすみちゃん、隙有りぃぃぃっ♪」

「ぎゃぁぁぁっ!!

 どこ触ってんのぉぉぉっ!?」

「……」



 神様、仏様、命王めいおう様。お願いですから、お教えください。

 俺は一体、いつになったら、もっとクールに、スタイリッシュに、楽に、死事しごとを全う出来るようになるのでしょうか……?



「無理だよ。永遠に」

「です♪

 何たって、憩吾けいごくんですから♪」

「死神ってより、『しにガキ』って感じだし」

「確かに!

 でも、少し荒っぽいですねぇ」 

「じゃあ、『die-early《ダイアリー》』ってのは?

 造語だけど、『早熟アーリー死神ダイ』って感じで。

 正確には、死神ダイじゃなくて、死神デスだけど」

いですね♪

 憩吾けいごくん、唯一無二の死神さんですし!

 じゃあ、今日から憩吾けいごくんは、死神改め死ガキダイアリーで♪」

「心を読むな、勝手に話を進めんな、あれこれ決めんなぁぁぁぁぁっ!!」



 どうやら、俺と静空しずくとの繋がりは到底、切れそうに無いらしい。 



「ところで、なんで『くん』付け?」

「この方が、憩吾けいごくんが喜ぶかなぁって」

「採用&最高ぉぉぉぉぉっ!!」

「やたっ♪」

「……スマブ◯すっぞ、ケーゴ。

 お前、サンドバッ◯くんな?」

「せめてプレイアブルにしろっ!!」

っさい、くたばれ、このリア充!!」

「死にませんー。

 死神ですから、死にませんー」

「予定変更。

 究極鶏◯な。お前、ハンデマシマシで」

「ちったぁゲームクリエイターのプライド保て、おらぁ!!」

「あ。じゃあ私、衣装選びますねー♪」



 ……本当ほんとうに、大丈夫なのかな?

 こんな調子で、死神とか、出来できるのかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る